作戦
結構王麗明の作戦はシンプルだった。
まず『日高明奈には自分でアプローチしなくて良い。
担任の吹石を動かせば日高は動く。
そのうえで盤の配置は自分が取る。』作戦
良く分からないが言われたように実行する事に。
先生に援団の備品の場所を教えて貰う時、ちょうど体育館倉庫に2人だけになった。
そこで、携帯のスクショを見せて、
「日高さんに聞いたら、これは自分のニセモノだと言ってました。
私の机の落書きはこの裏垢のせいだと思います。
実害が出てきたので弁護士事務所で、書き込んだ人間の情報開示を求めても通るだろうと言われたので請求する事にしました。」
教えられた通り夏希は話してみる。
「そうだったのね。知らなかったわ。
確かに日高さんがそんな事するとは思えないものね。」吹石先生の表情からでは分からない。
「それで応援団長なんですが、体育祭までそんなに参加できそうにないんですが、日高さんに代わって貰えないでしょうか?」
先生に頼むと日高さんから話が来た。
「私も関係してるし手伝いたいんだけど、文化祭の責任者なのよね。
まだ11月まで時間はあるけど、さすがに負担が…」と難色を示す。
これも王麗明の思惑通りらしい。
「あっ、それは知ってるから!
私が演舞の内容とか衣装とかは決めるし。
サキが振り付けと指導してくれるし。
それで練習に、参加出来ない時は楊世が代理でやってくれるから。」夏希があくまで仕切る。
「楊世くんが?」日高明奈が驚く。
「他クラスだけど、彼らは自分クラスの援団じゃないから問題ないと先生が言ってたから。
で、申し訳ないけど日高さんは演舞のメンバーになって欲しいの?良いかな?
他にもやりたい子いたら一緒にお願いできる?」と頼んだ。
初日さっそく夏希は弁護士事務所へ行くので、サキが振り付けで
楊世と日高さんと後数人の女子が参加したのを見届けて夏希はその場を去る。
これが『盤の配置は自分が取る。』と言うことらしい。
ここまでしたら、後は隠さず職員室で弁護士事務所の話をしてよいと言われた。
演舞の練習は夏希は週2くらいで。
実質、楊世がメインで練習している。
日高さんから噂を聞いてメンバーがどんどん増えた。
日高さん自身もやっと楊世と1対1で話せて嬉しかったようだ。
ところで開示請求の話は嘘だ。
実は夏希はサボって帰宅してる。
どんどん体育祭は近付いた。
夏希は、王から来たメール通り吹石先生に報告すれば良い。
練習は楊世が学ランにタスキ白手袋に頭に鉢巻きで本当に桃太郎の様だと噂になった。
サキが従来の演舞にダンスの要素も入れたので、かなり斬新だ。
「ねっ、プロバイダーはいつ開示してくれるの?」吹石先生が廊下で聞いてきた。
「はい、ちょうど1週間後ぐらいに事務所へ書面が送られてくるそうです。
体育祭とぶつかりそうなんですよね。」夏希はワザと困った振りをする。
「まあ楊世くんも頑張ってくれてるし、古舘さんも踊れるようには準備してるし、本番はどっちでも大丈夫でしょ。
それより、どこの事務所にお願いしてるの?
いつも月島駅の方帰るのに、事務所行く日は勝どき駅の方へ帰るよね?」吹石先生はチェックしているようだ。
夏希は辺りをうかがい警戒してるポーズを取る。
先生の耳元へ近付いて小声で話す。
吹石先生は大人なので甘いフレグランスの匂いがした。
やはり身だしなみに気を使ってるのだろう。
「勝どきのオフィスビルの中の事務所です。
書き込んだ人物の自宅の住所氏名から電話番号まで全て送られてくるので、そちらへ書類を送付するそうです。」王麗明の受け売りでそのまま話した。