抜け殻
楊世はより一層アイドル化した。
もうファンレターが届くようになってしまった。
話し合って、一緒に歩かないようにしてる。
夏希の周りのゴタゴタは楊世絡みが原因だと辿り着いた。
とうとう死人まで出てしまった。
家庭科控室から出た後も別々に帰宅するようになった。
それを寂しいとか思う気持ちすら失ってしまった。
「なあ、夏希、家とかでどうだ?あいつ」ヒロが楊世に廊下で聞く。
「う〜ん、死人が出たのはさすがに応えてるみたいなだなぁ〜
先生の口から直で聞いたんだろ?」楊世が聞く。
「うん、嫉妬がすごかったな、先生。
でも、さすがに自殺はやり過ぎだよ。」ヒロが首を振る。
と2人が立ち話してるだけでも次から次と手紙を渡される。
クラスラインからは外させて貰ってる。
延々とラインが24時間メッセージが来るからだ。
携帯がすぐバッテリー切れする。
夏希と歩いてる時、自分は守ってるつもりだったが、
実際は守られていたんだと気付く。
防波堤を失った楊世は、延々と女に追いかけ回される。
夏希とのんびり歩きたい。
家でいくらでも話せるが、登下校で歩きながら話すのはまた違う楽しさがあるのだ。
「ハア〜ッ」楊世はため息をつく。
「ヨッ、色男!なんでため息ついてんだ?」体育の小林先生が声を掛けてきた。
体育祭は小林先生に色々サポートしてもらった。
演舞は男子校で見たことはあったが、自分がやった事は無かったから。
「お前は本当に女に興味ないよなあ?」先生が驚く。
「そうみたいです。男子校の時、憧れてた女性って
ゲームの中だけの存在だったみたいで。
実際の女子は男子高生と変わらない。」楊世が虚ろに言う。
「それは人間だからな!男も女も人間だしな。
お前には、ちょっとファンタジーな生き物の方が合うのかもな。」先生が口を押さえて笑うのを堪えてる。
「また大人なったら人間同士の良さも分かるさ。」肩を叩いて小林先生は去っていった。
先生もまだまだ生徒にキャッキャッされている。
女性教師も嬉しそうに話してる。
「ハア〜ッ、ああいうの楽しめたら人生楽だよなあ〜」申し訳ないが、全然羨ましくない。
夏希は暗中模索の中に居た。
モリアーティ教授みたいな王麗明の謎解きスタイルは持ち札を操りスマートで無理がなかったが、結果1人の人間を自殺まで追い込んだ。
それも夏希の身近な人を。
確かにハイミスで女子に当たりがキツく、男子には甘いヒステリー気味の女性だった。
月子さんの月花亭でバイトした時、オヤジ同士で話してて
「不倫で狙い目の女」ってお題で格好の中年オヤジのエサになるタイプなんだと話してた。
「でも結局、コントロールが効かない女性を相手にするのは墓穴を掘るよ」と夏希が水指してしまって、赤ら顔のオヤジ達は鼻白んでしまった。
月子さんに怒られた。夏希に客商売は難しいと結論づけられた。
ふと、逃げかもしれないが…
『吹石先生は殺されたのではないか?』と仮定が浮かんだ。
まず格好がいつもの先生じゃなかった。
花柄ワンピースなんて着てきたこと無かった。
「女らしい格好は媚びてるみたいで嫌い」とか言ってた気がする。
楊世のポケットにアドレス入れる人は、他の男性にもやってる可能性がある。
人間とは成功例を繰り返す。
既婚男性女性が浮気するのも結婚と言う成功例があるためだと父、耕三が言ってた。
サレ夫としての経験則だろう。
もし不倫してて相手とうまくいかなくなれば…新しい標的のポケットにアドレスインする可能性がある。
まあ、そう考えると気持ちが幾分軽くなると言う妄想だが。
だって溺死してる。多少のアルコール成分は出たが睡眠薬など薬物の痕跡は無かったそうだ。
「やっぱ逃げだよなあ〜」夏希はつぶやいた。