実家に帰省した場合(二十)
不穏である。果たしてシュークリームの行方は如何に。
明光は牌を掻き回しながら、完成品がショーケースに並ぶのを想像してみる。見た目は同じだが、中のクリームは七色か。うん?
いやそうなると、ショーケースの見た目が随分地味な感じになってしまいそうな。一度練習で作り過ぎたシュークリームを並べたときと同じではないか。お客さんに『今日は地味ねぇ』と言われたのを思い出す。それと同じ運命にあるのではないかと。
「おい何『赤』ばっか集めてんだ」「染手を作ろうとしてんなぁ?」
兄二人に責められて明光はハタと現実に戻る。手元を見た。
確かに再構築中の山は、牌の裏面が赤い奴ばかり。他の山は実にカラフルで、そう。まるでケーキ屋のショーケースだ。いやいや。
それに多分だが、どちらの兄もその実『欲しい牌よこせ』と言っているに過ぎない。言葉巧みに弟を騙そうったってそうは行かない。
ニコニコしているからって、調子に乗っているのだ。『騙すなら先ずは身内から』じゃねぇ。ここは一旦無視で。
「紫は作らんよね」「だなぁ。まずそうだし」「いや要るだろ」
明人の山から余った牌が中央にコロンと放り出される。色は紫じゃないけど。すると、自分もイラネとばかりに明雄が指先で弾いた。
文句を言いながらそれを受け取ったのは明義爺さんである。今まで慎重に山を積んで来ていた。そこへ『不明牌』が転がり込んだことになる。さり気なく盲牌を試みるも『白』でないことが判っただけ。仕方なく何の牌かしっかり目視すると、嬉しそうに山へと誘う。
今のは言葉通り『積み込み』と言いたい所だが、下の段に潜り込ませることを専門用語で何と言うのかは不明だ。
「今見ただろ」「だからどうした」「……」「一牌位見た所で、どうにかなるもんじゃなかンベェ?」「そりゃそうだがよぉ」
父は強し。眼光鋭く睨み付けられて、明雄は意気消沈。納得して、いや納得させられて引き下がる。いつかは超えて行きたい親の親。果たして親になれるのはいつのことやら。
「ここはサイコロ勝負だんべぇ」「お前には振らせねぇよ」「……」
指先で掴んだサイコロ二つ。その先にある鋭い視線が明人に向けられていた。強い意志を感じる。その心意気が、サイコロの目にも乗り移ったかのような威圧感。まるで『ピンゾロを出せば俺の勝ち』と言わんばかり。いやいや。それは『違うゲーム』だし。
情けないが、早く薫に帰って来て欲しいと願うばかり。そうしたら明義爺さんも孫を前にして無理は出来まい。
サイコロだって『私が振る―』と、一人で二回も振ってくれるし。
「紫は何で染色するんだ?」「トリカブト」「イイネェ。集めるわ」「ちょっと待て。それは『毒』なんじゃネェのかぁ?」「バレたぁ?」
サイコロを二度振って、勝負は既に始まっていた。文句を言いながらも、四牌づつ握る手は休めない。そこへ如何にノイズを挟み込むか。頭の中で牌の流れを読み役の組み立てを考えている最中に、精神的な揺らぎへと誘い込むのだ。ここはコタツと言う名の戦場。一瞬の迷いが命取りになりかねない。
いやまて。もしかして今の『ニヤリ』は本気のか? 明人よ。
「保健所には俺が密告しておいてやる」「内部告発ぅ?」「しかも親w」「ちょっちょっちょっ。集めるの俺じゃねぇし、それにまだ作ってねぇし」「お前なぁ。人にアイディーアを出させといて迷惑そうに言うんじゃない」「迷惑だから。迷惑以外の何者でもないわ」「あれれぇ? 何だか上がっちまったみたいだなぁ」「はぁぁ?」




