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実家に帰省した場合(十四)

「最近の子供は随分と甘やかされているねぇ。はいお味噌汁ですよ」

 胡桃婆さんがお盆に全員分の味噌汁を乗せてやって来た。

 多分『この日のため』に用意したであろう、とびきりデカい奴。

 バランスを取るのも大変なんだし、何度も往復したほうが、結局は溢さないで済む気もするのだが。ほらまた揺れた。危ないなぁ。

 しかし、胡桃婆さんのお気に入りなのだから、仕方がない。


「お袋も年なんだから、もっと小さいのを作ってやれよ。たく。どうせ余った戸板かなんかで、適当に作ったんだろぉ」

 文句は明雄の方から聞こえて来る。何だ。大工の明義作か。

 しかし目を瞑って聞いたなら、明雄、明人、明光の三兄弟の声は『まったく同じ』に聞こえる。勿論だが父である明義も含めて。

 実際、近所から電話が掛かって来て、真っ先に聞かれるのは『親父さん? あっ違うの? 何番目ぇ』である。確認しないで別人に話始めると、結局は二度説明する羽目になるからだ。

 しかし、明義爺さんの耳は未だ健全だ。都合の悪いことだけ聞こえ辛いのは昔からだし、今の『戯れ言』だって誰が言ったのかを聞き逃すはずもない。ちゃんと『息子の声だ』って理解している。

『誰か』については、そうねぇ。三分の一より少し高い感じでなら。


「はぁ? だったらお前が座ってないで、スッと立って、手伝ってやりゃぁ良いだろっ。口ばっかりで気が利かねぇ。親の顔が見たい」

 明義爺さんは『フンッ』と言い切る。今なら息子全員が座っているし、これで『スッ』と立ち上がった奴が犯人に違いない。

 完璧な作戦と思われたが、何故か失笑されているのに気が付く。が、ここは『明人が差し出したスマホ』に向かって決めポーズだ。

「ほら薫」「ん?」「あっちだよ。撮ってくれるって」『パシャ』

 膝に抱えた孫とちゃっかり写真に納まって、満足気である。


「ほら明光ぅ、椛ちゃん泣いちゃうからよしなさい」「ニャーッ」

 鳴き声が猫みたいなのは多分気のせい。『鳴けと言われた』と誤学習した椛が、素直に鳴いただけに過ぎない。まだ『鳴け』と『泣け』の区別など、『チー』と『ポン』以上に付かぬ。

 それでも食事前に赤子を泣かせては面倒臭い。いや、一大事だ。早いトコ何か口に入れて置けとばかりに美雪が動く。ムグゥ。


「あっ、お義母さん私が配ります」「あら良いのよ美晴さん」

 台所に一番近い所にいた美晴が、明利、明則、明保の手を叩くのを止めて中腰に。それを胡桃婆さんは笑顔で断る。

 だって『テーブルの向こう側』だから。ここでぎっくり腰が再発したら、大事であるからにして。手前にもっと良いのが居る。


「明光、あんたヒマなら配りなさい」「へーい。椛ちゃん、またね」

 ケツを蹴られてから動き出すのはいつも通り。それでも姪っ子に夢中なのは『父譲り』か。自分の店にだって、ちっさい子は来るだろうに。えっ? 厨房に居て見えない? そりゃぁ残念でしたね。

 明光に丸投げ(※実際には投げていないことに注意)した胡桃婆さんが、『やっこらしょ』と腰を気遣いながら座る。


「明義さんご存じ?」「何を」「お盆玉ですよ。お盆玉」「はぁ?」

 いつもテレビを見ている明義爺さんだが、天気予報以外は記憶にないらしい。しかしその天気予報だって、ちゃんと見ているのか怪しい。嵐の夜に『台風来たかな』と、田んぼを見に行くのだから。


「もっとデカいお盆が良いのかぁ?」「いや違いますよぉ」「明光の店から一枚貰って来たらどうだ? シュークリーム乗せる奴を」

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