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実家に帰省した場合(十三)

 例え花火があっても、爺さん婆さんの生活リズムに変化は無い。

 そこへ孫が加わったなら話は別だ。早いとこ食べて身支度を整えなければならない。何せ実物大の着せ替え人形は良く動くのだから。


「さぁさぁ。いつも同じで申し訳無いけど、お寿司にしましたよぉ」

 そうは言っても、寿司以外にも手料理がズラリと並ぶ。豪華だ。

 どれもこれも『いつもと同じ』であることには変らないとしても、寧ろ皆『それが良い』と思っている。本当の『お袋の味』は、生きている間しか食べられないと、皆判っているからだ。あと何回か。

 因みにだが、鮨正の大将は胡桃婆さんの『初恋の人』である。

 若かりし日の明義爺さんとお見合いしたときだって、鮨正の鮨であった。まぁ、この辺では『選択肢が無い』とも言うが。

 胡桃婆さんはお見合いの席で、『結婚したら毎日寿司だぁ』と、密かに憧れたものだ。勿論今もそうだし、周知の事実でもある。


「また寿司かぁ」「ちょっとあなた」「嫌なら食わんでよろしい」

 文句を言ったのは明雄である。親に対する長男特権の行使か。

 いや、何でも知っていて、何にでも一言文句を言わなければならない病に侵されているだけ。周りに特段の影響は無いので心配無い。

 その証拠にバカ息子三人は席に付くなり寿司に手を伸ばし、母親の美晴から『ペチン』とやられている。はいはい。モグラ叩き。モグラ叩き。あんまりしつこく手を伸ばしていると、雷が落ちるぞ?


「このクソガキッ。お行儀良くしろ! サンタに言いつけるぞっ!」

 とまぁ、義姉の雷が落ちる前に警告を発したのは明人である。

 明人が『サンタクロースの窓口』となっているのは、バカ息子も承知する所。打算的な奴らは、直ぐに手を引っ込めた。

 確実に仕留めて来る母親の猛攻に、手が痛くなったのもあるが。


「ほらそうだよぉ」「随分早いサンタだなぁ」

 美晴にしても有難い抑止力に他ならない。しかし夫である明雄は、弟の適当過ぎる威圧に疑問の余地があり過ぎる。いつもそうだ。


「大体、クリスマスが来る前に、忘れちゃうんじゃね? 両方共」

 バカ息子とバカ弟『その一』に対し、交互に指さして笑っている。

 オロオロするのは美晴だけで、美雪は椛の面倒に掛かりっきり。自分の旦那が悪く言われているのに、気にする様子も無い。

 その横で義弟の明光は、椛の顔を見て『ベロベロバー』である。


「いや覚えてるぞ?」「絶対忘れちまうよ。覚えてた試しがネェ」

 ならば胡桃婆さんはと言うと、味噌汁をよそうために台所へ行ってしまっていた。今は戸棚を開け、『爺さんのは丼で良いかしら』と考え中。最近一つ割ってしまったか。そう言えばさっきゴミ箱に。

 となると、頼りになるのは明義爺さんだが、薫の『これナーニ?』に対応するので精一杯。とても加勢はして貰え無さそうだ。


「じゃぁ良いの?」『パシッ』「良くありませんっ!」『パシッ』

 ほら見ろ。余計なことを言うから明利が手を伸ばしたではないか。

 続いて明則も。変な所だけ兄の真似をするんじゃ無い。要領の良い明保は、明利がひっぱたかられたのを見て手を引っ込めた。

 全く。油断も隙もあったものじゃない。家に帰ったらお仕置きだ。


「じゃぁ『お盆玉』は?」「あるの?」「やったぁ!」「忘れた」

「えぇえぇえぇ」「えぇえぇえぇ」「えぇえぇえぇ」

 約束していて忘れたのか、それとも知らぬ存ぜぬを貫くかは定かでない。ならば、変顔をし続ける明光叔父さんは、余計望み薄か。

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