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役立たずと婚約破棄されたので、森で最強の聖獣たちと「もふもふカフェ」をはじめました  作者: 九葉(くずは)


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3/12

第3話:もふもふハウス、爆誕

決意したのはいいけれど、現実は厳しい。

空を見上げると、木々の隙間から見える空が茜色に染まり始めていた。


夜が来る。

森の夜は冷える。

それに、いくら動物たちが友好的でも、雨風を凌ぐ場所がなければ生きていけない。


「困ったわね……。今日は木の根元で寝るしかないかしら」


私が独り言を漏らすと、隣に座っていた巨大な狼が立ち上がった。

彼は私の顔を覗き込み、安心させるように「わふっ」と短く鳴く。


「どうしたの?」


狼は私のスカートの裾を軽く噛んで引っ張った。

ついて来い、と言っているようだ。

私は彼に従い、少し開けた広場へと移動した。


狼は広場の中央で立ち止まると、空に向かって長く遠吠えをした。


「ワオォォォォーン!」


空気がビリビリと震える。

すると、信じられないことが起きた。


森の奥から、無数の動物たちが現れた。

熊、鹿、リス、そして見たこともない不思議な生き物たち。

彼らは一斉に動き出す。


熊が太い倒木を軽々と担ぎ上げた。

鋭い鎌のような腕を持つカマキリの化け物――いえ、大きな虫が、その倒木を一瞬で製材していく。

スパパン、と心地よい音が響き、あっという間に綺麗な板が出来上がった。


「え……?」


私は目を疑った。

これは現実だろうか。


さらに驚くべき光景が続く。

リスたちが蔦を編んでロープを作り、鳥たちがそれを空高く運ぶ。

私の肩に乗っていた翼のあるトカゲが、積み上がった木材に向かって「プッ」と息を吐いた。

すると、その炎で木材の表面が軽く炙られ、乾燥と防腐処理が施されていく。


極めつけは、私の相棒である狼だ。

彼が前足を振り下ろすと、地面から氷の柱が突き出し、それが家の土台となった。

杭を打つ必要すらない。


「すごい……! あなたたち、大工さんだったの?」


私の的外れな称賛に、狼は得意げに鼻を鳴らした。

彼らの作業は洗練されており、迷いがない。

まるで熟練の職人集団だ。


日が沈みきる前に、広場には立派なログハウスが出現した。

丸太を組んだ頑丈な壁。

苔を敷き詰めた断熱性の高い屋根。

窓枠には、透明度の高い結晶がはめ込まれている。


王都の別荘よりも立派かもしれない。


狼が「入れ」とばかりに鼻先でドアを押した。

中に入ると、木の香りがふわりと漂う。

家具こそないが、床にはふかふかの毛皮――おそらく彼らが持ち寄った抜け毛や植物の繊維で作ったもの――が敷き詰められていた。


「ありがとう……! 夢みたいだわ」


私は感極まって、狼の首に抱きついた。

彼は尻尾をブンブンと振って応える。

この子には名前が必要だ。


「貴方の名前、ルルにするわね。色が真珠ルルみたいに綺麗だから」


巨大な狼に可愛すぎる名前かもしれない。

でも、彼は気に入ったのか、嬉しそうに私の頬を舐めた。


「それから、貴方はごんぞうね」


肩に乗っていたトカゲを見ると、なんとなく古風な名前が浮かんだ。

トカゲ――ごんぞうは、不満げに「キュウ」と鳴いたが、すぐに私の耳たぶを甘噛みして承諾の意を示した。


「みゃあ」


足元で鳴き声がして見下ろすと、猫のような精霊が大きな葉っぱを差し出してきた。

中には、瑞々しい木の実や、蜜の詰まった果物が山盛りにされている。

別のリスは、竹筒に入った湧き水を持ってきてくれた。


「食事まで用意してくれるの?」


一口かじると、濃厚な甘みが口いっぱいに広がった。

王宮で食べたどのデザートよりも美味しい。

疲れが一気に吹き飛ぶようだ。


私は毛皮の絨毯に座り込み、ルルに背中を預けた。

ごんぞうは私の膝の上で丸まり、天然の湯たんぽになっている。

窓の外では、蛍のような光が舞い、天然のイルミネーションを演出していた。


なんて快適なのだろう。

王都では、冷たい食事と嘲笑しかなかった。

広い屋敷にいても、居場所なんてどこにもなかった。


けれど、ここは違う。

温かくて、美味しくて、優しさに満ちている。


「……もう、絶対に帰らないから」


私はルルの毛並みに顔を埋め、固く誓った。

カイル殿下が何と言おうと、ここが私の家だ。

この最高のもふもふライフを、誰にも邪魔させはしない。


満腹感と安心感に包まれ、私は深い眠りへと落ちていった。

翌朝、とんでもない訪問者が現れることなど知る由もなく。

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