実家に帰省した場合(九)
実家に帰省した場合(九)
「薫、ニと三だ」「ごっ! いち、にっ、さん、しぃ、ごっ!」
サイコロの目を自分で足して、薫が目の前を指さしている。
山の左から数え始めて、無事五番目で止まった。
「えぇ? そこからぁ?」「さては兄貴、何か仕込んだのかぁ?」
薫は『間違った?』と確認しているが、それは明義爺さんにである。当然『大丈夫だ』と頷かれてニッコリ笑う。
明雄おじちゃんは今眼中に非ず。薫は『強い者の味方』なのだ。
「いやぁ? なぁんにもぉ?」「怪しいなぁ」「まぁ良いだろ」
本来『親の前に積まれた牌の山』から取り始める。
ルールを理解していのか、それとも手が届かないからか。どちらにしても三歳の薫には『仕方ない』で済むことだ。顔を見れば判る。
「まぁ良いか。だったらこれって、『逆順』に取って行くの?」
腕を伸ばした明雄が『薫が取った四牌』に手を伸ばした。
「おじいちゃんのっ!」「えぇえぇ」「だそうだ。ありがとぉ」
薫も『牌を取られてなるものか』と必死である。牌は無事明義爺さんへと渡ったが、全て『見えている』のは愛嬌か。
折角並べてあげたのに『明義爺さんが直し始めた』ので、薫は三度振り返った。明義爺さんの顔によると『まだ相手には見せない』らしい。なら致し方なしか。大きな声では言えないが、実は薫も美雪同様『麻雀のルール』については無知である。
さっきから親兄弟同士で、仲良く『車』だの『家』だのを『掛けている』そうだが、それも『醤油を掛ける』の一種だと思っていた。
しかし今は『サイコロを振った責任者』として、最後まで任務を全うする所存だ。邪魔をしたら園長先生に言い付けてやる。
明義爺さんは例外。あとシュークリームを分けてくれる人も許す。
「そうだな。牌は左回り、順序は右回りにしておくか」「あいよぉ」
三歳児に『ルール通りだ』と幾ら訴えた所で、状況は何も変わらない。それより車が無いと、家に帰れないではないか。
「じゃぁ、次は私?」「いや俺」「左周り? 右周り?」
ルールが判っていない美雪は、腕をグルグル回して確認していた。
基本『言われるがままに牌を並べる係』である。牌を種類毎、順番毎に整理して、チマチマ一つづつ引っ張って来た牌を並べて、要らないのを捨てるの繰り返し。これの何処が面白いんだか。
「爺さんは一回飛ばしな」「あぁそうだな。じゃぁこれ美雪さん」
「えっ? 四つも頂いちゃって良いんですか?」「どうぞどうぞ」
さっきから『何か三つづつ揃える』というのは理解したが、さっきの『七対子』とかその前の『国士無双』とかは、どう見ても違うし、その前の『流し満貫』至っては意味不明であった。
「よぉし、よしよし。良いの来たぞぉ」「やっぱり積んでるよ」
これも一種の『ポーカーフェイス』か。随分と嬉しそうにしているが、本当に来ているかは不明だ。さっきもそうだった。
「これは『爺さんの山から』だろうがよぉ」「てことは?」
指摘を受けて明義爺さんは眉を顰める。口を尖らせて反撃だ。
「いや俺は何にもしてないよぉ」「怪しい」「薫を手懐けてぇ」
薫が『そうなの?』と振り向く。しかし明義爺さんが『大丈夫』な顔になったのを見て前を向く。今度は正面をジッと睨み付けた。
明雄おじちゃんは『嘘つきだ』と。薫は黙ってやっているが、実はそう確信している。流石は『馬鹿力三兄弟の父親だ』とも。
「お父さんこの白いの何ぃ?」「馬鹿言うな。あっち行ってろっ!」