一人娘の場合(三)
やれやれ。嫁の小言は忘れて、ゆっくりと風呂に入るとしよう。
さて。いい湯だった。後はシュークリームを食べれば、今日のミッションは全て終了だ。あぁ、その前に夕飯も食べないとな。
この時間ならば、軽い食事に違いない。あの様子だと、美雪も薫も夕飯は済ませているだろう。
ならば『後はデザート』と、鼻息も荒く息巻いている頃だろうか。
先週のお誕生会で、お初にお目に掛かった『お皿』が出て来た。
どう見ても『百円均一』に非ず。勿論、その上の『三枚硬貨』でもない。かと言って、有名窯元の陶磁器でもなかった。
あの皿は、いつぞやの新婚旅行で何処かに出掛けた折、何とかと言うお土産屋さんで見つけた、『誰かの作品』的な奴だ。
所謂『一点もの』である。独特の作風を気に入って購入した物。
思い違いかもしれないが、確か買ったのは『二枚』のはず。それが一枚増えて『三枚』出て来た。
一瞬あれっ? と思ったが、多分三枚買ったのだろう。
そもそも日本の食器は『五枚一組』と言うからな。あと二枚追加で飛び出して来ても、然程驚くに値しない。
明人は寝間着に着替えて風呂場を後にした。
風呂の蓋は閉めて、扉は開けておくのが『生田家のルール』だ。いや正式には『美雪のルール』だ。
ルールの名前など何でも良いが、『お風呂掃除をする人の意見』が一番に決まっている。明人は『アヒルさん一家』に手を振って風呂場を後にした。と、直ぐに戻って消灯。また怒られる所だった。
リビングに向かうと、明人の食事の支度が出来ている。
暖かそうな食事を前に、明人は美雪に対して感謝しかない。四人掛けのテーブルに並べられた食事は、明らかに三人前である。
しかし薫は、再びテレビに夢中。美雪もシュークリームの箱を前にして、テレビの方を見て笑っている。録画上映を再開したようだ。
「ありがとう。何だか待っていてくれたみたいで悪いねぇ」
明人は自分の席に着く。そこでもう一度テーブルを確認したのだが、何だろう。全ての食事が『明人用』に思えるのだ。
盛り付けられた料理が『こっちを見ている』のである。それは『トマトの位置』やら『福神漬けの位置』を見れば明らかである。
もしかして『三日分の夕飯』を、同時に再現したのだろうか。
「全部貴方のよ?」「あっ、やっぱり?」「痛んじゃうからぁ」
並んでいるのは『トンカツ定食』に『カレーライス』、後は『ハンバーグのキャベツ巻き』だろうか。多分そうだ。
最後の奴は今日の夕飯? だとしたら明日の朝でも良かったのに。
トンカツ定食の『ご飯』とカレーライスの『ライス』。名前は異なるが、成分はほぼ同じだ。違いは『冷凍した日にち』のみ。
冷凍するなら『ササニシキ』を推奨したい所であるが、最近はめっきり見なくなった。まぁ今時『コメの品種』をいちいち気にするなんて流行らない。袋を見れば『鳥の餌』みたいなもんだからな。
「いただきます」「どうぞ召し上がれぇ」
明人は手を合わせてお辞儀。早速頂きましょう。
「シュークリームは食べないの?」「うん」
箸で箱を示すと、美雪からは意外な返事が。薫も振り返った。
「あら意外。食べれば良いのに」「もう食べたのよ。ネー」「ネー」