表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/25

新婚夫婦の場合(五)

「珍しく、部長が買ってくれた奴だったんだよねぇ」

 この際、正直に話して『感想』を聞き出したい。

 明人はプリンの蓋を捲って裏を確認する。良し良し。


「へぇ、そうなんだ。道理で美味しいと思ったわぁ」

 シュークリームの話題について、美雪は早く終わりにしたい。

 さっきの『報告』には、若干の嘘が混じっているからだ。


 実は、昨日の夜の時点で一個食べていた。明人が風呂に入っている間である。しかし『悪い』なんて思う訳もない。

 だって、確かに『所有権』については放棄していたのだから。

 気になっているのは『嘘の報告』この一点についてだけ。


 朝食の代わりに二個食べたのは事実。その後、掃除と洗濯をして昼寝。目が覚めたら『ドラマの時間』になっていた。

 だから、視聴しながら食べていたのだが、気が付けば無くなっていたのだ。『幾つ食べたか』なんて、正直覚えていない。

 だって洗濯物を取り込むの、凄く大変だったんだから。適当に『昼食』と『おやつ』にカウントしておけば、辻褄は合うでしょう?


 それでもグダグダ言うなら、こちらにも考えがある。

『昨日の分』と言ったが、正確には深夜零時を過ぎていた関係上、『今朝』と言い張っても強ち間違いではない。はずだ。

 煩い。だって『その後寝たでしょう?』と責められても、歯はちゃんと磨いたし、『二度寝だ』とも言えるからだ。あれ、三度か?

 何度でも良い。明人が帰って来るまでソファーで寝ていたのも事実だし、テレビを点けっ放しにしていたのも事実。

 でも、今日は玄関の『チェーンロック』を、忘れずにちゃんと外しておいたのだから、文句は無いでしょう?


 明人は腹を引っ込ませて、テーブルに付属の引き出しから『スプーン』を取り出そうとしていた。レジで『スプーン』を忘れたのか。

 今の所『フォーク』『フォーク』『バターナイフ』『でかスプーン』と続き、カウントはスリーボール、ワンストライク。

 何となく追い込まれた気がするのは、美雪の様子がおかしいから。物凄い『圧』をひしひしと感じる。


 これはきっと『早くスプーンを出せ』と思っているに違いない。

 スプーン如きで美雪の機嫌を損ねては、この後も続くであろう新婚生活もままならなくなってしまう。それだけは避けたい。

 ここは『大は小を兼ねる』の格言の通り、『でかスプーン』で良しとしようではないか。ポテンヒットもヒットの内だ。


「貴方、今日はどうしたの?」

 キタコレ。家では『会社のこと』は話さないようにしている。

 それは結婚する前、付き合っている頃から説明しているのだが、美雪は時々聞いて来る。

 やはり今日は『何か』を感じ取っているのだろう。


「お客さんにね、謝りに行ったんだ」「一人で?」

「いや、部長と二人で」「あら、二人だけ? 課長さんは?」

「徹夜してたらしくて、帰ったとか」「主任さんも?」「そそっ」

 今朝出勤したら部長と二人だった。それで今回のトラブルについて『顧客説明』をする羽目になったのだ。お陰で散々な一日だった。

 でも社に戻ったら、出勤していた全員に羨ましがられる。

 問題発生時の顧客説明は『問題発見者の特権』らしい。成程。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ