新婚夫婦の場合(五)
「珍しく、部長が買ってくれた奴だったんだよねぇ」
この際、正直に話して『感想』を聞き出したい。
明人はプリンの蓋を捲って裏を確認する。良し良し。
「へぇ、そうなんだ。道理で美味しいと思ったわぁ」
シュークリームの話題について、美雪は早く終わりにしたい。
さっきの『報告』には、若干の嘘が混じっているからだ。
実は、昨日の夜の時点で一個食べていた。明人が風呂に入っている間である。しかし『悪い』なんて思う訳もない。
だって、確かに『所有権』については放棄していたのだから。
気になっているのは『嘘の報告』この一点についてだけ。
朝食の代わりに二個食べたのは事実。その後、掃除と洗濯をして昼寝。目が覚めたら『ドラマの時間』になっていた。
だから、視聴しながら食べていたのだが、気が付けば無くなっていたのだ。『幾つ食べたか』なんて、正直覚えていない。
だって洗濯物を取り込むの、凄く大変だったんだから。適当に『昼食』と『おやつ』にカウントしておけば、辻褄は合うでしょう?
それでもグダグダ言うなら、こちらにも考えがある。
『昨日の分』と言ったが、正確には深夜零時を過ぎていた関係上、『今朝』と言い張っても強ち間違いではない。はずだ。
煩い。だって『その後寝たでしょう?』と責められても、歯はちゃんと磨いたし、『二度寝だ』とも言えるからだ。あれ、三度か?
何度でも良い。明人が帰って来るまでソファーで寝ていたのも事実だし、テレビを点けっ放しにしていたのも事実。
でも、今日は玄関の『チェーンロック』を、忘れずにちゃんと外しておいたのだから、文句は無いでしょう?
明人は腹を引っ込ませて、テーブルに付属の引き出しから『スプーン』を取り出そうとしていた。レジで『スプーン』を忘れたのか。
今の所『フォーク』『フォーク』『バターナイフ』『でかスプーン』と続き、カウントはスリーボール、ワンストライク。
何となく追い込まれた気がするのは、美雪の様子がおかしいから。物凄い『圧』をひしひしと感じる。
これはきっと『早くスプーンを出せ』と思っているに違いない。
スプーン如きで美雪の機嫌を損ねては、この後も続くであろう新婚生活もままならなくなってしまう。それだけは避けたい。
ここは『大は小を兼ねる』の格言の通り、『でかスプーン』で良しとしようではないか。ポテンヒットもヒットの内だ。
「貴方、今日はどうしたの?」
キタコレ。家では『会社のこと』は話さないようにしている。
それは結婚する前、付き合っている頃から説明しているのだが、美雪は時々聞いて来る。
やはり今日は『何か』を感じ取っているのだろう。
「お客さんにね、謝りに行ったんだ」「一人で?」
「いや、部長と二人で」「あら、二人だけ? 課長さんは?」
「徹夜してたらしくて、帰ったとか」「主任さんも?」「そそっ」
今朝出勤したら部長と二人だった。それで今回のトラブルについて『顧客説明』をする羽目になったのだ。お陰で散々な一日だった。
でも社に戻ったら、出勤していた全員に羨ましがられる。
問題発生時の顧客説明は『問題発見者の特権』らしい。成程。