キス
「そんな思い詰めて歩いてるとナンパされるよ。」聞いたことある声がして、月島商店街を考え事しながら歩いてた夏希はハッと前を見た。
「王さん!」黒髪に黒のトレンチコートに黒パンツのカラスみたいな王麗明が月島商店街に立っていた。
長身過ぎてアーケードが恐いのか?頭を斜めにしながら歩いてる。
ホラーっぽくて恐い。
「どうしたんですか?」夏希が聞く。
「僕のプロデュースの結果を見に来たのさ。
やっとあの美少年と離れたか!
ずっとへばりついてるからね、どう引き剥がすか悩んだよ。」
「それが目的だったんですか?」夏希が唖然とする。
「君は自分の弱点を知らなさすぎる。
君は自分の日常が崩れて人が消えるのにめちゃくちゃ弱いんだよ。
担任が消えたら…それも自分のせいで。
どうせあの美少年が諍いの元凶だからね。
遠ざけるだろう。」王麗明がニコッと邪悪に微笑む。
「今ごろ美少年は大変だよ。檻を失ったんだからね、女の園で。」王麗明が面白そうにクックッと笑う。
そういう捉え方をしていなかった。
楊世は大丈夫だろうか?
「今日はわざわざその為に来たんですか?」夏希が聞く。
さすがにそこまで暇人では無いだろう。
「うん、火鉢オーナーに会いたかったんだが…門前払いされたよ。
君が事件解決したあのホーンテッド◯ンション本当に異様だね。
南伊豆の洋館の比じゃない。」王麗明が本気で恐れてる。
「アレは…本当の死霊の館ですから。」夏希としてもそうとしか言えない。
「アレを買って財閥系デベロッパーに転売すれば、かなり稼げるからね。
玄関が開いてるのに、オーナーに会う前に変な人が沢山居たよ。あれは…?」王麗明はなんか見たようだ。
「オーナーは一人暮らしです。」夏希が苦笑する。
「………」さすがの王麗明も黙った。
「せっかく月島来たし、もんじゃ食べたいな。付き合ってくれる?」まだ5時だ。まあ、オヤツみたいなもんなので夕飯に支障は無いだろう。
もんじゃストリートのビルの中に入った。
「もう予約してるんですか?」夏希はエレベーターに乗りながらキョロキョロする。
意外に登下校なのでもんじゃ屋はそんなに入った事は無い。
打ち上げで使う店は、ほぼ決まってるし。
「インバウンド景気でなかなか入れないだろ、観光地だし。もう、コースも頼んであるよ。軽めにしたから
あの美少年に怒られないとは思うが。」同居してるのも把握済みのようだ。
本当に外国人でいっぱいだった。
「…ココですか?」小上がりで畳の3畳ほどの個室に大きな暖簾が店側に掛かってる。
反対は下まで嵌殺し(はめごろし)の窓でもんじやストリートの行き交う人々がネオンに明るく照らされている。
「おお〜っ、こんなアングルで見たことないですよ!」ちょっと躊躇したが、見慣れた登下校の道が新鮮に見える。
暖簾も下は空いてるので、食べてる人の足元は見える。
まあ、親にも楊世にも言い訳できる感じ?
王麗明があまり知らないらしいので、セッセと夏希がもんじやと焼きそばを作った。
「コレ食べるのかあ…」と少し抵抗があったようだが、食べれば平気だったようだ。
「まっ、これが江戸の下町の味?いや、昭和の駄菓子ですよ。」夏希は全く代表ではないが、自慢する。
「ありがと♪」と唇にチュとされた。
「………」王麗明!冥府のハデスか八咫烏みたいにデカいのに!
キスは可愛いぞ!
夏希がボーゼンとしてるのが面白いのか?
「もう1回する?」と笑う。
「いえっ!スゴい健全で普通でビックリしました!
ギャップ萌えですよ!良いと思います!」夏希は感動する。
楊世と知り合ってから変な事ばっかりされてたので、
こんなハッピーで可愛いフレンチキスしたこと無い!
いや…待て!キスすらしたことないぞ!
なんか…切なくなってきた…
夏希のそんな様子を見て、王麗明が心配する。
「あの美少年は大丈夫かい?
あんまり変な事されたら言うんだよ。」と言われた。




