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実家に帰省した場合(一)

 生田明人はシュークリームが好きである。いや生田家全員が好き。

 お土産に買うのは『地元の商店街の店』と決まっている。美味しいのは勿論だが、何せそこが『生田家の御用達』とも言えるからだ。

 一説によると『生田家専用』なんて話もあるくらい、頻繁に訪れる店。一口食べれば思わず二個目も。そんな店なのだ。


 実の所、地元だけあって『生田』を名乗る家が沢山あるだけの話である。だから明人が買いに行っても『また来た』と思われるのみ。

 注文はいつも通り三秒で終わり、現金でお会計を済ませて実家へ。

 既に『お持ち帰り時間』も聞かれなくなって久しい。冷蔵庫までの所要時間は、僅か五分である。


「ただいまぁ。シュークリーム買って来たよぉ」

 さっきまでテレビを見ながらコタツでケツ掻いてたのが、おやつを買いに行ったかのような軽いノリ。

 実際は一年振りの帰省なのだが、そこは勝手知ったる実家かな。


『明義さん起きて。明人が帰って来ちゃいましたよ?』

『んん? 買い物して来るって言ってたけど、もうこんな時間かぁ』

 胡桃婆さんの声。返事をしたのは明義爺さん。明人の両親である。

 むしろ爺さんの方が『コタツでケツ掻いていた』ような、随分と気だるい声。隣近所はおろか、家族にも遠慮が無いのか。でかい声。


『ファァァ』『ちょっと大きい。孫も来てるんですからっ!』

 そんなんだから、婆さんの声もずっと大きい。

『痛てっ! 判ったよぉ。起きますよ。起きりゃ良いんでしょぉ』

 そして爺さんには遠慮も何もないらしい。きっとかかあ天下だ。


『はいはいはいはい。ほら、ちゃんと甚兵衛着て。風邪引くでしょ』

 その上、婆さんは気も短いと来た日には、爺さんも大変だろう。

『ほいほい。外は寒いなぁ。あれ、裏返しジャン』

 おや? 爺さんはあくまでもマイペースだ。


『知りませんよぉ。脱いだときに『裏返し』にしたんでしょぉ?』

『だったら、ちゃんと直して置いてくれないとぉ』

 何だか揉め事の予感。玄関では美雪と薫が呆れている。苦笑いで顔を見合わせた。明人は前に出していた箱を下げる。


『自分で気を付けて下さい! 紐切れたって、直しませんよ?』

 予想通り雷が落ちた。今日の天気予報は見事外れだ。

『ごめんなさい』

『だらしない着方。ほら鼻水、嫌だもぉ。はい。ティッシュ』

 きっと泣いて謝っているのだろう。な訳ないか。


『チーンッ! アァァッ。シュートッ!』

 その証拠に、鼻をかんだティッシュをゴミ箱に投げた。

『外れ。ブッブー。もぉ、その距離で外さないで下さい』

 テレビの隣まで『三点シュート』の距離ではない。そこで外してしまっては、自称『元MBA』の名が廃る。


「お帰りなさい。あら薫ちゃん元気ぃ?」「随分早かったなぁ」

 やっと居間から今登場。いつものこととは言え、大分時間が掛かった。ちなみに、今のやり取りも含めて『冷蔵庫まで五分』である。

 決して実家が『凄く広い』訳ではない。玄関から見える暖簾の先に、冷蔵庫の下の方が見えている。しかし人数と同じ『六個のシュークリーム』は、コタツの上で消滅するに違いない。

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