花屋
「あ〜っ、覚えてます!メッセージが特徴的だったので。」月島商店街の花屋さんの花束だった。
買われたのは体育祭の翌日の昼過ぎだったそうだ。
「キチッとしたスーツの青年でしたよ。山上と記入されてます。
でも、お見かけしたのは初めてでした。」
と花束の出どころは分かった。
「もしかして振られたから捨てたのかな?橋から運河に?」ヒロが推測する。
「でも、やっぱりなんかこれから人生歩んでいくイメージないよね〜」サキが目を閉じて腕を組む。
「オーナーと敦子さんみたいだよね…なんて言ったっけ?冥婚?」楊世が夏希に聞く。
「あ〜昔、ムーで特集してたんだよ。死者と結婚する赤い封筒の話。」夏希が話す。
「なんだよ?それ?面白そう〜聞きたい!」ヒロの目が輝く。
「台湾だったかなあ〜?古い風習で、道端で赤い封筒が落ちてるらしくて、
その封筒を開けて中の死んだ花嫁の写真を見てしまった男は結婚しないといけない地域があるんだって。」
夏希が話す。
「いや〜やめて!恐い話、苦手〜」サキが耳をふさぐ。
「死んだ花嫁…」夏希は自分で説明しながら、吹石先生の透けるジョーゼットの花柄のワンピース姿を思い出していた。
パンツスーツしか着てなかった先生が、あの格好するのは特別な自殺への想いがあったのではないか?
花束を買ったのは山上と名乗る男性。
「先生、もしかしたら自殺は自殺だけどパートナーが居たのかもしれないよ。」夏希がふと思いつく。
「え〜っ、せっかくの結婚をこんな汚い運河でする?」サキが無い無いと首を振る。
「いや!学校の前じゃん!特に夏希に見せつけたい気持ちがあったかもしれないなあ〜先生は。」ヒロが墓穴を掘った。
「あ〜バカ!」楊世がヒロの口を押さえたが遅かった。
夏希がもう死にそうだ。
ダメージ食らってる。
「でも、そんな見せつけたかった結婚相手は消えた訳か?楊世と同じくらいイケメンだったのかな?」サキが気付かず推測してる。
「そうか?本人は心中のつもりだから、旦那さまも死体になるはずだもんね!女心から考えたら、そこは腐ってもタイか?
いや、死んでもタイか?」亡くなった先生の女心を夏希も推測する。
凹みかけたが、先生は死ぬ間際も前向きだったと思うと救われる。
イケメンの彼氏を夏希に見せて死にたかったのか?
「何してるの?」橋の上で話してると日高明奈が声掛けた。
「まだ学校残ってたの?文化祭の準備?大変だね。」夏希が返事する。
「吹石先生、もしかしたら付き合ってた人とかいる?」楊世がサクッと日高さんに聞く。
『そうか、2人は体育祭で演舞一緒にやってたし…』とか見てると、日高さんがスゴい不快そうな表情になる。
『え〜っ、好きだった人にその顔は無いよ〜』と思うが、なんか楊世と日高さんの間の空気感が良く分かる。
異性と言うよりライバルなのだ。
「良く気付いたね。学校の裏情報なのに。
体育の小林先生さあ〜結婚する前にやりたい放題だったんだよ。
で、たまたま音楽の先生が妊娠しただけ。
まあ、それで皆手を引いたんだけど、吹石先生だけ
執着しちゃってね〜ドロ沼不倫なったみたいだよ。」
汚いモノを払うように日高さんは去った。
『あんなに好きで私に嫉妬してるとか言ってたのに…』夏希は呆気に取られる。
「女心と秋の空」とは良く言ったもんだ。
『あっ、でも私もレオン推し活それでやめたのか?』
もうスッカリ忘れてたが今年の春先の事だ。
「ねえねえ、ヤバくない?」日高さんが去った後サキが目を輝かせながら振り返る。
「これは、もしかして、もしかしてだよ〜♪」ゴシップ好きのサキの心に点火してしまったようだ。




