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一人娘の場合(四)

 ちょっと待て。いや大分待て。何かの聞き間違いではあるまいか。

 風呂に入っている間に『シュークリームを食べた』と言うのか?


「美味しかったよネーッ」「ネーッ!」

 美雪と薫が見つめ合ったまま、今度は首を反対側に曲げている。

 貴方達、それは随分と練習したのかな? タイミングと言い角度と言い、ピッタリと揃っているのが可愛らしい。笑顔も愛おしや。


「ありがとうねぇ」「ありがぁとっ!」

 そんな満面の笑みを明人に振り撒く。明人は一瞬目をピクリとさせたものの、三ミリ頷いた後にたちまち笑顔だ。もう一度頷いた。


「どういたしまして。美味しかったなら、何よりです」

 一家の主として、何の文句がありましょう。そもそもシュークリームは、『家族を笑顔にするため』に買って来た物なのだから。

 これ以上の笑顔は、最早『贅沢』と言うものだ。


「いただきます」「どうぞ召し上がれぇ」

 明人は改めてご挨拶。箸を持ったままだがペコリとお辞儀まで。

 すると美雪は、気が付かない振りをしながらもう一度。ちょっと笑いながらだから、多分可笑しいと思っている。

 それでも『三秒前のことは忘れてしまう』のが明人なので、気にしては居られない。良くそれで『仕事が出来る』とは思うのだが。


「パパ二度目ぇ」「そう? 良いんだよ。別に」

 薫には変に映ったらしい。笑いながら腕を伸ばして指摘だ。

 しかし言葉とは裏腹に、『指が三本』なのは致し方なし。何しろ記憶している数列が、『一・二・三・百万』なのだから。

 そうだ。今度『九九』でも教えようか。

 テレビで流行りの『おまじないの一種』のように、覚えるのも早いかも。『九×九』から逆順で教えるのも何だか面白そうだ。


「じゃぁ『いただきます』したら、もう一回良いのぉ?」

 目をキラキラさせながら、人差し指を伸ばしているではないか。

 何だかその『指の伸ばし方』だと漢数字の『一』に見えるが、実際薫は冷蔵庫を指さしているだけだった。

 明人はトンカツを一口食べた所でそれに気が付く。『何か足りない』と思いながら皿を見ると、箸先で辛子をすくい上げてペロリ。


「あぁ、良いよぉ」「やったぁ!」「あら、たいへぇん」

 良く見たら、トンカツにソースが掛かっていないではないか。

 流石にソースを口へ、後から投入するのは無理だと思う。だからご飯に掛けて口へと頬張る。うん。混ざってしまえば同じだ。


 トンカツと格闘している間に、美雪が再びシュークリームの箱を冷蔵庫から持って来ていた。薫もソファーからそそくさとテーブルへやって来る。自分の椅子へ座るのに美雪へ協力を仰ぐ。座った。

 二人の様子を眺めながら、ゴクンと飲み込んだ所で忠告だ。


「二人で『半分こ』ねぇ」「はーい!」「判りましたぁ!」

 今度も二人は揃って右手を上げて、元気良く答えた。

 明人は驚く。随分と物分かりが良いではないか。二人は笑顔だが、それ以上『何か』言われない内になのか、箱の蓋をそそくさと開けている。中からシュークリームを一つ取り出して仲良く半分こだ。


 二人が『笑顔である理由』について、直ぐに判明した。

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