実家に帰省した場合(十八)
「毎度どうもぉ」「良いってことよ。でも、新しいケーキも増やせよ?」「へい。それはもう」「唐辛子入りは、もうイイからなっ!」
明恵が刺した釘を明光はしれっと回避した。元来痛いこと、争いごとを避けるタイプだ。そして美味しい所だけ頂く。
だから『ケーキ屋になった』と言えば、どんな奴か解るだろう。
結局、薫が浴衣に着替えている所を明利、明則、明保、の三馬鹿兄弟が邪魔をして怒られる。去年と一緒だ。明義爺さんが薫の指示通りにゲンコツをするのも同じ。誰も学習していないのか。
そうなると、明雄が明利に『薫ちゃんと手を繋いでやれ』と指示した所でどうにもなるまい。薫は明恵と手を繋ぎ、三馬鹿兄弟も『迷子になるから』と手を繋がされたが、それは『門扉まで』というのも去年と一緒である。その後の行方は誰も知らない。
ざわめきが門扉を回った頃に、生田家は静かになった。残されたのは男ばかり四人である。雰囲気もガラッと変わった。まるで『ここからが本番』とばかりに目が鋭く。向かった先はコタツだ。
明義爺さんが先ず座り、他は立ったままサイコロを振る。風が決まったら、明義爺さんの席を基準として残りの三人が座るのだ。
これは一応『上座を家長に譲る』の配慮だが、全員自在にサイコロを操れるので、結局は席順については『いつも通り』になる。
「さて、今年の『新作シュークリーム』だが、何か案ある?」『ジャラジャラ』「何、今の『あん』は白餡? それとも鴬餡?」『ジャラジャラ』「それは去年不評だったでしょ」『ジャラジャラ』「鴬は去年やったっけ?」「試食で『NG』だったんだから、似たようなモンだろ」『ジャラジャラ』「餡子はNGかぁ。丁度来たなぁ」
今の『来た』とは『麻雀牌を手で掻き回して居たら、偶然を装って同じ種類の牌を集めてしまった』を表しており、他の面子に『だけど気にすんな』の圧を掛けただけ。
勝負は争いが始まる前から、既に始まっているのだ。
「それよりさぁ、今年の『注連縄』なんだけど、年寄連中だけだと段々キツくてなぁ」「あぁ『じろべぇ』居たべよぉ」「奴は結婚して都会に行った」「マジでぇ?」「結婚詐欺でねぇの?」「かもしれんが、『注連縄どうする』で困っててよぉ」「注連縄優先かよ。誰か心配してやれよw」「そんなこと言っても急だったからよぉ」「尚更じゃねぇか」「んな良いんだよ。詐欺に遭って帰って来る方に、賭けときゃ良いんじゃね?」「そっか。その手があったな。そうすっぺか」「チョンチョン。ドラ一筒か」「おっ、ドラ三確定ぇ」「おいおいやべぇぞ?」「仕込んでるよぉ。三色イケっかなぁって思ってたら、もう枯れてるし」「わりぃなぁw」「たくよぉ」
明義爺さんが割込ませた議題『注連縄の件』は、いとも簡単に流されてしまった。議論は『新作シュークリームについて』に戻る。
「レインボークリームってのはどうだ?」「何だよそれ。チーッ」「あぁこれ『東』だわ。要らねぇから丁度良かった」「俺も要らねぇよっ」「ポンッ!」「て『西』じゃねぇかっ! 紛らわしい。要らねぇけど」「おいおい。俺も要らねぇよ」「あいつダブ東狙いだぞ」「そこで強気の東切り」「ポンッ!」「直後に東切る馬鹿何処に居んだよっ!」「だって要らねぇし。それより『レインボークリーム』って何だ?」「あぁ。鶏ってさぁ、食った餌で卵の色が決まるらしいんだわ」「へぇ。マジで?」「おぉマジマジ。だからさ、赤緑青の三色の餌を食わせてだな、その色の卵を取り出そうって訳」「鶏だけに?」「そそ。鶏だけにぃ」「でも、何で三色で『レインボー』なんだ? 虹って七色だろ? 何色か知らんけど」「俺も」「大丈夫だ。その三色さえあれば、どんな色でも作れっからよぉ。ツモッ」




