新婚夫婦の場合(四)
「プリン食べるでしょ?」「うん。貰うわぁ」
珍しく、美雪が『デザート』を用意していたとは。
その割に明人の気の抜けた返事。やはり『シュークリーム全滅』が信じられない様子で、プリン所ではないのだろうか。
「お茶で良い?」「うん。貰うわぁ」
どうやら今日は、コーヒーや紅茶の選択肢は存在しない模様。多分『在庫切れ』に違いない。昼間にお客さんでも来たのだろう。
台所から『バタン』と音がした。明人から冷蔵庫前の様子は判らないが、美雪が取り出したのは『麦茶』に違いない。
それをマグカップに入れれば、デザートの用意は終わりだ。
「はいどうぞぉ」「どうもぉ」
カウンターにプリンの『三個パック』がそのまま出て来た。
勿論『特売』のシール付き。買い物上手。良いではないか。『甘い物』には違いない。もっと喜べ。
カウンターに置かれたプリンを持ち上げると、明人は力任せに捻る。直ぐに『ブチッ』と音がしてバラバラになった。
ちゃんとメーカーが用意した『切り取り線』はあるのだが、その通りに開けたことなど一度もない。
「食べる?」「私は良いや」「そう」
明確な返事。美雪が権利を放棄した瞬間だ。となると、どうやらこれは『全部明人の分』らしい。一つだけ確保して二つは返す。
シュっと冷蔵庫へ引き返して行った。賞味期限は見ていなかったが、明日と明後日のデザートはこれで確定だ。
「はいお茶」「どうもぉ」「これ私の」「はーい」
揃いのマグカップが二つ出て来た。しかし美雪はお茶だけらしい。
明人はそんな美雪が、ついつい心配になってしまうのだ。
「空茶は体に良くないよ?」「そうねぇ」
台所でウロウロしているのか。まだ出て来ない。すると直ぐに『ガサゴソ』と何かを探す音がする。
美雪も『体に良くない』と言われて、『このまま夫に心配させる訳には行かない』と思ったのだろう。素直ではないか。
「秘蔵のチョコにしとくわぁ」「おや、そんな物が?」
普段、明人が買わない感じのチョコレートが出て来た。
そう言えば先週、『明人が担当の奴が無くなった』と言っていた気がする。それは済まなかった。
シュークリームだけに夢中になっていてはダメだと反省しきりだ。
「シュークリームどうだった? 美味しかった?」
昨日のシュークリーム、実は部長が買ってくれた奴だった。
珍しく『今日はコレ持って、早く帰れ』と持たせてくれたのだ。
「そうねぇ。『いつもと違う感じ』したわぁ」
「そぉ。何か『有名な店の』らしいからさぁ」
プリンを開けながら聞いて見る。明日、部長には『食べた感想』を報告出来るようにはしたい。
「そうなのねぇ。朝二個、お昼に二個、おやつに二個食べたわっ」
嬉しそうに言う辺り、余程美味しかったに違いない。既に証拠も隠滅されているだろうから、『何処の店』だか判らないのだが。