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サモナーズロード ~召喚士の王~  作者: 糸音
GAME0 限られた永遠と破壊神の誕生
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鏖(みなごろし) そして終焉

「何が起こった……?」


 虹の渦が黒く瞬いたと思えば、中央塔から外に広がる街並みが崩壊していた。

 町を駆け巡る、無数の命を飲み込んでいく黒い雷の中心から感じられる生体反応に、レイルはハッと目を剥いた。


「リウラ……」


 何故リウラが世界を破壊しているのかはわからない。

 原因があるとすれば、渦の中に鎮座していた謎の存在。

 自分たちの世界を陰で支配していた謎の存在だ。


 とうとう世界を滅ぼしに来たか。


 つまらない世界を作ったら、お前の世界を滅ぼしてやる。


 そう忠告を受けていたレイルは、ついにその時が来てしまったのかと確信した。

 リウラを媒介にして、世界を滅ぼしにかかったか。


「全兵士に告ぐ! 正体不明の(いかづち)が街を強襲! 戦えるものは私のもとに集い、奴の討伐にあたれ!」


 リウラと正体を明かしてしまえば、兵士の戦意を削ぎかねない。

 正体を伏せ、中央塔にいる全ての兵士に招集をかけるも、


「……はは」


 窓の外に映る光景に、思わず乾いた笑いが漏れてしまった。


 中央塔や民を守るための兵士たちが真っ先に逃げ出している。

 それもそうか。厄災との戦いは全てリウラに投げていた者たちだ。


 アーサーがよく言っていた。リウラやあんたでも勝てない奴が相手なら、あんたを見捨てて真っ先に逃げ出すと。


 わかっていたことだ。街の皆は私を慕って、私の下に仕えてくれているわけじゃないと。

 仕えてくれているのは自分の下が一番()()だからだ。生存競争のために戦わなくていい。争わなくていい。強さ以外にも生きる価値があっていい。

 その価値が、かつて自分が愛した友のように、強さ以外の勝ちを——他者への愛を育むきっかけとなればよいと思っていた。

 それを育めていれば、こんな窮地にも、きっと自分の傍で戦ってくれる者もいただろうが、


 街を見捨てて逃げ出す兵士たちの姿を見て、今は全て空しく感じる。


 逃げ出した兵士たちを、真上から現れたリウラが一瞬のうちに飲み込んで、中央塔内を駆け巡ってレイルの下へ現れた。


「結局、お前の世界だったな」


 謎の存在は言った。リウラが生まれたからお前の世界をもう少しだけ生かしてやると。

 厄災に苦しんでいるときに、突如として現れた最強の戦士。

 意志を叶える心力(スヴォシア)の力が生み出した、皆の願いの結晶。


 理想は描けずとも、王である自分ではなく、リウラを軸にして世界は回っていた。

 誰もが逃げ出す厄災を前に憂悶果敢に立ち向かい、圧倒的力で窮地を救う。

 得た心力(スヴォシア)を皆で分け合い、人望も厚い。

 リウラが勝てるといった時は、誰もが勝利を無条件に信じた。

 リウラが見た夢を、誰もが一度は受け入れて同じ夢を見た。


 きっと招集を呼びかけたのがお前だったなら、逃げ出す兵士はいなかっただろう。

 お前が国を治めてもダメなら、皆現状を受け入れただろう。


「つまらない世界で、すまなかった」


 リウラを虹の渦に飛び込ませたのは、自分が治める世界に対する不満からか。

 せめてこの世界の王として、最後まで抗わせてもらう。


 レイルが剣を抜き放ち、黒い雷を纏うリウラに向かい直った。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ‼」


 自我を失った獣の咆哮が王の間に響き渡る。

 爆発するように増幅した雷のオーラが触れた個所が、ひび割れるように崩壊した。


 爆発から少しだけ間をおいてから、リウラとレイルは同時に駆けだした。

 駆けだした瞬間、レイルの背筋を死神がそっと撫でた。


 ああ、このまま正面から当たってしまえば負ける。


 しかし、もう引き下がれない。

 ならばと捨て身の一撃をくらわそうとした時、


「やめろおおおおおおおおおおおおお‼」


 アーサーがどこからともなく表れて、リウラとレイルの間に、必殺技スキル——【萬流転槍(ばんりゅうてんそう)】を発動させながら割って入る。




「何やってんだリウラあああああ! お前が一番こんなことしたくないだろうが⁉ 目を覚ませ! 目を覚ますんだよおおおおおおおおおお‼」

「アーサー?! お前、逃げたんじゃ……」


 恐怖で涙をボロボロと流しながら、蒼炎の盾を構えてレイルを庇うように割り込んだ。

 だが、最強の防御スキルをもってしても、黒い雷の浸食に耐え切れずどんどん盾が蝕まれていく。


 呆然とアーサーの背を眺めるレイルに、アーサーが投げやりに叫んだ。


「何ボーっと見てんすか⁈ さっさとリウラを止めてくださいよおおおおお‼ あいつの顔見りゃ本意じゃないことくらいわかんでしょうがあああ?!」


 アーサーの言葉でようやくリウラの顔を直視した。

 黒い雷で分かりにくいが、奥で淡く光るのは涙。

 意識を失いながらも、涙を流して皆を飲み込んだリウラの姿か。


「早く……! もう、もた——」


 とうとう限界が来て、アーサーは雷に飲み込まれ塵となって消滅していった。

 消滅するアーサーを横目に、レイルは自分の持てる全ての力を剣に込めて、咆哮と共にリウラに肉薄する。


「うあああああああああああああああああああ‼」


 体がひび割れ、消滅しながらも、レイルは最後の力でリウラの体を貫くことに成功した。

 視界に映る自分の体がボロボロと崩れ去っていき、下半身の感覚も消え失せていく。


「レイ、ル……」


 視界の端に映るリウラが、弱弱しい声で何かを言っている。


「……ご、め——」


 全てを聞き取れなかった。

 自分とリウラ、どちらが先に果てたのかはわからない。

 ただ確かなのは、この世界がこれで終わったということだ。


 心力(スヴォシア)があれば、もっと違う結末を描けていただろう。

 心力(スヴォシア)がなくとも、他者を慈しむ愛が育めていれば、別な終焉を描けていただろうか。


 自分が作り上げたのは、進化の意志も、他者への愛もない世界。


 レイルが今世を振り返って出した結論は、自分の統治は()()だったこと。

 そして、その失敗を活かせる者は、もう誰も残っていない。


 アーサーもスカーレスも、ラクナも、リウラも全員死んだ。






 幾ばくかの時を経て、レイルやリウラといったこの世界の者たちは転生をするが、それに気が付くのはもう少し後の話。


 転生して、カードの契約戦士(チャンピオン)として生を取り戻した者の誰かがなんとなしに言った。


 世界を滅ぼしたのはリウラ——【破壊神】として目覚めたリウラだったと。


 これがリウラたちの世界——リウラが滅ぼした世界の終焉(さいご)の話だ。


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