祠の声
大学のオカルト研究サークルに所属している俺たちは、夏休みに「心霊スポット配信」を企画した。
舞台に選んだのは、俺の故郷の村にある古い祠だ。子どもの頃から「夜に行くな、声を聞くな」と言われ続けた場所。正直気が進まなかったが、田舎出身の俺が案内役を務めるのが一番盛り上がると、メンバーの徹と裕介に押し切られた。
日が暮れてから三人で山道を登り、スマホを三台同時にライブ配信につないだ。視聴者は百人ほど。コメント欄には「田舎感すげえ」「ガチで怖そう」と茶化す書き込みが流れる。
やがて、苔むした石段の先に祠が現れた。木は朽ちて傾き、扉は板で打ち付けられている。だが注連縄だけは新しく巻き直されており、誰かが今も管理しているのがわかる。
「これが例の祠です」
俺がカメラに向かって説明すると、徹が笑いながら近づいた。
「板外したらバズるんじゃね?」
コメント欄が「やれやれ!」「フラグ立ったw」と盛り上がる。
その時だった。
スマホのマイクが、はっきりと拾ったのだ。
「……さむい……」
女とも男ともつかぬ低い声。三人とも一瞬動きを止めた。
「今、聞こえた?」
裕介が震える声で言う。配信のコメント欄は一斉に荒れた。
《今、声したよな?》《ガチでヤバい》
俺たちは慌てて石段を駆け下りた。背後から、誰かがついてくるような足音が聞こえる気がした。
その夜、宿に戻って録画を確認した。確かに「さむい」という声が入っている。背筋が凍る一方で、徹は「最高にウケてるじゃん」と興奮していた。
だが翌朝、徹の姿が消えた。
部屋に荷物は残され、スマホだけが布団の上に置かれていた。画面には深夜三時に撮られた短い動画が残っていた。
映っていたのは祠の前。徹が自撮り棒を構え、カメラに向かって笑っている。背後から低い声が重なった。
「……ひとり」
次の瞬間、映像は途切れていた。
裕介は怯えきり、帰ろうと主張した。だが俺は「徹を置いていけない」と言い張り、もう一度山へ向かった。視聴者に助けを求めるように配信をつけたまま。
夜の祠は静まり返っていた。スマホのライトが照らす板の隙間から、中に湿った暗闇が覗いている。
その奥から、再び声がした。
「……ふたり」
その瞬間、裕介が悲鳴を上げて逃げ出した。俺は必死で後を追うが、林の中で見失った。配信画面には視聴者のコメントが流れ続けていた。
《後ろ!》《今、白い手が映った》
宿に戻っても裕介は帰らなかった。俺一人が残された。
深夜、布団の中で震えていると、スマホが勝手に起動した。録音アプリが作動し、誰かの声が再生された。
「……つぎは、きみ」
同時に通知音が鳴った。配信アカウントに匿名の動画が投稿されていたのだ。
再生すると、祠の前に三人の人影が立っていた。徹と裕介、そして知らない誰か。青白い顔を並べ、同じ声で囁いていた。
「……さむい……」
俺はスマホを取り落とした。だが画面は消えず、動画の人物たちがゆっくりとこちらに顔を向けた。
次の瞬間、宿の障子がコツ、と鳴った。
日本、世界の名作恐怖小説をオーディオブック化して投稿したりもしています。
画面はスマホサイズで見やすいと思います。
良ければ覗いてください。
https://youtu.be/YPxvLTcWz04?si=HGAmtIVdKSchEue8
よろしくお願いします。




