体育祭
夏希だと日高明奈に犯人見つけると恩売って、吹石先生は楊世の事で脅すとか泥臭いやり方しか浮かばなかったが、
王麗明の案はとにかくスムーズでなんか美しい。
その上、応援団長の問題までクリアしてくれた。
さすが冥府の王ハデス。
邪魔な両親を殺さなかったのも相続の問題らしい。
病院で寝たきりが都合が良いそうだ。
楊世は応援を熱心に練習し、メンバーを思いやり
団長を遂行してくれている。
日高明奈の優等生キャラが霞むくらい楊世の清廉さが際立っている。
まあ、清も濁も極めるのは「変態」なのかもしれない…
体育祭当日になった。
夏希は初めて椅子に座らず、クラスの先頭で学ラン鉢巻きで応援している。
「すみません。体育祭、午前中しか参加出来なくて。」
吹石先生に謝るとなんか顔色が悪い。
「仕方ないよ。犯人が分かるんだし。」と納得してくれた。
日高さんも何か言いたそうだ。
「どうしたの?」夏希が聞く。
「あの…ありがとう。私があんな事言ったせいだね。」
なんか感謝されてる!
夏希は王に言われた通りやってるだけだが、好感度が上がってるぞ!
「楊世君って、本当に純粋で真っ直ぐでビックリするよね。自分の汚さが分かるよ…」日高さんが目を伏せる。
良く分かる。夏希はあまりの眩しさにオカルト倶楽部作ったくらいだし。
お昼休憩に入った。楊世とサキが来てくれたので夏希はバトンタッチする。
さあ、いよいよだ。
夏希は更衣室で着替えて学校エントランスに向かう。
埋め立て地に造られた新設校で首都大の大学院も併設されてる為か?
とにかく豪華絢爛なエントランスだ。
サモトラケのニケ像が原寸大でルーブル美術館のダリュの階段を模した踊り場に飾られている。
この大階段を降りれば下駄箱だ。
職員室を脇目に階段へ向かう。と階段を降りかけた瞬間スゴい力で背中を押された。
思わず踊り場まで一気に落ちたがヒロがサモトラケのニケ像の後ろから出てきて夏希の身体を留めた。
そして、一気に踊り場を駆け上がり走り抜け犯人を床に押さえつけた。
「ちがう!ちがう!私じゃない!」吹石美香がヒロに床に伏せられて叫んでいた。
昼休憩なので、生徒も先生達も集まってくる。
「先生が古舘さんをダリュ階段で突き落としたんだって」目撃者も多かった。
「急に吹石先生が職員室飛び出すからビックリしたわ〜」先生達も、口々に話す。
「あの子ばっかりズルいじゃない!ちょっとイジメてやろうと思ったのよ!
裏垢で日高さんのフリすれば、皆も加勢してくれる。面白くて止められなかったのよ!」
白状したところでヒロが少し手を緩めた。
すると、吹石美香はそのまま走って逃げてしまった。
ヒロが追おうとしたが夏希が止めた。
「どうせ逃げようが無いよ。現行犯だし。それに…」
言葉を濁した。
応援合戦は楊世の桃太郎伝説を作ったようだ。
体育祭は滞りなく終わった。
が、吹石先生は見つからなかった。
「痛いよ〜」階段を落ちた時、頭を守って肘をついたから赤く腫れてる。そこに楊世が湿布を貼ってくれるが手荒い。
「なんだよ!この作戦!
結局また夏希が危なかったじゃないか!」楊世が怒ってる。
「でも、全部自分で吐いてくれたし一気に片付いたじゃん。
車道よりは踊り場あるしマシだったよ。
ヒロがそれ以上落ちないように止めてくれたし。
サッカーで鍛えた足は本物だったよ!」
夏希はヒロの早さに驚いた。吹石先生を階段から3mの辺りでもう抑え込んでた。
王麗明は洋館でも人の使い方が鮮やかだった、悪い方に。
夏希が密かに憧れるモリャーティー教授みたいだ。
吹石先生があそこまで精神的に追い込まれているとは全然気付かなかった。