記憶のせめぎ合い
2~3日間隔で更新します → 体調崩して約束破るというゴミムーブ。
すいませんでした。<(_ _)><(_ _)>
「ガアアアアアアアアアアアアアアア‼」
体から溢れるオーラを、必死に抑えようともがき苦しむリウラがいた。
「【志枯羽根】‼」
リンカーが鉄の羽根を出現させ、クナイのようにリウラに投擲する。
「――!」
リウラはそれを躱そうとするが、右手から溢れるオーラを抑え込みながら躱すのは難しいようだ。
何本も何本も、数を任せに投擲される鉄の羽根は、黒いオーラに触れると崩壊する。
が、オーラに包まれていない体の部位に【志枯羽根】が命中すると、リウラのオーラが途切れ、元の肉体が顕わになる。
「【駕瓦我隷輪】‼」
オーラが晴れた瞬間を狙って、洗脳スキル――【駕瓦我隷輪】を発動し、リウラの首元に向かって首輪をはめる。
「――ウアアアアアアアアアア‼」
一瞬だけぐらりと体が揺れた後、意識を取り戻したリウラは、首輪を掃うように、大量のオーラを放出させた。
「……普通だったら、もう洗脳できてるはずなんだけどなあ」
【志枯羽根】も【駕瓦我隷輪】も、並大抵の相手に当てれば、暫くの間行動不能にできるし、一発で洗脳しリンカーの手駒にすることができる。
それだけに、何度もスキルを命中させているのに、その度にスキルによる洗脳を振り払い、自我の汚染に抗い続けるリウラの精神力はかなりのものだった。
中々思うように洗脳できないものの、肝心のリウラはスキルを当てるにつれて、確実に衰弱している。【駕瓦我隷輪】を当てた後の硬直時間も長くなってきた。
あと数発当てれば、洗脳できそうだ。
確かな手ごたえを感じながら、リンカーはオーラから距離を取り、再び【志枯羽根】を使って、オーラの解除を試みる。
一方でリウラは、体から溢れるオーラを抑えるので精いっぱいだ。この黒いオーラは、何故だかわからないが、自分の意志で制御できず、自分と聖也以外の生命体なら何でも飲み込もうとする。
触れたらなんでも破壊する、黒い雷。
リンカーが現在無事なのも、何とかリウラが残った意志で、雷が他の者を巻き込まないよう、最低限抑え込んでいるからだ。
理由は分からないが、この雷の力で他の者を殺した瞬間、自我が雷に完全に乗っ取られそうな予感。
その危機感だけが、ギリギリでリウラの意志を保たせ、完全な体の乗っ取りを防いでいるのだが……
そんなことなど知らないリンカーは、意識を奪うスキルでいちいち、自我のせめぎ合いをしている所に横やりを入れてくる。
そのため、スキルを喰らう度に、黒い雷のオーラが体を侵食し、今では体のほとんどがオーラに包まれてしまっていた。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ‼」
もうまともな言葉を発することもできない程度には、リウラの理性は崩壊していた。
徐々に化け物になっていくリウラが、もがき苦しんでいる所に――
「リウラぁ‼」
なんとか現場に追いついた聖也たちが合流する。
「さっきはごめん‼ リウラの言葉から逃げてごめん‼ 僕は……リウラが欲しい言葉を、心の底からの気持ちで言ってあげることはできないけど‼」
聖也の泣きそうな声に、リウラのオーラの放出がほんの少しだけ弱まった。
「僕の知ってるリウラは、馬鹿なくせに前向きで、いつだって僕を支えてくれた、お人よしの良い奴だったよ‼ だから目を覚ましてよ‼ もしも全部を思い出していないなら……他の奴の言うことなんかに負けんな‼」
僕に答えを求めるからには、まだ全部を思い出していない。
だったら、今だけは僕の知っている君の姿を信じてくれよ。
その思いを乗せた言葉が、リウラの体から黒いオーラを掃い、リウラの体が再び露わになる。
「聖……也……」
崩れた顔で聖也の顔を伺うリウラ。
やったか。と安堵の息を吐く聖也に水を差すように、リンカーが【駕瓦我隷輪】でリウラの意識を奪う。
「グアッ?!」
「都合のいいこと言ってくれてるけど、僕の記憶、見たんだろ⁈ 僕を殺した時の記憶! 見たんだろぉ?!」
リンカーが首輪の鎖を伝わせ、再び自分の記憶が混じった心力を流し込む。
「グアアアアアアアアアアアアアアア‼」
「現実逃避してんじゃねえよ‼ 僕の記憶は頑なに拒むくせに、そんな人間のガキの言葉に縋ってんじゃねえ‼ さっさと全部思い出して、その力を僕の為に使いやがれ‼」
リンカーがさらに心力を籠めると、収まっていたはずのオーラが再び体から溢れ出し、リウラの体を飲み込むように包み込んだ。
「てめえ! やめろ!」
響子がリンカーを止めようと襲い掛かるが、リンカーは首輪でリウラを洗脳しながら、響子を片手でぶっ飛ばした。
バフがかかっていない人間の相手など片手で十分ということだ。
「……いい子になってきたじゃあないかぁ♡」
先ほどまで、黒いオーラに触れると【駕瓦我隷輪】は消滅していたのだが、とうとう黒いオーラはリンカーのスキルを打ち消さなくなった。
まずい。リンカーの洗脳が完了するまでもう猶予がない。
かといって、今の自分たちだけではリンカーを止めることはできない。
「リウラ……‼」
今の自分にできるのは、過去のリウラとの体験を信じることだけだ。
祈るようにスキャナーに力を籠め、リウラが洗脳に負けないよう、必死に念じていたときだった。
「……リウラ!」
聖也たちの後ろから現れたファルモーニが、楽器を掻き鳴らし、楽器から虹色の心力をリウラに向かって放出した。
「言葉だけじゃない! 私の記憶を受け取って‼」
自分を破壊神と罵ったファルモーニの記憶。
自分に迫ってくる、記憶の混ざった心力を受け取っていいかどうか、リウラは一瞬ためらった。
だが、自分を見つめてくるファルモーニの決死の表情に、リウラは最後の自我を振る絞ってオーラを抑え込み、ファルモーニの心力を体で受け止める。
「――聖也ぁ‼」
少しだけ苦しそうに歯を食いしばりながらも、リウラの体から再びオーラが剥がれる。
眉間にしわを寄せながら、リウラは【駕瓦我隷輪】の鎖を引きちぎり、光の薙刀を出現させる。
「必殺技だ‼」
リウラが腰を落とすと同時、リウラの狙いを察した聖也が、すぐさま必殺技カードをスキャンした。
『必殺技――』
アナウンスと同時に大量の心力がリウラに流れ込み、刃に溜まっていくエネルギーに空気が震えた。
リウラの腕から、黒いオーラは完全に消え去ってはいない。ファルモーニがどんな記憶を渡したのかはわからないが、自我を制御できる今のうちに、最強の必殺技――【ゼロフレーム】で一気にカタを付ける気なのだろう。
リンカーの召喚者のランプは黄色だった。ライフは2。ここで倒しても消えるわけじゃない。
強引な手段だが、ライフを奪ってでも、この場はリンカーを退ける。
この一撃で決める。
黒いオーラからの自我の浸食に耐えながら、必死でエネルギーを溜めるリウラの眉間に、
「はい。残念賞♡」
当たった者の意識を奪うスキル――【志枯羽根】が命中し、スキル発動まであと少しだった、【ゼロフレーム】のエネルギーが、空中へ空しく霧散した。




