閉幕 もうお前とは戦えない
「これが……俺の記憶……。俺の世界の最後と、俺が過去に起こしたことの全てだ……」
全ての記憶を受け取った聖也は、絶句してリウラの言葉を待った。
自分からかける言葉が見つからなかった。
人を殺してしまった時の罪悪感やいたたまれなさは良く分かっているつもりだった。両親が事故に会ってから自己嫌悪に走った自分がそうだったから。
だが、リウラの体験は自分の想像をはるかに超えていた。
故意でなかったにしろ、愛した者全てを自分の手で消滅して回った記憶など、どう受け止めればいいのか。
そして、その破壊の遺伝子は今リウラの中に再び芽吹いてしまっている。
ラクナもアーサーもファルモーニも。恐れていたのはリウラがこの記憶を取り戻すことだったのか。
「聖也……俺は破壊神としての復活を阻止するため……、休眠状態に入る」
スキャナーからしたリウラの声に、少しだけ遅れて聖也が反応した。
「休眠……?」
「……お前からの心力の供給を意図的に遮断し、眠りにつく。……結の契約戦士、レイルが行っていたのと同じだ。これ以上お前の心力を受け取ってしまえば、破壊神としての力に歯止めがきかなくなり、また暴走してしまうかもしれない」
「……ちょっと待って、それってどういう」
「もうお前とは戦えない」
遮るように重なった弱弱しい声に、聖也は言葉を引っ込めてしまった。
「……今までありがとう。俺が相棒ですまなかった」
暫くの静寂が部屋を支配した。
何の声もしなくなってから、それがリウラの最後の言葉だと気が付いた聖也が、慌ててスキャナーからカードを抜き取った。
「待ってよ。何だよそれ……」
自分を拒絶するかのように冷たくなったリウラのカードに、聖也は必死に語り掛けた。
「こんな最後嫌だよ。望んでしたことじゃないんだろ。皆の為を思ってしたことなんだろ。眠ってリウラはどうするんだよ。リウラがいなきゃ、僕はリウラを守れないよ」
声を震わせながら、聖也は続ける。
「何寝てんだよ……! 起きろ……起きろよ! 何かしようよ⁈ ちゃんと話そうよ⁈ わかってまだ何もしてないよ⁈ これで最後だって言われて、納得なんかできるわけないだろ?! ねえリウラ! リウラぁ‼」
強い声で叫んでいると、聖也の部屋のドアが開いた。
「……大丈夫? どうしたの?」
心配そうに廊下から部屋をのぞいてくる義姉の姿を見て、頭が冷えた聖也が「……ごめん、なんでもない」と乾いた声で誤魔化した。
明らかに動揺した顔で固まる聖也を訝し気に見つめて、「……夜中は静かにね」と言い残して義姉の美月が去る。
落ち着け、僕が取り乱したら終わりだ。
何をするにしても、まだ時間はある。皆と相談して、次の戦いまでに何をするか考えないと。
混乱する思考を何とか抑えようと、聖也がゆっくりと呼吸を整えた時だった。
「……は?」
スキャナーの画面が一瞬赤く光った。
この赤く光る現象は——まさか。
取り出して画面を確認すると、ログインのボタンが消えていた。
―― Next Game Count Down ------00:29:24.15 ――
そして、無慈悲に表示される次のゲームまでのカウントダウン。
「ふざけ……?! まだ前のゲームから1時間も……‼」
反射的に時計を見たが、前回のゲームから現実世界の時間換算で、まだ2時間も経っていない。
前回のゲームから間髪入れずに、次のゲームまでのカウントダウンがスタートする。
今まで何度か戦ったが、ここまでゲームのスパンが短いのは初めてだ。
まずいまずいまずい。
リウラが休眠するということは、かつての結と同じように、リウラを召喚できなくなるということ。
そしてレイルは言った。聖也の仲間を監視下に置くと。
結は言わずもがな。那由多や豪たちの助けを期待するわけにもいかない。
つまり、碌なデッキを持っていないにも関わらず、聖也は一人で——リウラの力抜きで次の戦いを生き延びなければならない。
このままじゃまずい。このままじゃ。
だけど今から何ができる? 生き残るために何ができる?
やらなきゃいけないことも、確かめなきゃいけないことも多すぎる。
だけど何かをする時間なんて残っていない。
もの言わなくなった相棒のカードを眺め、聖也は着々と進んでいくカウントダウンを眺めることしか出来なかった。
消滅へのカウントダウンを刻むように、次のゲームまでのカウントが刻一刻とその数字を減らしていくのであった。
更新の間隔があいてしまい、申し訳ありません。
ゆっくりでも物語は最後まで書き切ろうと思っているので、
お付き合いいただけますと幸いです(;´Д`A ```
次からまた新章に入ります。
楽しんで頂けるよう、頑張ってまいりますので、どうぞよろしくお願い致します。
それでは<(_ _)> あでぃお~す