美少女バトルアンドロイドのクリスマスプレゼント
「ニコラウス様、そろそろ行かないと、今日1日で世界中の良い子達にプレゼントを渡せませんよ……いや世界中は盛りすぎか……」
トナカイ8頭立ての魔法の大型ソリの最後尾の新人トナカイであるキューピッドが大魔法使いセントニコラウスに言うと、魔法の杖と魔法の天秤を手に持った大魔法使いセントニコラウスは優しい笑顔で言った
「そうですね……まあ、とりあえず良い子達にご褒美を与える旅に出発するとしましょう……ではキューピッド、先頭のトナカイリーダーに出発の合図をお願いします」
セントニコラウスがそう言った途端、魔法の大型ソリの後方からものすごい雄叫びが聞こえた
そしてその雄叫びの主は、ものすごい勢いでセントニコラウスとキューピッドの方に走り寄ってくる
「わっ!……何だ、あれは!……ヤギの獣人?……いや、ま、まるで悪魔のような……いや悪魔そのものじゃないか!!!!」
キューピッドが驚くのも無理は無かった……そのヤギの獣人は悪魔のような顔をし、頭には黒い長髪の中に長く鋭いツノが生え、口からは牙も生えていた
袖のない真っ黒い毛皮を着ているその悪魔のような者から出ているむき出しの両腕は筋肉隆々だった……
さらには、右手にはムチ、左手には大きな袋を持っていた
その悪魔のようなヤギの獣人は、大魔法使いセントニコラウスに言った
「ご主人様……方向指示器……大丈夫……問題ない」
セントニコラウスは、それには答えず驚くキューピッドに言った
「ああ……この者はクランプスと言います……魔界出身の悪魔で私の従者なのです」
「や、やっぱり悪魔!!!!」
叫ぶキューピッドを見ながら悪魔クランプスが言った
「ご主人様……このトナカイ食ってもいい?」
「おい! 何言ってんだ、この悪魔は! そんな目で俺を見るんじゃない……ていうか、ニコラウス様、なぜこんな悪魔なんかを従者にしているのですか?」
「えっ、ああ……このクランプスは、もし魔法の天秤で悪い子だと分かったら、その悪い子を袋の中に入れて魔界に連れて行ってもらう為ですよ……うふふ」
「いや、セントニコラウス様、うふふじゃないですよ!!!! 今、相当怖いことをサラッと言っちゃいましたね」
「そうですか? 悪い子には罰を与えねば……」
「いや、完全に度を超えちゃってますね……訴えられますよ」
「えっ、今までは大丈夫でしたよ」
「そうなんですか? 私はソリを引くのは今年からなもので……その辺りのことはよく分からないのですが……」
「まあ、とにかくこの悪魔クランプスはソリの整備も出来るので助かってるんですよ……今も調子の悪いソリの方向指示器を見てもらってたんですが……大丈夫なようですね」
その言葉を聞いた途端、嬉しくなったのかクランプスは背負っているリュックからタンバリンを取り出し激しく叩き出した……荒々しいタンバリンの音が辺りに響く
すぐさまキューピッドは悪魔クランプスに言った
「ちょっと、この人……いや、この悪魔、騒がしいな! いや、クランプス、こっちを睨むんじゃない! 怖いんだよ……それにニコラウス様もサラッと人さらいの話をうやむやにしましたね」
「人さらいとは人聞きの悪い……私は神に仕える聖ニコラウスですよ」
「これは失礼いたしました……そんなに睨まないでくださいよ……で、では出発する旨をトナカイリーダーに伝えてまいります」
それからしばらくして、トナカイ8頭立ての魔法の大型ソリは凍てつく寒さの中、澄んだ空気を切り裂くように大空に向かって、一直線に走り出したのであった
シャンシャンシャンシャン……
大空を飛ぶトナカイ8頭立ての魔法の大型ソリ……
トナカイの鈴の音が静かな空間に美しく……そして力強く響く……
「イテッ!!!!」
最後尾にいるトナカイのキューピッドは突然の痛みに後ろを振り返った
「ちょっと、ニコラウス様! 今、こいつ……いや、悪魔クランプスが私のお尻にムチを入れましたよ……って寝てるし……」
突然、悪魔クランプスが叫んだ
「悪い子は、いねーか!!!!」
「いねーよ! ここは空の上なんだから」
「ガハハハハッ……」
「何、急に笑いのスイッチ、入っちゃってるんだよ……全然面白くないんだよ……あとそのタンバリンうるさいよ……俺たちの鈴の音より目立ってどうすんだよ」
「やっぱりお前……悪い子か?」
「ただのトナカイだよ……っていうか、そう言いながら手に持った袋を開けようとするんじゃないよ……怖くなっちゃうだろ」
その時、セントニコラウスが目を覚ました
「もう着いた?」
「いや、もう着いた? じゃありませんよ、運転手はあなたですよ……居眠り運転しないでください!」
「すいません……そうでした……でも安心してください、自動運転ですよ」
「へー、そうなんですね……って言ってる場合ですか! 急ぎましょうよ」
「ええ、そうですね……この辺りは……っと……たしか最近出来たアルテミス国でしたね……あっ、森の中を少女が歩いてますね……行ってみましょう」
トナカイ8頭立ての魔法の大型ソリは少女のそばに降りた……
「そこを行くあなた……ちょっとお待ちなさい」
「えっ……私のこと?」
「ええ、そうです……あなたお名前は?」
「私は……カーリン……サヤ・カーリンよ」
「サヤ……可愛い姿に、可愛い名前……」
セントニコラウスはそう言うと、いきなりサヤ・カーリンの目の前に魔法の天秤を差し出した
たちまち魔法の天秤は光だし、左の皿には小さな天使が、右の皿には小さな悪魔が現れた
すぐにサヤ・カーリンの目の前の魔法の天秤は左の皿……つまり小さな天使が乗っている皿の方が下がっていった
それを見たセントニコラウスは言った
「あなたは良い子なのですね……ご褒美を与えましょう……サヤ……あなたは何が欲しいですか?」
するとサヤは新人トナカイのキューピッドの方を指さし言った
「私……あのトナカイが欲しい!!!!」
指さされたキューピッドは慌てた
「えっ、私? そんな……困った……突然の告白……」
慌てるキューピッドを見たセントニコラウスは言った
「サヤ……残念ながらあのトナカイはプレゼント出来ないのです……でも分かりました、少し待っててください」
セントニコラウスは魔法の杖でソプラノリコーダーを取り出し、ある有名な曲を吹き始めたのだった
時々、ピーッと音が外れた……悪魔クランプスも曲に合わせてタンバリンを叩き出した
突然気温が5度下がった……
「寒い……」
サヤ・カーリンがそう言った途端、森の奥から一頭の巨大なオスの鹿がやって来てサヤ・カーリンの前で止まった
「サヤ……この鹿を差し上げます」
「えっ、いいの? ありがとう! やったー! わーい!」
「ご主人様……この鹿、食っていい?」
サヤ・カーリンが喜ぶ姿をよそ目に悪魔クランプスがそう言いながらサヤ・カーリンを押しのけ鹿の前に行こうとした
ガシッ!!!!
だがサヤ・カーリンはビクともしなかった……
悪魔クランプスはサヤ・カーリンの両肩を持ち、さらに力を込めた
だがサヤ・カーリンは微動だにしない……
悪魔クランプスは天に向かって雄叫びを上げ、悪魔の呪文を唱えようとした
しかし、クランプスが唱え終わらないうちにサヤ・カーリンは悪魔クランプスに頭突きをした
「ギャーッ!!!!!!!!」
悪魔クランプスはその瞬間、叫び声と共に後ろに20メートルほど吹き飛んだのだった
「鹿さんを食べたらダメー!!!!」
それを見ていたセントニコラウスは言った
「そうですね、サヤはやっぱり良い子ですね……クランプスは私があとで叱っておきますね、ではサヤ……ごきげんよう」
そう言うとセントニコラウスは魔法の杖を取り出し、悪魔クランプスに魔法をかけて体ごと浮かせると魔法の大型ソリに乗せて先頭のトナカイリーダーに合図を出した
その途端、トナカイ8頭立ての魔法の大型ソリは、ゆっくりと浮かび8頭のトナカイ達が一斉に勢いよく走り出すとスピードが、ぐんぐん上がり、あっという間に大空の中に吸い込まれていったのだった……
あとに残された巨大なオスの鹿に跨ったサヤ・カーリンは新しい相棒という最高のプレゼントを貰い、嬉しさのあまりトナカイ8頭立ての魔法の大型ソリが見えなくなった後も、いつまでも大空を見上げていたのであった……