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サモナーズロード ~召喚士の王~  作者: 糸音
GAME0 限られた永遠と破壊神の誕生
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滅びる前の世界①

間が空いてしまいました。申し訳ございません。

新章スタートです<(_ _)>


過去編にはなるので、出来る限り短くなるように努めます。

 かつては緑で溢れていた世界だったという。

 上空の巨大な虹色の渦から、世界中に心力(スヴォシア)が降り注ぎ、その心力(スヴォシア)を糧にし、様々な生命が進化していった。

 生命が数を増やすにつれて、問題となっていったのが、心力(スヴォシア)の量。


 虹の渦が吐き出す心力(スヴォシア)の量は()()()の為、生き物の数が増えるにつれ、空気中の心力(スヴォシア)を摂取するだけでは、生命の維持が叶わない個体が増えてきた。

 そのためか、肉食により心力(スヴォシア)を摂取する個体が増え、以後、その世界の生命たちは、戦闘に特化した肉体、そして特殊能力【スキル】を体に宿した生命体が、生態系を牛耳るような世界に変貌していく。


 人間の世界では、植物は光合成により、自発的にエネルギーを生み出し、草食動物は植物を、肉食動物は他の動物を。死んで朽ちた肉体をベースに分解者が死肉を分解し、植物が育つ土壌を作る。

 このように、生命が循環するためのサイクルが、リウラたちの世界にはなかった。


 心力(スヴォシア)はどんな素材にも、エネルギーにもなり得る万能可変物質。そのため、心力(スヴォシア)を元に生命活動を行う生命は、心力(スヴォシア)を摂取し続ける限り、その肉体が老いることはない。その上、世代を跨がずとも進化する。

 全ての生物が心力(スヴォシア)を元に生命活動を行うにも拘らず、虹の渦は一定量しか心力(スヴォシア)を吐きださない。生命の数が増え続けるも、それを養うだけのエネルギー基盤はこの世界には存在しなかった。


 これが何を引き起こしたかと言えば、極端なまでの弱肉強食の世界だった。

 心力(スヴォシア)を得られる強い生命体は、どんどん進化し、他の生命体を駆逐していく一方で、心力(スヴォシア)を得られない弱い生命体は、可能な限り体の消費エネルギーが少なくなるよう、生命体として省エネを図りながら、短期間で何度も世代を交代させながら、自分の遺伝子を残し続ける。


 そんな世界に終止符を打ったのが、レイルと言う一人の戦士だった。

 彼女は圧倒的な力で、強者も弱者も全て自分の支配下に治め、すべての者が公平に、一定の安全と命を保証されるよう、社会の構築を図っていく。


 彼女は渦から吐き出す心力(スヴォシア)を管理するために、【中央塔】と呼ばれる城を作った。虹の渦に届きそうなほどの高さを誇る中央塔の頂点には、虹の渦から放出される心力(スヴォシア)を1か所に集めるための吸収装置が設置され、世界の心力(スヴォシア)は一度中央塔に集められてから、他の生命に再分配されるという形式になった。


 そのため、心力(スヴォシア)を得られる基準が強さから、どれだけレイルが治める社会に貢献できるか、というものにシフトしていった。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 そんな世界が形成されてから、1000年ほどが経過した頃の話だ。


「【厄災】が出たぞー!」


 中央塔で外を監視していた、兵士の声が響き渡る。

 建物内を一気に緊張した空気が支配し、辺りがざわつき始める。

 騒然とした様子の中央塔に、「皆、落ち着け」とアナウンスが響き渡った。


「今リウラを向かわせた」


 リウラ、という名を聞いた瞬間、緊張の声は安堵の息に様変わりをする。

 そんな塔内の様子を見て、皆の表情に共感しながらも、国の危機への対処を一人の戦士に依存している現状に、アナウンスの主は複雑そうな表情になった。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 虹の渦の真下に作られた中央塔。

 その中央塔を取り巻くようにして、街が形成されている。

 中央塔付近には高い建物や、色とりどりの街路樹が植えられ、煌びやかな光景が広がる一方、中央塔から離れた【下町】と呼ばれるエリアには、簡素な造りの、低い高さの建物が立ち並んでいる。


 そしてその下町を覆うように、高さ50mほどの城壁が設置されている。街の外に広がる砂原の砂塵や【厄災】から、街を守るための城壁だ。

 以前は街の外にも緑が広がって、自然豊かな光景が広がっていたのだが、中央塔ができ、心力(スヴォシア)を一か所に集めるようになった影響で自然が育たず、砂原と化した。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ‼」


 そして、その砂原に【厄災】と呼ばれる巨大な魔物が出現し、咆哮が辺りに響き渡る。

 全長2000mにはなるであろう巨大な体躯を持つ、竜のような魔物の咆哮は、辺りの砂を巻き上げ、強大な砂嵐を発生させる。

 世界を揺らすような魔物の雄叫びは、街の者たちの不安をあおった。


「……ふむ。奴の肉は旨そうだな」


 そんな巨大な存在を、城壁の上から呑気に眺めながら、一人の男が呟いた。


「【次元跳躍】」


 男は足元にエネルギーを凝縮させ、厄災の目の前に瞬間移動すると、その顔面を回し蹴りで蹴り飛ばした。 


「グオオオオオオオオ?!」


 突然現れた自分よりもはるかに小さい戦士から繰り出された一撃で、厄災の体は宙に浮き、後方へ転がりながら吹っ飛ばされる。

 強烈な一撃で意識を昏倒させる厄災を目の前に、男は大きく腰を落とし、持っていた薙刀の刃の先にエネルギーを集中させ始めた。


「【ゼロフレーム】」


 男が薙刀を振るうと、厄災の体が、周囲の地面が、空気が、世界が。同時に発生した無数の斬撃によって深く切り刻まれた。

 もの言わなくなった肉塊を眺め、男は一息ついてから、腕に装着された端末で、報告を始める。


「討伐完了した。回収の者を回してくれ」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ほう、これはまた巨大なサイズのものを討伐しましたね。リウラ」


 リウラと呼ばれた戦士が討伐した厄災の死骸を見て、ラクナという名の女性が感心したような声を上げた。


「【無限機械兵(ムゲンマキナ)】」


 ラクナが呟くと、ラクナの足元から無数の機械兵たちが出現し、死体を解体し始めた。そそして肉や皮といった素材を、別の機械兵が中央塔へと運び始める。


「相変わらず便利な能力だ。それで、今回の心力(スヴォシア)量はどれくらいになりそうだ?」

「お待ちを……だいたい670億2190万E(エル)になるかと」


 厄災の体の構成要素も心力(スヴォシア)だ。その死体は食料やエネルギー資源に利用される。

 算出された量を聞いて、リウラが「おお!」と感歎した声を漏らした。


「虹の渦から摂取できる1年分の量ではないか‼」

「ええ。素晴らしい量ですね」

「……して、その厄災とやらを討伐した際の報酬も、素晴らしい量になるのではないか?」


 リウラが期待を込めた眼差しでラクナを見やると、それを冷ややかな目で一瞥したラクナは、小さく息を吐いて、淡々とした声で返す。


「……ええ。あなたへの報酬は通常の給金とは別で用意します。厄災から得られた心力(スヴォシア)量の7割を討伐者へと還元。今回も討伐者はあなた一人なので、先ほど提示した7割量の心力(スヴォシア)があなたの元へと支払われます」

「よし!」

「端末を貸してください。リウラ」


 少しラクナを訝しみながらも、リウラは端末のついた腕を差し出した。

 リウラの端末の画面をタッチ操作し、何やら設定を弄っていると、作業を終えたラクナが「よろしい」とリウラの腕を開放する。


「あなたの心力(スヴォシア)決済機能の制限期間を更新しました。よってあなたは、今日から2週間心力(スヴォシア)を使っての買い物ができません」

「なんてことをしてくれるのだ⁈」


 ラクナの報告にリウラが悲鳴に近い声を上げた。


「ようやくペナルティが解除され、自由に心力(スヴォシア)を使えると思ったのに!」

「……そもそも、なんで私があなたに心力(スヴォシア)の使用制限を設けているのかわかってますか?」

「……俺が無駄遣いをするから」

「分かっているなら抗議の声など上げないでください」


 やれやれと呆れた様子で背を向けるラクナの肩を、「待ってくれ!」とリウラが掴む。


「何度も説明しているが、あれは無駄遣いではない。俺が価値を感じたものに対し、相応の支払いを行っているだけで……」

()()? 心力(スヴォシア)が残り少ない者に対し、相場以上の心力(スヴォシア)で商品を購入しているという報告がありましたが」

「……」


 ラクナの言葉に、リウラは言葉を引っ込めながら怯んだ表情になる。


「あなたが経済的支援を目的に、心力(スヴォシア)量に苦しむ者たちのもとで精力的に売買を行っていることは理解しています。しかし、私たちが管理しなければ、あなたは自分が保持する心力(スヴォシア)を使い果たして、寿命を極限まで削ってしまうでしょう」


 ラクナの指摘に、リウラは苦い顔で黙ったままだ。


「……あなたにとって、厄災は大した存在でないのかもしれませんが、かつては出現するたびに、街に壊滅的な被害をもたらし、数千人の兵士たちを死に追いやった。今の世界の安全は、あなたの存在に大きく依存しています。そのことを理解できないほど、あなたは馬鹿ではないでしょう」


 ラクナが横目でリウラを見やると、リウラは黙って頷いた。


「だったらあなたは永遠を生きなさい。その資格と義務があなたにはある。自らを犠牲にしての他者への奉仕が、必ずしも他者へ良い結果をもたらすとは考えないように」


 では後程、還元所でお会いしましょう。


 ラクナはそう告げると、死体の回収を機械兵に任せ、一足先に中央塔へと戻っていった。

 ラクナの言葉を理解しながらも、リウラは拗ねたような視線で、遠くなっていくラクナの背中を見送った。


 後に還元所と呼ばれる、中央塔内の施設で、リウラは今回の厄災討伐の報酬を受け取った。

 端末にコードを繋がれ、端末を介してリウラの体に心力(スヴォシア)が注入される。


「……」


 表示された予測寿命は8098665年213日09時間12分55秒。追加された寿命は500万年ほどか。【ゼロフレーム】を撃った時には100万年ほど減ったから、差し引きで言えば約400万年のプラス。

 人型のリウラは、日常生活での心力(スヴォシア)の消費が少ない。そのため、戦わずに生きていくだけなら、これ以上心力(スヴォシア)はいらない。心力(スヴォシア)を多く持たされているのは、リウラが厄災のような有事の際における最高戦力であるためだ。

 自分の持つスキルは強力な分燃費は悪い。特に【ゼロフレーム】は撃つだけで大量の心力(スヴォシア)を消費する。


 だから自分が多くの心力(スヴォシア)を保持して置かなければならないという理屈は理解できる。

 だが、この心力(スヴォシア)を他の者に分け与えられれば、もっと長く生きれた命があったのも事実。


 自分のせいではないのかもしれないが、心力(スヴォシア)が足りなくなって誰かが消滅したという話を耳にする度、自分がその命を踏み台にして今生きているという罪悪感がのしかかる。


 永遠を生きる資格と義務。

 それと同時に背負わなければならない業もある。


 約800万年。自分の予測寿命に、数字以上の重さを感じてしまったリウラは、思わずため息をこぼしてしまった。


「……アーサーを飲みに誘うか」


 こんな気分の時は、愚痴を聞いてくれる友人を頼ろう。


 今日は非番だったはずだ。

 リウラは駆け足気味に、中央塔の宿舎で休日を満喫しているであろう友の元へ向かうのだった。


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