不帰ノ森-その少年、生徒会長-
水鏡蓮。
男子中学生はその名を耳にした瞬間、凍りつく。「み、水鏡…!?」
少年…水鏡蓮は溜め息をついた。男子中学生の反応からするに、噂の一人歩きだろうと思った。そう思うと、溜め息が出てしまった。そして、その予想は的中してしまった。
「あの不良会長だろ…金髪で赤と緑の目の…姉の方だって…」
ぶつぶつと呟く男子中学生を見て、蓮はまた溜め息をつく。
「噂の一人歩きは面倒じゃのう」
蓮とは別の、女性の声が蓮の背後から聞こえてきた。男子中学生が蓮の後ろに視線を向けると、そこには銀色の髪をなびかせた美しい女性が立っていた。否、浮いていた。その体は何故か、半透明だった。男子中学生は女性を見て、更に青ざめた。女性はそんな男子中学生を無視し、蓮に話かける。
「やはり憑かれておるのう。早いところ片付けねばのう」
古風な喋り方の女性は男子中学生をみる。蓮は、制服のポケットからお札らしき紙を取り出し、頷いた。
「そうだな、かがみ。てか早くしないと俺も補導されるし」
男子中学生は怯えているのか、震えていた。
「流れよ、輪廻を廻りし輝く女神。我の名のもと、哀れな魂に居場所を与え、在るべき場所へ運べ」
蓮は一呼吸あけてから、続きを唱えた。
「神月鏡水流呪術壱式『琉雨』」
唱え終わり、お札の光が消えると同時に男子中学生の身体から黒い靄が出た。その靄は女性…かがみの手の中へ消えた。
「吸収完了じゃな」
かがみが蓮に笑顔を向ける。蓮は頷き、男子中学生の元へ歩いていく。男子中学生の瞳は先程とは違い、生気の灯った目をしていた。
「とりあえず祓ったから大丈夫だと思う。盗んだ品物は俺がなんとかしとくから、今日は早く帰った方が良いよ」
蓮はそれだけ言って、歩き出した。
1人残された男子中学生はただ呆然としていたが、不帰ノ森が妙に暗く、男子中学生は背筋を凍らせて帰って行った。