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サモナーズロード ~召喚士の王~  作者: 糸音
GAME5 魂音の精霊と復活の破壊神
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ファルモーニの記憶②

「俺の願いも同じだ。俺だけじゃなく、皆一緒に無限の時を生きていたい」


 そう語りだしたリウラに、ファルモーニは素直に耳を傾けた。


「……だが、心力(スヴォシア)の量が限られている中では、皆を生かすことは叶わない。俺は戦いになると心力(スヴォシア)を激しく消費するらしくてな。いざという時の為、心力(スヴォシア)のストックを多く確保していなければならんそうだ」


 リウラが自虐気味に腕の端末を掲げて見せた。その端末には、『購入制限に到達。3日後解除』と見たことの無い表記がされている。


「……こんな機能あったっけ?」

「ラクナって奴が、俺の端末に勝手につけたのだ。『放っておくと誰かの為に無駄遣いするから』といって、俺の了承も得ずにな」


 本当は100万年分くらい、他の者へ分け与えたいのに。

 そう言ってリウラは口元を尖らせた。


「でも、あなたのおかげで私たちは安全に過ごすことができている」


 どういうわけかはわからないが、この世界では定期的に【厄災】と呼ばれる、巨大な魔物が国の外に出現し、定期的に王国を滅ぼしにかかってくる。

 強大な力を持つ厄災との戦いでは、毎回多くの兵士が殉職する。

 給料はいいが、寿命は短い。そんな風に皮肉を言われることもあったほどだ。


 だが、そんな犠牲が出ていたのも、リウラが現れるまでの話。


 リウラが王国の兵士として勤め始めて以来、厄災との戦いで被害は一切出していない。

 何千人がかりで討伐していた厄災を、リウラは一人で討伐する。

 今の国民の生活は、リウラが築いた安全を前提として成り立っている。リウラの永遠が約束されるのは当然なことだ。


「でも、皆が永遠を生きられない中、俺だけが永遠を生きるのは寂しいのだ。……生きててほしかった者たちがいっぱいいた。だけど心力(スヴォシア)が不足しているからそれは叶わなかった。友が消えて、俺がとり残される度、『そういうもんだ』といつも慰められる。いつしか皆、永遠を生きることを諦めた」


 永遠を諦めた、と言われ、ファルモーニは無意識の内に、自分や下町に住む者たちの姿を重ねてしまった。


「だから、お前の歌を聞いて嬉しかったのだ。俺と同じ、皆で永遠を過ごすという夢を持ってくれている者がいる。それだけで、俺の中の夢が現実味を帯びた気がしたんだ」


 真っすぐに感謝の言葉を述べられ、ファルモーニは顔を赤くしながら目を逸らした。

 ごめん、本当は私も諦めかけてたんだよ。なんて、こんな純粋な目をしたリウラにはとても言えない。


「俺はいつか、心力(スヴォシア)を増やす方法を見つけ、この世界の者が、もっともっと長生きできるような世界にしてみせる。果てしない道のりだろうが、きっと心が折れそうになった時に、お前の存在が、お前が作った歌が、俺を支えてくれるような気がしたのだ」


 言いたいことを言い終えたのか、リウラは壁から背を離し、ファルモーニに背を向けて歩き始めた。


「今日の代金は、俺からの礼だ。不快に思うなら、他の奴にでも渡してしまってくれ」


 どうやら、最初に自分が怒ったことを気にしているらしい。

 バツが悪そうな声で、その場を去ろうとするリウラを、ファルモーニは慌てて呼び止めた。


「また……聞きに来て!」


 その返事にリウラは笑顔で手を振って返し、その日はその場を後にした。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 その後、リウラは仕事の合間を縫って歌を聞きに来るようになった。

 歌を聞く前には、周囲の店で食べ物を爆買いし、下町の経済を回している。下町の者は喜ぶだろうが、購入制限の機能を勝手に取り付けられる程度には、浪費癖があることに気が付き、ファルモーニは勝手に納得する。


 リウラが歌を聞きに来るようになって、周囲の目が変わった。

 自分の歌を立ち止まって聞いてくれるようになった。歌を聞いた後にポジティブな感想をくれるようになった。

 リウラは下町の者とも良くコミュニケーションをとる。リウラが自分の歌を認めたことに、便乗する形で評価するものが多いのは事実だが、それでも歌を聞いてくれる人間が遥かに増えたのは事実だ。


「いつか俺は、この歌のような世界を実現するぞ!」


 歌を聞き終えた後、リウラは必ずテンションを高めに、宣言する。

 何の保証もない、リウラの言葉。

 保証がなくても、リウラの言葉を皆は信じた。リウラの言葉に心からの期待を寄せた。それだけの信頼を獲得していた。


 かくいうファルモーニも、リウラに期待を寄せる一人になっていた。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「今度ね、おっきなホールでライブできることになったの!」

「ほんとか‼」


 ファルモーニが報告すると、リウラは心の底から嬉しそうな声を上げた。

 あれからファルモーニの歌はどんどん評価されるようになっていき、今では身分問わずに愛される、世界的アイドルになっていた。

 かなり心力(スヴォシア)を稼ぐようになったが、その稼ぎのほとんどを、ファルモーニは下町の者に寄付している。身分問わずに愛されるのはそのためだ。


「……ありがとう」


 突然礼を言われ、ファルモーニは目を丸くする。


「……お前の歌を皆が聞くようになってから、皆の顔が明るくなった。まだまだ世界は変えられないけど、それでも前よりずっと、前を向いて生きるようになった気がする。お前の歌のおかげだ。本当にありがとう」

「……違うよ」


 礼を述べるリウラの口に、人差し指を当てて、ファルモーニが笑った。


「お礼を言わなければいけないのは私の方。ホントはね、諦めかけてた。皆で無限の時を生きたいっていう夢。あの日リウラが歌を聞いてくれなかったら、私の歌は只の妄言で終わってた」


 今まで、誰も自分の歌を聞いてくれなかったとき、リウラは耳を傾けてくれた。

 歌を、自分の夢を、素晴らしいと言ってくれた。諦めかけてた夢を、信じて支えてくれた。


 一人で歌っていた中で、それがどれだけ心の支えになってくれていただろうか。


 きっとあの日出会っていなかったら、荒んだ心で、自分を諦めたような擦れた毎日を過ごしていたに違いないと、何度も思う。


「ねえリウラ。何であなたは自分の夢を信じられるの?」


 夢はあくまで夢である。

 何の保証もない、不確かで曖昧なもの。

 だからこそ自分は諦めかけた。でもリウラは常に『皆で無限の時を生きたい』という夢を信じ続けていたし、終始、諦めるような素振りは見せなかった。

 それなのにリウラが自分を――夢を信じられたのはどうしてだろうか。


「何でって言われてもな……」


 ファルモーニの問いに、リウラは難しい顔をして、唸りながら考え込んだ。

 そして、暫く思慮を巡らせた後、


「……信じたいからじゃないか?」


 何とも雑な回答が帰ってきて、ファルモーニは思わず噴き出した。


「答えになってないよ……!」

「? そうだろうか?」


 不思議そうに首をかしげるリウラを見て、ファルモーニは腹を抱えながら、目尻に溜まった涙を指で拭った。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 それから、とある会場でライブをしていた時だった。

 突然世界を壊すような轟音が鳴り響き、崩れた天井の瓦礫が後頭部に当たり、ファルモーニは気を失ってしまう。


 そして、しばらくした後に目を覚ませば、最悪の光景が広がっていた。


「……え?」


 人型の、黒い雷のオーラが、観客たちを、会場を、世界を。手当たり次第に触れたもの全てを消滅させて回っている。

 黒い雷のオーラが触れたものは、ひび割れたように崩れ去り、心力(スヴォシア)となって、上空の渦の中に吸い込まれていく。


 全てを壊すオーラの中から、何者かの心音が聞こえ、その音にファルモーニは驚愕した。


「……リウラ⁈」


 聞き間違うはずもない。自分を信じてくれた、救ってくれた恩人の音。

 なんでそんなことをしているの?

 皆の幸せがあなたの幸せだったはずでしょ? 皆で無限の時を生きるんじゃなかったの?


 そして、そんなことを尋ねる間もなく、リウラが放出したオーラに飲み込まれ、ファルモーニはこの世界での生涯を終えることになる。


 死の間際に聞いたのは、世界の全てを壊して回る、リウラの悲鳴にも近い声だった。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・


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