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実家に帰省した場合(十六)

『ガラガラッ』『こんばんわー』『ピシャッ』

 玄関が開いて閉じた音。耳を澄ませば足音まで聞こえて来る。

 しかし今は『シュークリームの分配方法』について熱い議論を交わしている最中であり、一人も席を立たない。

 既に足音は宴会中の居間を通り越し、奥の方へと。台所?

 おやおや泥棒か。それともお隣さんが醤油を借りに来た?

 まぁどちらにしろ勝手に帰るだろう。この家に大したものは無い。


『シュッ』「おっ、この部屋涼しいジャン」

 違った。浴衣姿で現れたのは生田明恵。本家の末娘である。

 明義爺さんの妹で『今日は孫が一度に帰って来る』と聞き、花火を観に行く『お手伝い』を買って出てくれたのだ。兄想いの、それはもう親切な御仁である。

 しかしこれから世話になる父親達は、誰も振り向かない。


「俺が二個だっ!」「何言ってんだ。お前はおやつに食ったんなら次で二個目だろっ! 計算出来ねぇ奴だなぁ」「毎度ぉ毎度ぉ」

 酒を飲んだ後の〆はシュークリームと決まっていて、明雄が買って来た奴を巡り『どう分捕るか』議論中である。


「何だい。あいつら、まぁた馬鹿な言い合い、してるのかいぃ?」

 まだ宴会中と見るや、お誕生席に座り込む。胡桃婆さんがそっと差し出そうとした座布団は、ニッコリ笑って押し返す。


「えぇまぁ。いつものことです」「しょうがないねぇ」

 答えたのは美晴である。実は明恵と美晴は仲が良い。

 て言うか、頭が上がらない。何故なら明雄と美晴をくっ付けたのが、世話好きの明恵なのだから。あれはもう何年前のことだろうか。

 だから『駆けつけ三杯』とビールを注ごうとしたが、それもやんわりと断られる。そもそもコップは全部出払っていた。


「美雪ちゃんも元気?」「あっ先輩。はい元気です。ちょっとっ!」

 振り向いた美雪が慌てている。しかし椛を抱え、立つことはままならない。明義爺さんは薫に踏み潰されているし、義弟の明光は酔っぱらいながら皮算用の最中である。夫の明人は言わずもかな。


「ジャンケン三回勝負だぁ」「後出し無しだからなぁっ!」

 子供か。喧嘩の程度が低過ぎる。しかし二人共『最初はグー』と言いながら『パー』を出して来る奴らなのだ。当然『チョキ』で負けた場合は『今の無し今の無し』で済まそうとする。

 そんな様子を見た明恵の方が立ち上がった。堪らずに美雪が明人の肩を。やっと気が付いて、勝負は一時中断だ。


「あっ恵っちゃん」「何だ明恵か」

 二人の反応が冷めているのは他でもない。明恵は幼馴染である。

 田舎でアルアルの『年の近い叔母』で、明雄とは同い年。となると当然明人の先輩となる。高校まで同窓で、しかも毎日会っていたとなれば当然そんな態度になるのも致し方なし。故に勝手に上がり込んで何をしようが、お咎めなんてある訳もない。

「何だは無いでしょぉ。人を呼んどいてぇ」「えっ? 呼んだ?」「俺知らねぇ」「家に注文は来てないよ?」「じゃぁ誰よ」

 無責任な奴らである。呼ばなくても勝手に来るような輩を誰が呼んだのか。問い詰めて責任を取らせねば治まらない。


「俺が呼んdイテェ!」「薫っ」「て言うか、何食ってんのぉ?」

 明恵は最後の一切れを口に放り込んで、手をパンパンと叩いた。

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