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一人娘の場合(二)

 美雪の声がしたかと思ったら、直ぐに姿が見えた。

 薫に預けたはずの『熟成した靴下』は、いつの間にか美雪の指先にある。それが回転しながら、明人の顔を目掛けて一直線。

 見事鼻先に命中すると足元にポテッと落ちた。明人は足で拾う。


「お風呂直行!」「はい」「鞄はこっち」「はい」

 素直に鞄を渡すと、『機密情報なんて糞くらえ』な勢いで開ける。

 警察だってもう少しは『遠慮する』と思うのだが。それにしても、何を探しているのやら。


「お弁当箱は?」「えっ?」

 鞄を覗き込みながら美雪が明人に問う。『メイン収蔵庫』にあるはずの弁当箱がないので、『サブ収蔵庫』を開け始めた。

 いやそこは『幅』の関係上入りません。明人の右手には既に靴下が握られていたのだが、そのまま指し示そうと前に突き出す。


 しかし美雪の目が光る。『何か』を見つけて摘まみ出した。

 出て来たのは『傘』であるが、こちらも『ピン』と来たのか臭いを確認。やはりちょっと臭うではないか。


「三日前のでしょ? 洗ったのぉ?」

 仰る通り、最後に家を出た日は雨でした。

 その後、今日まで会社に泊まり込んでおりましたが、それが『三日前』であるかについては記憶に御座いません。以上。

 だから明人の顔は、まだ『えっ?』のまま固まっている。


 美雪は呆れるばかりだ。先ずは傘を広げ始めた。

 濡れたまま畳んだのだろう。傘から微妙な香りが漂う。それはまだ良いとして、問題は『弁当箱』の方だ。


 明人の健康を考えて『手弁当』を持たせているのだが、それがいっつも酷い扱いなのだ。ご飯を一口だけ食べて終わりとか、最後に残した梅干しが『カビだらけ』になっているとか。

 いやいや『殺菌作用』がある梅干しに『カビが生える』なんて初めて見た。何がどうなったらそうなるのか、国民生活センターに問い合わせようとして、明人に止められたこともある。

 どうせ今回も食べていないのだろう。鼻を摘まんで蓋を開け、生ごみ直行に違いない。


「おむすびだったよね?」「だから何?」

 学生時代に使っていたという年代物の『アルマイト弁当箱』は、会議資料一式が『デミグラスソースの香り』になったとかで、客先でも一躍評判になったらしい。それ以降封印してある。

 明人の希望により『曲げわっぱ』の奴に買い替えたのだが、それは何処に。三日前のご飯なんかがくっ付いていたら、それはもうカッピカピになっている。落とすのなんて凄く大変なのだが。


「ラップに包んだのを、新聞紙にくるんで持って行きましたが……」

 言われて美雪は思い出す。月曜の朝になってから弁当箱を出して来やがって。説教しながらそう指示したのであった。

「鮭と昆布と梅干ね」「はい」「じゃぁ、お風呂行って」「はーい」

 疑いは晴れて無罪放免。明人はそのまま風呂場へとそっと向かう。

 すると異変を感じたのか、扉を閉める前に美雪の声がする。


「梅干しは、ちゃんと食べたの?」「食べたっ」

 勿論嘘だ。しかし風呂場の扉を閉めてしまえば、こっちの勝ちさ。

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