表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サモナーズロード ~召喚士の王~  作者: 糸音
GAME5 魂音の精霊と復活の破壊神
84/95

再動

 

 体に細かなひびが入りながら、灰のように散っていく感覚。

 死んだときのことを思い出すと、いつだって怖くなって心が震えてしまう。

 あの時何でリウラが自分を、世界を壊したのかはわからない。

 悲鳴に近い声を上げながら、苦しみながら世界を壊していたのかはわからない。

 どんな経緯でああなったのかはわからないが、事実なのは、リウラが自分を殺し、世界を壊したことだけだ。


 でも、そんな存在に戻りたくないと、今目の前でリウラが足掻いているの事実だし、破壊神になる前のリウラが、自分を信じてくれたことも、それによって自分が救われたことも事実だ。


 自分が今、リウラを助けてどうなるかなんてわからない。聖也の心力(スヴォシア)を貰ったことで、破壊神として目覚めない可能性もあれば、記憶を完全に取り戻して、破壊神として再び世界を壊す可能性もある。


 先のことに、誰も約束なんてできない。


 ――自分じゃない誰かのことなんてそんなもんだ。曖昧で、答えの見えないものを信じなきゃいけないときってのがあるんだ。


 この言葉の意味、今ならわかるよ。きょーこ。


 リウラがリンカーの攻撃を喰らい、意識を散らしてしまった瞬間、ファルモーニは楽器を構え、


「きょーこ! 必殺技(アルティメット)カードを‼」

「……! りょーかい!」


 響子が必殺技(アルティメット)カードをスキャンする。




必殺技(アルティメット)――』




 スキャナーからアナウンスが流れ、大量の心力(スヴォシア)が、響子の体からファルモーニの体に流れ込んだ。


「これで屈服しなぁ‼」


 【ゼロフレーム】のエネルギーを失ってしまったリウラに、リンカーの【駕瓦我隷輪(ガガガカラー)】が迫る。これを喰らってしまえば、リウラは体の自由を完全に奪われてしまうだろう。

 首輪がリウラに迫る中、ファルモーニが楽器から放出したエネルギーが、リウラの体に命中した。


 信じるっていうのは、自分や他の誰かの行動や未来に、確かな補償を持つことじゃないんだね。


 あの日リウラが「どうして自分を信じてくれたのか」という問いに対して、「信じたかったから」と答えたことを思い出す。

 傍から見れば根拠もなく誰かを信じたリウラの言葉は、馬鹿馬鹿しいものかもしれないが、だからこそのまっすぐな思いが、今の自分を形作ってくれたのだと今は思う。

 自分の気持ちなんて、曖昧で、答えの見えないものだ。でも、理屈に捕らわれないものだからこそ、理屈を超えて誰かを傷つけることもできるし、救うこともある。


 さっきは破壊神っていってごめんね。

 それは確かな事実だけど、過去を忘れたあなたにまだ伝えていなかった。

 あなたの気持ちや夢が、私を救ってくれたこと。あなたのおかげで今の私があることを。

 不安な時、あなたの存在に私は支えられた。

 もし今のあなたが、破壊神に戻ることに苦しんでいるのなら、あなたの中にまだあなたの夢が残っているのなら、

 誰かのことを、自分の気持ちが形作ることがあるのなら。誰かが不安な時、自分の気持ちでその人を支えることができるのなら。


 今度は私が信じるよ。あなたのこと。


「【再動する鼓動の(リブート・ビート・)強振音(ビブラート)】‼」


 ファルモーニの発した音が、リウラの心臓を強く揺らす。

 するとリウラの体から再びエネルギーが満ち溢れ、薙刀の刃に、【ゼロフレーム】のエネルギーが収束した。


「――なっ⁈」

「いっけえリウラぁ‼」


 ファルモーニの声と共に、リンカー以外の体が薄い光に包まれた。

 【再動する鼓動の(リブート・ビート・)強振音(ビブラート)】は、何らかの原因で他の契約戦士(チャンピオン)必殺技(アルティメット)が中断された際、再び発動可能状態に戻す必殺技(アルティメット)


「おおおおおおおおおおおおおおお‼」


 リウラが体全体を使って、薙刀を一閃すると、同時に発生した無数の斬撃が、周囲の壁を、床を、建物を、そしてリンカーの体を深く切り刻んだ。


「ば――か、な――」


 体を切り刻まれたリンカーは光の粒子となって、その場から消滅する。

 リンカーが消えたのを見届けてから、リウラの体がぐらりと揺れて、その場に倒れこんでしまった。


「……リウラ!」


 倒れるリウラの下に、聖也たちが慌てて駆け寄った。


「……聖、也」


 意識があるようでひとまず安心はしたが、リウラの顔色は恐ろしいほどに悪い。


「……リウラ、リウラぁ!」


 倒れこむリウラの顔を、ファルモーニが泣きながら、覗き込むような形で伺った。


「……ファル、モーニ。……すまな、かった。俺は……お前を……」

「いいよそんなの! 何か私の知らないことがあったんでしょ! リウラが何もなしにああなるはずないもん!」

「……ぐあああああ!」


 リウラが突然呻きだし、苦しそうに右手を押さえる。

 大分収まって入るが、リウラの右手からはまだ微弱な黒い雷のオーラが、溢れ出てきている。

 それを抑え込もうと苦しむリウラを、ファルモーニが慌てて抱きしめた。


「大丈夫だから! リウラは破壊神には戻らないって! だから負けないで! また昔みたいに、皆で私の歌を――」

「――総員‼ 構え‼」


 ファルモーニが必死でリウラに呼びかける最中、何処からともなく響いた声と共に、百人ほどのプレイヤーと、その契約戦士(チャンピオン)たちが現れ、武器を構えながら一斉にリウラたちを取り囲んだ!


 なんだこのプレイヤーたちは?! 


 突然の光景に聖也たちが混乱していた所、聞き覚えのある声が、包囲の外から響き渡る。


「止めなさい‼ 今のリウラを刺激してはなりません‼」


 ラクナの声だ。

 必死に制止するラクナの声に被せるように、謎の契約戦士(チャンピオン)が、集団に向かって呼びかける。


「だからこそ今仕留めるのです! 破壊神として目覚める可能性が高まった今、その力が収まっているときにこそ打ち取らなければなりません! ……一斉砲撃!」


 合図とともに、構えていた銃器から、無数の弾がリウラに向かって撃ち込まれた。

 それを見たリウラが反射的に、聖也達を自分から離れたところに突き飛ばす。


「……リウラ‼」


 エネルギー弾や爆発物も撃ち込まれ、リウラが立っていた場所に激しい爆発が巻き起こった。

 立ち上る爆炎を眺める聖也の下へ、結たちが慌てて駆け寄った。


「聖也! 大丈夫⁈」

「大丈夫じゃない‼ いったいどうなっている⁈」

「付かず離れずで様子を見てたら、いきなりあいつらぶっぱなしやがった!」


 アーサーが聖也を隠すように、盾を構えながら前に立ち、その場をそっと離れようとする。


「……これは、まずい」


 そして、聖也の体が消滅を開始しないことに気が付いたアーサーの表情が、みるみるうちに絶望に染まっていく。

 聖也が消滅しない、ということは、リウラは今の攻撃で死んではいない。

 それ自体は喜ばしいのだが、問題はリウラを破壊神として認識している、連盟のプレイヤーたちの攻撃を喰らったということ。


 銃器や爆発物も、召喚によって呼び出したものである以上、その構成要素は心力(スヴォシア)だ。

 リウラを破壊神と認識したプレイヤーの心力(スヴォシア)が籠った攻撃を、今の不安定なリウラが喰らったとしたら――


「――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ‼」


 爆風が突然かき消され、辺りに黒い雷のオーラがまき散らされた。

 煙が晴れ姿を現したのは、再び全身を黒い雷のオーラで覆ったリウラだ。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ‼」

「伏せろ皆あああああ‼」


 聖也の叫びに、皆が反射的にその場に伏せた。

 リウラの方向と共に爆発的に雷のオーラが増幅し、辺り一帯に放出された。

 耳を裂くような轟音が鳴り響き、辺り一帯を壊して回る。


 そして、オーラの放出が収まった後、周囲には絶望的な光景が広がっていた。


「エリアが……」


 オーラの放出は10秒にも満たなかったはずだ。

 その10秒足らずの時間で、住宅街エリアが完全に崩壊し、辺りには瓦礫が転がるだけの、無惨な更地の状態にされてしまっていた。

 プレイヤーたちは奇跡的に、誰一人として死んではいない。

 恐らく、最低限の自我がまだ残っていて、リウラが皆だけでも巻き込まないよう、コントロールしてくれたのだろう。


 だが、そんなことは連盟の者たちは知る由もない。

 再びヨロヨロと立ち上がり、リウラに向かって攻撃をしようと武器を構える。


「!」


 そしてその敵意を感じ取ったかのように、リウラのオーラが再び増幅し、周囲の者を威嚇するかのように、雷のオーラをばらまき始めた。


「これ以上リウラを刺激しないで‼ 攻撃を止めて!」

「……馬鹿っ⁉ 隠れてろ‼」


 背後から出て呼びかけた聖也を、アーサーが慌てて盾に隠すが、遅かった。


「……! 標的変更! あの少年を殺しなさい!」


 スカーレスの指示で連盟は標的を聖也に変更。

 聖也に向かって銃器が一斉に突き付けられる。


 しまった。僕を殺しても同じことなのか。


 破壊神になったとはいえ、今の聖也とリウラのライフはリンクしている。リウラを倒せないなら、聖也を倒せばいいという点は変わらない。


 那由多や豪が、聖也の前に立ち、武器を構える。

 だが、そんな様子を見ていたリウラが――


「ガアアアアアアアアアアアアアアア‼」


 どうやら逆鱗に触れたらしい。聖也を標的にしたことにより、リウラはオーラを連盟のプレイヤーに向かって放出し始めた。


「うわああああ!」

「いやああああ!」


 リウラのオーラに触れたプレイヤーたちが、次々に消滅していく。


「止めろリウラ!」


 聖也が声をかけるも、どうこの場を収めていいのかわからない。

 ライフノルマを達成するまで、この場で黙ってみておけばいいのか? 

 だが、止めようと前に出れば、代わりに自分が殺される。


 完全に行き詰ってしまった状況に、聖也が絶望していた時だった。





『私を呼べ‼ 結!』





 結のスキャナーから凛とした女性の声が響き渡った。

 その声に驚きながらも、結はスキャナーから契約戦士(チャンピオン)カードを取り出し、スキャンする。

 一瞬だけ視界に映った情報に、那由多が驚愕の声を上げる。


「カウント12?!」

「「「「カウント12っ⁈」」」」


 カウント12。リウラと同じカウント帯の契約戦士(チャンピオン)

 ラクナやゼロム、そしてジークをも超える強さで在ろう戦士の存在に、一同が驚きの声を上げた。


 結の目の前に現れた召喚陣が、リウラに負けないほどの膨大なエネルギーを放出し始める。


「皆を助けて‼ 【統制王 レイル】‼」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ