二度とない時間
帰りにもう一度花屋に寄る。
今度は小林先生の顔を写メから拡大して花屋に見せた。
「はい、この方です!お知り合いですか?
イケメンですよね〜身体もしっかりしてらっしゃるし。
プロポーズはうまくいったんでしょうね。」と。
「やだっ!なんか興奮してきたね!」サキがワクワクしてる。
恐いのは苦手だが、愛憎のもつれとか大好きである。
「何かイヤだなぁ〜日高さんが嫌がるの分かるよ。
僕もこういうの嫌いだ。」楊世はモロいやがってる。
「心中に見せかけて殺したんだね。
なんで不倫って、こう最後がむごくなるんだろ?
愛とは別物だから?
欲望を煮詰めたカスみたいな終わり方なるよね〜」夏希は悲しくなる。
きっと吹石先生は純粋に好きだったのに、小林先生には性欲のはけ口でしかなかったのだろう。
まあ、でも不倫する段階で奥さんや子供をバカにしてるので似た者同士なのか?
日高さんや楊世みたいな清廉潔白タイプには、ゴミにしか見えないんだろうなあ〜と思う。
「俺さ警察の人に吹石先生捕まえる時に背中をかなりキツく押さえつけたか?って聞かれたんだ。」ヒロが思い出したように話す。
「遺体に何かあったの?」夏希が聞く。
「うん、背中に圧迫痕?があったんだって。
俺、全体重掛けたしなあ〜それでかなと思ってた。
けど、もしかするとそれが犯人のトリックかもな。」
ヒロが警察から良い情報を偶然仕入れていた。
「日高さんが知ってるくらいだから、多分警察も掴んでるね。
自殺らしいと言う話から先動いてないのは、犯人を泳がせて尻尾を掴む為なんだよね?」楊世も耕三から色々話を聞いてるみたいだ。
「わあ~夏以来だね〜それも愛憎もの!
私の得意分野だよ〜」サキが浮き浮きしてる。
反対に夏希はちょっとゲンナリしてる。
母が男作って失踪してるので、夏希はこういう話は苦手だ。
もし小林先生が捕まって犯行の全貌が明るみになったら、
音楽の先生やお子さんはどうなるんだろ?
どんな気持ちになるんだろ?
一生背負う傷を思うと耐えられない。
久々4人で帰る下校時間。門前仲町駅でヒロと別れて楊世と夏希は家に向かう。
「この時間もほんの一瞬なんだよね。卒業したら、もう二度と訪れないかけがえない時間なんだと知ったよ。」楊世が夏希の手を握った。
「当たり前だったものが、ある日突然消えてしまうんだよね。大事にしないと。」夏希も楊世の手を強く握った。
皆に恨まれても嫌われても楊世とのこの時間を譲る訳にはいかないと夏希は思った。
後人生で5ヶ月だけの時間を。