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実家に帰省した場合(五)

「はい。ありがとうねぇ」「うん!」

 胡桃婆さんが薫の頭を撫でると、満足そうに頷く。

 まるで『生田家代表』を自認しているようだが、それは果たして。


「ほら、ご先祖様も『ありがとう』って言ってるわよ?」

 胡桃婆さんが指さしたので薫は顔を上げた。

 それは仏壇の上に居並ぶ『遺影』のことであろう。しかし薫にはどの爺さん婆さんが、『ご先祖様』という名前なのかが判らない。


「ふーん」「南無南無。はい。次の方どうぞぉ」「はーい」

 興味は余り無さそう。その間もお参りは続いている。

 もしかしたら薫の後ろに『立っている』のかもしれないが、肩を揺すったのは単に痒かっただけらしい。

 まぁ写真の人物は、別に『偉人』という訳でもないし、名前と生没年が下に書いてある訳でもない。普通の爺さんと婆さんである。


「この人が『シュークリーム』好きだったの?」「南無南無ぅ」

 薫が指さしたのはツルッ剥げの爺さんである。顔も厳つい。


「正解。流石玄孫ねぇ」「何で判った?」

 胡桃婆さんが嬉しそうに薫の頭を撫でる。お参りが終わった明人は、笑顔で爺さんの顔を見上げた。爺さんは親父から聞いていた話とは違って、凄く優しかったのを思い出す。


「何か『好きそうな顔』してるからぁ」「そうかなぁ」「うーん」

 今度はお参りが終わった全員で『遺影』を見上げていた。

 実物は兎も角、本人が『遺影はコレ』と決めた写真は、シュークリームを含め、とても『甘い物が好きそうな顔』には見えない。

 勿論それが『偏見である』というのは、大人全員が理解している。


「薫ちゃんにも『シュークリームの血』が流れているのかしら?」

「いや、流れていないから」「そんなことないわよ」

 真面目な顔をして突拍子もないことを言うのは、例に漏れず胡桃婆さんである。明人は呆れて噛み付くが反論されて驚く。


「市の検診は大丈夫だったのかい?」

 いつも冗談を本気に取るのは明義爺さんだ。孫のことをとても心配しているのだろう。真剣な眼差しである。

 だから聞かれた美雪だって、何て答えたら良いのか迷う。


「えっ? えぇ、特に異常なしです。全部『正常値』だそうです」

 目をパチクリしながら答えた。確かに『嘘』は言っていない。


「そうかそうか」「はい。あっ、ちなみに椛も大丈夫です」

「おぉ。母子健康で。それは良かった」「お陰様で……?」

 どうやら義父に対する返事は『正解』だったらしい。

 決して『悪い人』ではないのだが、自分の父親とは似ても似つかないタイプであることは確か。美雪がドキドキしている間に、満足そうに頷いた明義爺さんはサッサと行ってしまった。


「あのおじいちゃん、もう食べた?」

 薫に確認されてしまっては、胡桃婆さんは笑って頷くしかない。

「えぇ。頂きましたよ。チーンってして下げて」『チィィィン!』

 反応が早い。豪快に一発鳴らすと、これまた素早く手を合わせる。

 まだ音が鳴り響いているにも関わらず、シュークリームの箱に手を掛けた。そのまま奪取して、コタツに向かってダッシュだ。

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