王の復活と蘇る記憶
「皆を助けて‼ 【統制王 レイル】‼」
結の呼び出した召喚陣から現れたのは、リウラとは対の、銀色の髪をたなびかせる端麗な顔立ちの女騎士。
背丈はリウラと同じくらいか。銀色の髪の隙間から見える、深紅の瞳は、ギラギラと力に満ち溢れた輝きを放っており、目の前の破壊神に怯むことなく対峙する佇まいからは、不思議と威厳のようなものを感じさせられる。
腰まで伸びた銀髪の隙間から生えているのは、18対の機械の羽根で構成された翼だ。羽根の一枚一枚がエネルギーを放出する小型砲台のようになっており、そこから放出されるエネルギーで空を飛ぶらしい。
体重を軽くするためか、装備は軽めだ。急所を最低限守るために装備された胸当てや、関節を守るための小手やブーツを身に着けているのみで、肩から先の腕や、腹部からは、肌白い細身の体が顕わになっている。
「「……【王】⁈」」
結の召喚した契約戦士――レイルの姿を見て、アーサーとラクナが驚きの声を上げた。
王ってなんだ。リウラたちの世界の王様ってことか?
突然姿を現した結の契約戦士に戸惑いながらも、聖也はレイルの体から溢れ出るオーラの量に、思わず唾を飲み込んだ。
「強い……リウラと同じくらい……!」
最初にほぼ完全体のリウラを召喚したとき、リウラが発していたオーラの量と遜色ない。
カウント12。リウラと同じカウント帯に属していることからも、潜在能力はほぼ同等なのだろう。
リウラに戦意を向けながらも、レイルは冷静に辺りを見渡し、周囲の状況の把握に努める。
「レイルお願い! リウラを止めてあげて! 皆を助けて!」
結がレイルの下へ寄り、すがるように腕を掴んだ。
結を少しだけ横目で見やってから、レイルは今現在もプレイヤーたちを襲うリウラの姿を一瞥する。
「わかった」
レイルは小さく頷いてから、腰に下げていた剣を抜き放った。
銀の輝きを放つ。美しい刀身の片手剣。
リウラの黒い雷のオーラを浄化するような、煌びやかな輝きが剣を纏っている。
状況は分からないが、この場を止められるのはレイルだけだろう。
お願いだ。結の契約戦士。リウラを止めてあげてくれ。
聖也は祈るような視線で、レイルの視線の先にいるリウラを眺める。
そして、レイルが地面を蹴った時だった。
「――――は…………?」
途端、腹部を襲う不快感。
その後に少し遅れて体を巡る激痛。
聖也は体を強張らせながら、ゆっくりと下を見ると、レイルの剣に貫かれた、自分の腹が映し出された。
どうやら、背後から刺されたらしい。
「「「「「「「「「――――え」」」」」」」」」」
突然のレイルの行動に、結が、豪が、那由多が、紬が、響子が。普段冷静なラクナでさえも、何が起こったかわからない、と言わんばかりの愕然とした声を漏らしてしまう。
大量の心力を血のように吐きだしながら、聖也は背後から自分を貫いたレイルに訊ねた。
「何、で……?」
「これが一番手っ取り早い」
レイルが剣を握る手に力を籠めると、聖也の腹部を更なる激痛が襲う。
「すまないな」
そして、レイルはそのまま剣を切り上げ、聖也の体を、腹部から真一文字に、縦に切り裂いた。
すまないってなんだよ。
頭ごと真っ二つに切り裂かれた瞬間、聖也の意識は途切れ、その体は光となって消滅する。
サモナーズロード。このデスゲームでの、聖也の初の死亡。
それが味方の召喚した契約戦士からの不意打ちによるものだとは、誰も思いもしていなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
目を覚ませば、聖也は自分の部屋の真ん中に立っていた。
デスゲーム開始前にいた場所だ。どうやら現実世界に強制送還されたらしい。
自主的なログアウト以外での、初めての現実世界への帰還に、聖也は混乱した頭を落ち着かせながら、ゲームで何が起こったのか振り返る。
そして、結の召喚した契約戦士に、自分が真っ二つに切り裂かれたことを思い出した。
「――――‼ おえええええええええ‼」
瞬間、体を強烈な不快感が襲い、聖也は反射的にゴミ箱に頭を突っ込み、胃の中のものを吐きだしてしまった。
体を引き裂かれたときの感覚が蘇り、聖也は体を振るえさせたまま、床に蹲ってしまった。
混乱する聖也をよそに、聖也のスマートフォンが着信音を上げる。
口元を袖で拭いながら、スマホを取る。
着信は結からだ。
聖也はその文字を見て、反射的に電話に出る。
「―――結‼ いったい何が」
「私だ」
聖也の言葉に被せるように聞こえてきたのは、自分を殺した張本人。【統制王 レイル】。
冷徹な声色に思わず聖也は身を固めてしまう。
言葉を失った聖也に、レイルが淡々とした様子で語り掛けた。
「さきほどはすまなかったな。混乱しているであろうところ申し訳ないが。通告だ」
「通告……?」
「連盟は私が治めることになった。100名ほどのプレイヤーとその契約戦士たちが、私の傘下に下ることになる」
こいつは何を言っている。
ついさっきまで一緒にいただろう。その短い間に連盟を統制した?
突然の情報量に混乱するが、デスゲーム中は、現実世界の時間は進んでいないということを思い出した。
こちらの世界ではほぼ同時にログアウトしたことになるが、自分が死亡した後にも、向こうでは何かしらのやり取りが行われたということだろう。
「全プレイヤーの復活。滅びた世界の再生。この二つの理念は変わらない。だが、全てを復活させてしまっては、再び私たちの世界は滅んでしまう可能性がある。そこで、先ほどの2つの理念に、もう一つ新たな理念を私が付け加えた」
「……それは?」
何を言われるかは大体予想がついていた。
それでも尋ねてしまったのは、そうではなくあってくれという、現実逃避に近い自分の願いからか。
もうそれ以上喋るな、といったトーンの聖也の声を無視し、レイルは一方的につきつける。
「破壊神リウラの存在の消滅。そのため、次のゲームからリウラとその召喚士であるお前を優先的に殺すことになった」
心臓が止まった感覚がした。
「待てよ……あんまりだろ……」
聖也のスマホを握る手がわなわなと震えだす。
「いきなり現れたかと思ったら、一方的に殺すってあんまりだろ?! そもそも連盟が攻撃したせいでリウラが破壊神として目覚めたんだろ⁈」
「それについてはこちらの非だ。すまなかった」
「リウラは無理やり破壊神として目覚めさせられて苦しんでいた! 最後まで黒いオーラからの浸食に抗っていたよ! まだ破壊神として目覚めたわけじゃない! 皆で協力して、リウラが正しく体を取り戻せるよう協力すれば……」
「可能性の話ではないのだ。聖也」
聖也の怒りや焦りが混ざった声に対し、レイルの声は驚くほど冷静だった。
「あいつは私たちの世界を滅ぼした。罪に対しての罰の話だ」
その言葉を聞いて、レイルの意志が揺るがないことを確信してしまい、聖也の口から、言葉が出なくなってしまった。
ダメだ。僕だけじゃ説得できない。
誰か――結。那由多さん。アーサー。紬さん。ラクナ。豪。ゼロム。先生。ファルモーニ。
誰でも良いから、こいつを説得してくれ。
思わず仲間の姿を思い浮かべた、聖也の思考を先回りするように、レイルが無慈悲な宣告をする。
「お前の仲間も私の監視下に置くことになった。一人でもお前に協力すれば、全員纏めて殺し、存在ごと消滅させる。無駄な抵抗はやめて、次のゲームから私たちに投降しろ。そうすればゲーム終了後、お前だけは蘇らせてやる」
それではな。
一方的に告げるだけ告げて、レイルは電話を切った。
聖也のスマホのラインには、那由多や豪から、いくつもメッセージが寄せられていた。
レイルと入れ替わるように、那由多や豪から着信が来る。
何度も何度もスマホが着信音を鳴らすが、出る気になれなかった。
「……聖也」
自分の腕に装着されたスキャナーから、リウラの弱弱しい声が聞こえてきた。
聖也はスマホの電源をオフにし、すぐさまリウラの声に応答する。
「リウラ、大丈夫か⁉ 意識は?! あの黒いオーラはどうなった⁈」
「……今は、大丈夫だ。……それよりも話したいことがある」
リウラは実体化をせずに、そのままスキャナーの中から話し続ける。
聖也も自分の中に溢れ出てくる疑問を、何とか抑え込んで、黙ってリウラの話に耳を傾けた。
「全部思い出したんだ……」
「……全部って?」
「全部だ。向こうの世界で、生まれてから死ぬまでのこと。俺の世界のこと。そして――」
リウラは辛そうに言葉尻をすぼめながら、少し間をおいて続ける。
「俺が、俺の世界を滅ぼした時のことを」
リウラの震えた声に、なんて返せばいいのかわからなかった。
だが、こうして話しを切り出したいうことは、自分に知ってほしいのだろう。
「話せる? 全部」
「……俺の記憶を、心力を伝ってお前に流す。スキャナーに意識を籠めてくれ」
聖也はリウラに言われるがまま、目を閉じてスキャナーに意識を傾ける。
すると、腕から体に、体から頭に、何やら不思議な流れのようなものを感じ、聖也の脳内に、走馬灯のような記憶が流れ出した。
リウラの一生分の記憶だ。量は膨大なはずなのに、何故だかすんなり頭に入ってくる。
「お前に、俺のことを全て伝える」
全てを知って何ができるかはわからないが、知らなければ何も始まらない。
八方ふさがりな状況で、全てを知ってしまうのは怖かったが、覚悟を決めるように強く頷いてから、聖也はリウラの記憶に意識を集中させるのであった。
第5章完です。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
また、体調不良などで投稿のペースが落ちてしまい申し訳ございません。
安定して更新できるよう頑張ります。
不穏な幕引きになりましたが、次の章も楽しんで頂ければ幸いです。
今後ともよろしくお願いいたします<(_ _)>