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実家に帰省した場合(十)

 長男の昭利に手配を晒されて、明雄は右手で牌を隠し左手で追い払う。すると今度は、次男の明則が反対側からそっと覗き込む。

 しかし首を捻るばかりだ。何て言えば面白くなるのか判らない故。


「お父さん、この字、何て読むのぉ?」「ヤァメロッ」「緑のか?」

 思い掛けない方向からの問いに明則は反応。何だ。親子の会話に割り込んで来やがったのは『お年玉がやっすい明人叔父さん』か。

 しかしまぁ『薫ちゃんの髪を鷲掴み』にしなければ、割と優しい。


「そう」「何枚あるか教えてくれたら読み方教えt」「ハツだハツ!」

 明則も早々に追いやられてしまった。お陰で明則は『ハツ』の読みを『ハツだハツ』と覚えてしまったに違いない。しかし、ある意味合っていた。何しろ手元の發が『二枚であった』から。


 質問をした明人が、ニヤニヤしながら明雄の表情を伺う。

 明雄あにきの奴『大三元』を仕込んでいやがったか。プププ。『車』取られて必死だな。『帰りが電車になる』のは自業自得として、果たして『レンタカーで賭けが成立するのか』は不明だがな。

 まぁ世の中には『自動車保険』とか『車両保険』なんてのもあることだし、きっと何とかなるのだろう。發も『既に二枚』と見た。

 残り一枚は今、美雪から『これなーに?』と写真が送られて来た所だ。どれどれ。『出したモン勝ちのアイテム。合図したら出せ』送信っとぉ。これで良し。『ピロン』んん美雪から? 『マジ? あげようか? 家はトイレの紙がかかってるんでしょ?』だぁ? もぉ『大丈夫だ。来週特売だし』送信。『ピロン』はやっ『えー。でも一年分はデカイって』だとぉ『大丈夫。任せておけって』送信。

 強引に押し切った明人は、妻美雪の心配を他所に一人ほくそ笑む。

 何しろ昭雄は昔から『接待麻雀の名手』なのだ。『高目が出たら良いなぁ』と思っていると、ズバリ『手配から出してくれる』のだから素晴らしい。きっと次も『何か』を狙っているに違いない。


『ガラガラッ』『ただいまぁ』『あら明光、お帰りなさぁい』

 無施錠の玄関から声が。台所から胡桃婆さんが出迎えに行く。

『もう皆集まってんのぉ?』『えぇ。また『シジミ洗い』してるわ』

 胡桃婆さんの説明を聞いて、明光はまさか『皆が宴会の準備を手伝っている』とは思わないだろう。その証拠に、部屋に入って来るなり『呆れた感じ』で一言添える。


「ただいま」「お帰り」「お邪魔してます」「ポン! お帰り」

 明人の挨拶は『兄として形式的なもの』である。と言うより、『さっきケーキ屋で挨拶を交わしたばかり』なのだから、そんなもんだ。

 それに比べ美雪は『義弟に対する印象』を気にしてか、きちんとお辞儀して挨拶をしている。真後ろから声を聞いた明雄だけが振り返らないのは、長兄としての威厳を表してか。

 いや、『鳴いた牌』を整理し終わった後に、ちょっとだけ振り返って手を挙げた。幾ら仲が良くても『大人になった兄弟の関係』なんて、そんなもんだ。その証拠に、目が合った明光も『軽く手を挙げるだけ』で、特に何も言わない。それよりも『生田家發』の、じゃなくて『初』の女の子である『薫』を抱いた明義爺さんの目に釘付けだ。『女の子の初孫が可愛い』のも判るが、ボケーッとしている。

 まるで『俺の息子、まだいたっけぇ?』な顔であるからにして。


「お帰り。ご苦労さん。皆にシュークリーム、配ったのかぁ?」

 別にボケてはいなかった。しかし『謎の言葉』に明光は渋い顔だ。

「皆『飽きた』って」「そうかぁ?」「みっちゃんどぞ」「はぁい」

「もぉ。そろそろご飯よぉ! 半荘終わったら手洗ってらっしゃい」

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