告白したら「わかんないよぉ」と言われたのでイエスと言ってくれるまでアタックし続けることにしました!! 〜男性だけ美醜逆転した世界に転生しちゃった超絶美少女はイケメンに餓えてます〜
私こと、吉良原幸葉は絶望していた。
ひょんなことで呆気なく死んでしまった私が次におぎゃんと転生した世界は、モンスター蠢くテンプレ異世界ではなく、普通の現代、日本だった。
そこまではいい、まあ正直せっかく転生するならちょっとは魔法使ってモンスター倒したり剣振り回したりしたかったけども!それはこの際いい。
なんと、男性だけ美醜逆転した世界だったのです。
なんじゃそりゃあああっ!?
誰得なんだよこの展開!ちっとも嬉しくないんですけど!?左右非対称な顔がイケメンの証!?体毛は濃ければ濃いほど男性的で女性からの印象が良く、顔がテカってればテカってるほど魅力的!?ニキビができると男はみんな喜ぶ!?なに言ってんだそんなわけないだろ!?どこがイケメンなんだよどこが!?
良くも悪くも前世の記憶を持って転生してしまったせいで、この美的感覚の違いには物心ついた時から大変悩まされてきた。前世によく見ていたテレビのバラエティー番組でブサイク芸人と呼ばれ笑われていた男が、今世のテレビではイケメン扱いされてスタジオで一言喋るだけでファンの女性の悲鳴が聞こえるくらいのとんでもない人気っぷり。
雑誌を開けば小太りで濃い腕毛を生やした男がイケメンにしか許されないポージングと共にニヒルな笑顔で浮かべていて、極めつけは漫画やゲームに登場する架空のキャラクターまでブサイクなの!!
しかも創作物だからここぞとばかりにブサイク(イケメン)に描かれてるせいでどんなに物語が面白くても全く見る気になれない!!生理的に無理!!
街を歩いていてもすごい綺麗な女性が隣にとんでもないブサイク(イケメン)がいてリアル美女と野獣でその場にひっくり返りそうになったわ!!
大事なことだからここで一つ言わせてもらうけど、私は別にブサイクが嫌いなわけじゃないの!好きというわけでもないけど嫌いではないの!だけどこの狂った世界ではブサイクがイケメンと認識されてるせいでみんなブサイクになろうと努力してるの!
美しくなりたくてダイエットしたり永久脱毛行ったり美容液塗りたくったりするじゃん?それと同じ原理で男性がわざと暴飲暴食して太ったり高かった鼻を整形で低くしたりニキビ作るために不摂生な生活しようとしてるの!?おかしいよね!?
やめてやめてやめて!?そんな努力いらないから!
おかしいって気づいて!?みんな目どうなってんのよ!?お願いだから美的感覚矯正してえええ!!
と、いくら私が叫んだ所でこの世界の美的感覚が変わるはずもなく。私だけが日々精神的ストレスを抱えながらなんとか高校生まで成長したんだけどさ。
「吉良原幸葉さん!俺と付き合ってく」
「はいどーもすいません無理でえええすっ!!」
この世界って男性だけ美醜逆転してるだけだから女性は普通の美的感覚なのよね。そして私は転生特典なのか、クレオパトラがびっくりしてヘレネが嫉妬しちゃって楊貴妃が裸足で逃げ出すレベルの超絶美少女ちゃんなのよね。きゃは☆
っていやいやいや!!こんな特典いらないから!ブサイクだらけの世界でモテても拷問なだけだから!?上級生らしきブサイクに中庭のど真ん中で堂々と告白されたけど秒で断ってやったわ!!
ビックカップル誕生の瞬間を目撃しようと野次馬に取り囲まれたけど気まずい空気を察してあっという間に人が消えて行ったわ。てかどんだけ自分の容姿に自信あんのか知らんけどこういう告白とかは人目につかないとこですんのが良いんだろうが!
青春の甘酸っぱい初恋のなんたるかをわかってないねー今の男子は揃いも揃って!
お察しの通り、この世界で私の恋愛感情はゼロだ。
男性は私の容姿だけを見て容姿目的で告白してくるけど、私も相手の容姿が究極に無理だから全部断るしかないし、例え性格がとても良く私と気が合う男性と出会ったとしても美的感覚の差は埋められない。
だったら最初から結婚とか恋愛とか、そういうことを期待せず今の内から生涯独身で誰にも頼らず生きて行くために手に職をつけた方が良い。
とりあえず簿記二級と英検準一級は持ってる。
前世での高校生活の記憶があるからか、授業も特に難しくなく、あまり面白くない。帰りのホームルームで席替えが行われることになったけど、正直窓際の席は居心地が良かったから変わりたくないなあ。
周りのクラスメートは誰の隣が良いとか誰の隣にはなりたくないとか大騒ぎしている。席替え如きではしゃげる人生羨ましいわー。
担任の指示で順番にクジを引き、それぞれの席に荷物を持って移動した。幸いなことに私の次の席も窓際だった。前の席は話したことのある女子、後ろも比較的仲の良い女子で安心した。
問題は隣の席だ。もし隣がブサイク男子だったら目が悪いって理由つけて即逃げるからな!無理無理!!私次の席替えまで右向けないとか首終わるから!
がたん、と隣の席に誰かが座った。
けれど話しかけて来ない。おかしいな、普通なら私と席が近いだけで興奮して話しかけてくるブサイクか女子ばっかりなのに。そう思いながら何気なく視線を向けると、細身の男子が座っていた。
誰だっけこいつ?てかこんな男子クラスメートにいたっけ?名前すら知らないわ。明らかに私の視線に気づいているのに私の方を向こうともしない。むしろ私から距離を置こうとしているように見えるんだけど。
ぱっと見ただの陰キャ、典型的な苛められっ子ポジションの浮かない男子って感じか。まあ自分がイケメンと信じて調子乗ってるブサイクにあれこれ話しかけられないだけ百倍マシか。てか前髪長くない?
「絶対私のこと知ってると思うけど、吉良原幸葉でーす。次の席替えまでどーぞよろしくねー?」
「! あ、はっ……はい、」
私が話しかけると、男子は大袈裟に肩を震わせて私の方に少しだけ顔を向けた。そして今にも消え入りそうな声で返事をする。
長い前髪のせいで顔が全く見えない。目が合っているのかどうかすらわからない。なんかやばい系の子?もしかして厨二病患ってる感じ?
「君の名前は?なんてーの?」
「あ、ぼ、僕は……時ヶ崎奏、で」
その時、私のすぐ横にあった窓から強烈な風が教室に吹き込んできた。クリーム色のカーテンが揺れる、担任が持っていたプリントが飛ぶ、女子のスカートが揺れる、壁に貼ってある掲示物が波打つ。
目の前の男子の、長い前髪が巻き上げられた。
「と……時ヶ崎奏くん!」
「ひっ!は、はい……!」
「私とお友達に!いや、むしろ!結婚を前提にお付き合いしてください!お願いしまっっっす!!」
席替え直後のごたつく教室で隣の席になった時ヶ崎くんに一世一代の告白をする。
告白とかは人目につかないとこですんのが良いとか言った覚えがあったりなかったりするけど!
クラスメートの視線が一気に私と野ヶ崎くんに集中するが、そんなの気にしてる場合じゃない!
顔を隠すように伸びた前髪から見え隠れする綺麗な深緑色の瞳、長い睫毛、整えられた眉、高い鼻、緊張しているのか少し赤らんだ頬、荒れていない薄く形の整った唇、二重顎じゃないスリムな輪郭、ニキビなんて一つもない脂ぎってもいないどころか毛穴すら見つからないきめ細やかな色白美肌!!
この世界で生きてきて!!私は今初めて!!正真正銘のイケメンに遭遇できた!!席替え万歳!!
教室が四方八方から聞こえて来るクラスメートの悲鳴に包まれる。うるせえ外野は引っ込んでろ!
「あ、あ……あの、ぼ、ぼく……」
時ヶ崎くんの唇が弱々しい声を漏らす。おい本当にうるせえぞ!!時ヶ崎くんが喋ってんだろうが!!せっかくの美声が雑音で聞こえねえんだよ!!
両手を胸の前で握りしめ、小刻みに震える体を見て心がかき乱される!なんだこの感情は!こ、これが庇護欲!?キュートアグレッション!?
「誰か、に、告白されたの、は、初めてで……!」
わ、わかんないよぉ……!
と心細そうに呟いた時ヶ崎くんの声と前髪の隙間から見えた時ヶ崎くんの今にも泣きそうな儚くも美しいイケメンの表情に、私は鼻血を出して気絶した。
放課後、保健室のベッドで目を覚ました私を見て先生は熱中症の疑いがどうとか言っていたがこれは紛れもなくイケメンの過剰摂取が原因である。
鼻に詰められていた綿を取りながら、明日から時ヶ崎くんをどうやって落とすか真剣に考える。わからないって言っていたから告白の答えはまだ出ていないはずだ!よし!頑張るぞーっ!!
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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