ひとりぼっちの戦い
新章スタートです。
宜しくお願いします<(_ _)>
「リウラ、頼むから返事してくれよリウラ!」
リウラの契約戦士カードに話しかけるが、返事は返ってこない。
レイルは休眠状態でも外界の様子を把握していたことから、意図的に無視しているのか。
とにもかくにも残りライフは2。このままリウラが引っ込んだままではライフ1も確実だ。
先の見通しは立たないが、立てるためにもライフは確保しなければならない。
「……他の皆は」
もう頼るべきは他の仲間だが、レイルの監視下に置かれる以上、頼りにするわけにはいかない。
それどころか、投降しなければ仲間の命がないと脅してきた。
無数に溜まっているラインのメッセージを確認する。
結や那由多は混乱状態だ。メッセージの数が多いし、変換しきれていない文章や誤字が目立つ。二人ほどではないが紬も同様だ。
その中で、「取り敢えず一度連絡しろ。連盟の情報を渡す」と短い文章だけ残された豪のメッセージが目についた。
その下にある電話番号をタップし連絡を取る。そういえば携帯番号は登録していなかった。
「おせえよ‼」
着信音の後、開幕一番に豪が怒鳴った。
「ごめん、リウラに過去のこと聞いてた」
「なるほどな、それは後で聞かせろ。……とりあえずこっちが分かっていることを話せるだけ話す」
電話から聞こえてくる豪の声はとても冷静だ。聖也も混乱の真っただ中なので、落ち着いた声は頭が冷えてありがたい。
「今回俺たちはお前を助けられない。お前以外の皆、あのレイルって奴の監視下に置かれることになった。お前を連れてこなければ全員殺すと脅されている」
「……僕にもレイルから連絡がきた。投降しなければ仲間の命がないって」
「……んで、連盟傘下のプレイヤー117名、総出でお前のライフを狙うことになった」
予想はしていたが、宣言通り完全に潰しに来るらしい。
「リウラの様子はどうだ? 暴走の心配は?」
「それは多分大丈夫……だけどもう戦いたくないっていって、会話もできなくなった」
「結ちゃんの時みたいな感じか?」
「……うん」
「……まじかよ」
どうやら豪はリウラの戦力を当てにしていたようで、落胆する声が電話口から聞こえてくる。
「……ねえ、僕はどうすれば」
「あ? 逃げちまえばいいだろ」
「でも僕が投降しないと、皆のライフが危ないんじゃ……」
「多分だけど、それはないだろ」
その根拠はどこからくるのか。
聖也が疑問を声にする前に、豪が回答する。
「連盟は元々戦いたくない奴らが集まってできた組織だ。レイルがトップに代わっただけで。『非戦闘主義者の集まり』であることには変わらない」
「……それはそうかもしれないけど」
「そもそもお前を連れてくることなんて、今からできるわけないだろ。家知らねえし。そんな中お前が来ないからって言って、一方的に俺らを虐殺して見ろ。非戦闘主義者の集まりで成り立っている組織が、レイルって奴の独裁組織に早変わりだ。あいつら死ぬのが嫌でリウラを狙うけど、かといって自分の都合で仲間の命を奪ってくる独裁者についていきたいわけじゃねえよ」
ああなるほど、と言われて初めて聖也も理解した。
そもそも連れてこいとは言われていたとしても、スタート地点を決めるのは聖也だ。
投降するために合流場所を指定したとして、それに聖也が付き合ってくれる保証は何一つない。
豪や結の立場からできるのは、投降するように促すことだけだ。
そんな中、豪たちの立場を鑑みないで、レイルの判断だけで罰を下してしまえば、『全プレイヤーの復活と、滅びた世界の再生』という理念でギリギリ繋がっている組織が、レイルの独裁政権に早変わりだ。連盟と大層な名が付いてはいるが、連盟はあくまで『非戦闘主義者の集まり』でしかない。
平和的なゲームの終結を目指す以上、疑わしきを強引に罰する判断を、組織のトップとして下すわけにはいかない。
連盟は反乱者を既に出してしまった。同胞への不信な感情が渦巻く中、これ以上の分裂は避けたいところだろう。
言われてみれば理にかなっている。聖也よりも豪の方がよっぽど冷静に物事を見れていた。
「こっちは先生もいる。俺たちが勝手に何とかする。……お前のやることは一つだ。死ぬな。とにかく死なないことだけを考えろ。先のことはそれからだ」
豪の総括に力強く頷いたところで、開始3分前のアラートがなった。
マップには数点ピンが立つばかりで、ほとんどのプレイヤーがスタート位置を決めていない。
「最初はあいつら、各エリアに均等にプレイヤーを配置するらしい。そして、レイルのカウントが溜まり次第、【集合】カードで一旦一か所に集まるつもりだ」
「……もしかしてリウラ対策?」
「ああ。向こうはリウラが休眠状態だなんて知らないからな。レイルとリウラのカウントは一緒だから、それを目安に集まって体制を整える手はずだ」
10分前後で、一時的に人波が引くというわけだ。それ以前と以後も自分一人で戦わなければならないことには違いないが。
「……俺たちは駅・商店街エリアをスタート位置に指定されている。レイルもそこで俺たちを見張るつもりだ」
「じゃあ、僕は他のエリアでスタートしたほうがいいね」
「そう思う。……俺が話せるのはこれくらいだ」
ふがいなさそうに声のトーンが落ちたが、これだけ情報がわかるだけでもありがたい。豪はできる限りのことをしてくれたと言っていい。
「……つまんねえ死に方するなよ」
「本当にありがとう。足掻くだけ足掻いてみる」
住宅街エリアにピンを立て、礼を言ったところでカウントダウンが終了し、聖也は【召喚都市・夜】に転送された。
「取り敢えず生き残らないと……」
転送終了と同時に、聖也はすぐさま路地裏の物陰に身を隠し、辺りの様子を伺った。
誰一人として味方のいないサバイバルが幕を開けたのだった。