表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/25

一人娘の場合(一)

 生田明人はシュークリームが好きである。

 何となく先週も買ったかもしれないが、そんな昔のことはもう忘れた。今日は金曜日だ。今週も中々にハードな日々であった。

 怒号が飛び交う荒んだ職場。主に『ディスプレイに向けて』であるのが、まだ救いであると言えよう。


 だから『お土産』さえも買って帰れない日々が続いていた。

 もしかして家族が自分のことを、『忘れてしまっている』のではないかと気を揉んだもんだ。かと言って長期休暇を取れば逆に、会社の『自分の席』が、無くなってしまうのではないかと思う。


 そう言えば、来週から『全席自由席』になるらしい。

 新幹線とは真逆の発想である。となると、机の前後左右にある『書類の山』は、一体何処へ引っ越せば良いのだろう。

 どう考えても『ロッカー』より大きなダンボールなのだが。


 いやいや、そんな未来のことなんて判らない。

 それより何より、これから始まる『終末』もとい『週末』という時間を、家族と有効に過ごすことの方が大事。

 会社のことは一旦、月曜日の朝まで忘れよう。


「ただいまぁ。今日のお土産はシュークリームですよぉ」

 玄関のドアを開けると、リビングから賑やかなテレビの音が聞こえている。それがパッと消えた。あぁ、録画再生を止めたのか。


「お帰りなさいっ! あなたっ!」「パパだっ!」

 シュークリームが入った箱を前に突き出すと、それを目掛けて愛しい妻が一目散に廊下を走って来る。

 何だか大げさな恰好で走っているが、余り速くはない。

 足元には小さな愛娘が、嬉しそうに歩みを進めている。おぼつかない足元。まさか『酒』でも飲んだのではあるまいな。

 そんな訳ないか。先週、二歳の誕生日を迎えたばかりだし。


「あら、今週はシュークリームなのね」「要らない?」

「まぁさぁかぁ。頂くわぁ。ありがとぉ♪」

 ご機嫌で行ってしまった。確かに先週は『誕生ケーキ』だった気もするが、毎週同じケーキ屋に行ってはならぬという法はない。

 あったら確実に『暴動』が起きるだろう。


「パパぁ、すみれのはぁ?」「んん?」

 美雪の行方も気になるようだが、自分を指さしてこちらと交互に見ている。違う。気になるのは『シュークリーム一箱』の方か。

 どうやらそちらは、『妻・美雪のお土産』と認識したようだ。

 良いぞ良いぞ。流石は女の子だけのことはある。中々に覚えが宜しいのも、成長著しい証拠だ。父親として実に嬉しい。


 何故なら先週は『薫のお土産』として、大きな『誕生ケーキ』一箱を買って来た。そして確かに、薫の小さな手に持たせたのだから。

 しかし薫よ。我が愛しき娘よ。忘れて貰っては困る。

 誕生ケーキは『薫の』だから持たせたのだ。それを、親子三人で大事に運んだではないか。ロウソクだって灯したし、上下左右に分割して、美味しく食べたではないか。あっという間だった。

「じゃぁ、これなぁ」「はーい。ありがとっ!」

 咄嗟に『代わりの物』を持たせると、薫は喜び勇んで走り出す。


『ギャーッ! ちょっとナニコレ! 靴下なんて要らないっ!』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ