新婚夫婦の場合(六)
「それって、良いように『使われているだけ』、じゃないの?」
そんなことを『嬉しそうに』言う奴がいるか? 仮にも『妻』であるからにして。それとも『身に覚え』があるのだろうか。
「そうかなぁ? (パクパク)」
長生きしそうだ。お互いに。明人は首を捻って考えているが、それは『考えている振り』に違いない。
何だかんだ言って『甘い物』を与えておけば、ストレス発散になる。お腹には『何か』が、溜まり続けているようだが。
「だって先月は、『お饅頭』で仕事受けちゃったんでしょ?」
美雪は笑いながら明人を指さした。思い出しても笑える。
「そうなんだよねぇ。ごちそうさま」「ほらぁ」
食べ終わったカップをカウンターに置く。いつも通りスプーンをカップに挿して置いたら、ひっくり返ってしまった。当たり前だ。
カレーを食べるときに使う『大きなスプーン』なのだから。しかし明人は、『見なかった』ことにして、そのまま放置している。
美雪の『強い視線』を感じたのだろう。痛みに耐えながらティッシュで口元を拭くと、カウンターのカップを起こす。
引き続きティッシュを再利用して、カウンターの汚れを綺麗に拭き取る。そのまま丸めてカップにダンクシュート。リバウンド。
最後はスプーンをカップにそっと乗せる。上手くバランスが取れたら『最初からこうなっていた』とアピールするだけだ。OK二点。
「最初からそうだった訳じゃないから」「んん?」
何か間違った気がする。いや、今それは良い。
「結果的に『そうなっちゃっただけ』で、ってこと!」
「ホントかなぁ」「本当だって」「へぇぇ」
美雪が『疑いの眼』で明人を見ている。新婚なのに、明人が『別の女の頼み』を聞いたことから残業になったのだ。
きっかけは『部長からの紹介』だった。
実際に来たのは『隣の部の娘』だ。部長同士の情報交換で『生田に聞けば?』となったらしい。ならばと二つ返事。断る理由もない。
聞けば意外にも『簡単なこと』だったので、最初は『ちょっとしたアドバイス』をしただけだった。
すると随分とお悩みだったようで、当人は喜んで戻る。
そして後日、客先への会議で出張した『お土産』として、『温泉饅頭』を買って来てくれたのだ。明人一人なのに奮発して一箱。
「その饅頭をさぁ、『買って来た娘』も食べたんでしょ?」
「そそ。何か『打ち合わせ』しながらね。賞味期限もあるし」
後日の後日。次の『相談事』が明人の所に持ち込まれる。
明人にしてみれば『楽勝』だが話はちょっと複雑で、隣の部にしてみれば『予算不足』も相まって、困ったことになったとのこと。
後輩も連れて来たので、茶を飲みながらの相談と相成ったのだ。
空茶は良くない。だから『温泉饅頭』も一緒に食べた。それだけなのに、一体何を『利用した』と言うのだろう。電気? あぁ。
「ホントかなぁ。今度『狙ってました?』って聞いた方が良いよ?」
「何言ってるの。そんな当たり前のこと、聞ける訳ないじゃん」