実家に帰省した場合(六)
子供のすることは大抵可愛い。薫がコタツに入らないで、明義爺さんに『早くしろ』と言っている。いや、口では何も言っていないが、コタツの天板を叩いている場所は『明義爺さんの指定席』だ。
「暑くないのかい?」「良いのっ! 早くっ!」「へいへい」
ほらね? やっぱり。明義爺さんは嬉しいのを隠して指定席へ。
薫の家にはコタツが無い。有るっちゃぁ有るが、『おじいちゃん家のコタツ』は掘り炬燵なのだ。珍しいったらありゃしない。
「おじいちゃんココッ」「どっこいしょぉ」
しかしコタツの中に吸い込まれそうでちょっと怖い。
だから明義爺さんの膝の上に陣取って、落ちないようにしているのだ。それに一緒にコタツに入っていると、背中まで暖かい。
「早くっ」「やっぱり暑いよぉ」「文句を言わないっ」「へいへい」
明義爺さんが気持ちとは裏腹に、遠慮しようとするには訳がある。
何故なら季節は『夏』であるからにして、本来なら掘り炬燵は押し入れのにでも放り込んで置くべきものだ。しかし何故か生田家では、布団だけが押し入れに放り込まれている。
「私が配ってあげるねっ!」「おぅぅ」
「ほら薫、ドンッて座ったら、おじいちゃん、壊れちゃうわよ?」
何だか急に怒られて、薫は直ぐに明義爺さんの方を見た。
「大丈夫だよぉ」
薫に向かってウインク。果たしてそれは『余裕余裕』なのか、それとも『痛みを堪えて』なのかは薫には判らない。
しかし薫にとってそれは、『明確な答え』である。つまり『母親の指摘は誤りである』という結論だ。
顎を上げて『壊れてないじゃん』をアピールだ。
「ほら、おじいちゃん『痛そう』にしてるじゃない」
腕を振り笑いながら明義爺さんを指さす美雪に、薫は『また嘘を付いている』と思うのみ。しかしその後ろでは、明義爺さんが『物凄く痛そうな顔』をしていた。薫がパッと振り返る。
「大丈夫じゃん。笑ってるよっ!」
見えた爺さんの顔は、打って変わって『満面の笑み』である。
そして薫が美雪の方を向けば、再び『痛そうな顔』へと変わった。
「痛そうにしてるじゃない」
再びの指摘に、薫は思いっきり反り返った。頭が後ろへ。
「おぅっ」
胸を『ドン!』とされて、明義爺さんは驚く。今度は本当に痛かったらしい。しかし薫は涼しい顔をしている。
「おばあちゃん、お茶出してっ!」「はいはい。少々お待ちを」
全てを無かったことにしている。これは良い子に育ちそうだ。
いつも通りじゃれ合っている内に一同が席に付く。美雪は椛を抱えているので、お手伝いは胡桃婆さんが拒否。明人と一緒に座った。
「おじいちゃん、どれにするぅ?」
早速蓋を開けてみるが、中身は全部シュークリームである。
「一番おっきい奴が良いなぁ」「んんー。どれぇ?」
「じゃぁ、コレ頂戴」「おじいちゃん、コレね」「ありがとっ」
薫が配ったのは違う奴だ。一番大きいのは『薫用』らしい。