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サモナーズロード ~召喚士の王~  作者: 糸音
GAME5 魂音の精霊と復活の破壊神
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誰かを形作るのは

仕事が忙しくて更新が遅れてしまいました。申し訳ございません。


毎日更新が厳しくなってきたので、2~3日間隔での更新に切り替えたいと思います。

いつもより時間がかかりますが、どうぞ宜しくお願い致します。

 

「……全部、リウラのおかげだったんです」


 聖也が話し始めると、響子は聖也の話を黙って聞き始めた。


「僕が明るくなれたのも、前を向けるようになったのも、辛い時にリウラが励ましてくれたからでした。それだけじゃない。那由多さんや、豪たちと仲間になれたのも、リウラがきっかけを作ってくれたんです。……リウラが僕を信じてくれていたから、……僕は、皆と繋がることができた」


 トラブルを生むことはあったものの、いつも困難を打ち破るきっかけを作ったのはリウラだった。リウラに後押しをされたから、聖也は自分の選択を貫くことができた。

 全てを言葉にはしていないが、リウラに対する感謝の念は溢れてやまない。


「……でも、それと同時に、リウラを復活させちゃいけない予感はあったんです。アーサー、ラクナ、……僕の仲間はリウラの復活について、ずっと言葉を濁していました。……でも、生き残るために、皆の為だと思って、何も知らないままここまで来てしまった」


 正直、ラクナやアーサーの様子から、リウラたちの世界で、リウラが何か特別な――忌避されるような存在である可能性は、考えたことがあった。

 でも本人たちは話してくれないし、だったら今のリウラを信じて、記憶と肉体を取り戻す方向で考えようとしていた。今思えば、半分はわからないことを考えても仕方ないという開き直りだった。


「名指しで命を狙われて、色んな契約戦士に【破壊神】だって言われて、何となく納得してしまったんです。……リウラが本当に皆を殺した、世界を滅ぼした存在なら、復活させない方がいいんじゃないかって思ったんです。……リウラを……信じていいかわからなくなった」


 ジークの発言や、ゼロムの記憶。そしてファルモーニの怯えた様子や、リンカーや連盟の目的を知ってしまい、今まで見て見ぬふりをしていた可能性が、どんどん真実味を帯びて、自分の中に襲い掛かってきた。

 だから、信じると言われても、何を信じていいかわからなくなった。

 暴走に苦しむリウラを見て、本心からの言葉が出なくなったのもそのためだ。


「リウラは、僕を信じてくれたのに……!」


 だからこそ、今まで何の根拠もないのに、自分を信じてくれたリウラの優しさが、自分の胸に突き刺さる。

 リウラが自分を信じてくれたように、自分はリウラを信じられなかった。

 この違いは何だ。僕という人間の器の小ささか。


 罪悪感と無力感が一気に押し寄せてきて、泣いている場合ではないのにも関わらず、涙が堪えきれず溢れてきてしまう。


「……ちょっと自分語りをしていいか」


 そんな聖也の頭を優しく撫でてから、響子は聖也の顔を起こした


「こう見えて先生、小さい頃はおしとやかだったんだよ」

「……嘘だ」

「ほんとだよ。親が厳しい人でさ、言うこと聞かねえとぶたれてた。だから自然と他人の言うことに流されて過ごすようになった。生きてて楽しくはなかったけど、楽だとは思ったよ」


 少しだけおどけた口調で語りだす響子。

 目線を少しだけ落として、過去の記憶を辿るように、穏やかな口調で話は続いた。


「でもそんなふうに生きてた時に『お前の人生つまんなそうだな』って、とある女子に言われたんだよ。そいつはがさつでぶっきらぼうで、思ったことは明け透けなく言う。授業はよくサボるくせに、成績も顔も良かったから、色んな人間から厄介者扱いされてたな。……でも、先生が最初に友達になったヤツだった」


 今こんな性格をしているのも、少しそいつの影響なんだと、響子は頬を掻いた。


 つまらない人生と評され、反発はしたものの、口喧嘩で負け笑われたことは覚えてる。

 あざ笑うというよりは、初めて声を荒げた響子に感心したような軽快な笑い声だった。


 喧嘩できるじゃん。


 そう言って笑ってくれたことをきっかけに、響子はその生徒と親しくなる。


 当時は小学5年だったか。

 数学の問題を当てられたとき、出された問題を、教師が教えた公式以外で回答していたのが印象に残っていた。教えた方法で解けと怒られると、何で答えが一緒なのに怒られなきゃならないのかと反発していたのは覚えている。

 世の中の流行というものに興味がないのか、流行りのアニメや芸能人の話をするとそりが合わず、クラスの女子から良く会話にハブられていた。響子が「少し知っておいた方が楽だよ」というと、「ハマるときは自分で勝手にハマるわ」と言って、気にした様子はなかった。

 他人のことが嫌いなんじゃなく、他人に合わせることが嫌いな子だった。自分の興味のないことに神経を裂くのが嫌いだった。たまたま周囲と考えや趣味が合わなかったから、浮いて見えた存在だった。


 人の言うことに流されて育った響子には、そんなアウトローな彼女が眩しく映ったらしく、自然と彼女の傍にいることが多くなった。自分に興味を持ってくれる存在が珍しかったのか、彼女の方も響子に好意を返すようになる。

 親や周囲の子からは反対されたが、響子にとって、初めて本音で語り合える友達だったそうだ。

 その子のことを嫌いな他の生徒から、偶に嫌がらせの余波を響子は喰らうようになったが、あまり気にはしないようにしていた。それよりも本音で語り合える友達がいることの方が、響子には嬉しかった。


「んで、ある日事件が起こってしまってな。何でも、そいつのこと目の敵にして来た女子を、殴ったのなんの騒ぎになった。殴られた女子は良くも悪くもクラスの中心だったから、取り巻きに囲まれて先生にチクったらしい」


 更に悪かったのは、そのことを担任の前で報告し、全員に周知させたことだった。

 問題を起こした当人達は、生徒の目がない所へ連れていかれた。真相は分からないが、取り巻きとはいえど目撃証言があることから、殴ったという証言が真実というのが、大勢となっていった。


 悪者に仕立てる材料が整ったことにより、嫌がらせは加速していった。そういうのを気にする性質ではなかったのだが、流石に日に日に頻度が増していけば、鬱陶しくは感じていたらしい。日が経つにつれてその子が苛立っているのは感じていた。


 そして、弱っているその子へのとどめと言わんばかりに、大勢でその子を囲い、響子に向かって友達を止めるように言ってきた。

 そのとき、響子は聞いてしまった。ほんとに殴ってないのか、と。


 その言葉に、ほんの少しだけ目を丸くした後、もういいよ。と疲れたような声で、その子は俯いた。

 自分が何か地雷を踏んだのに気が付いたが、後の祭りだ。


 どこ殴られたんだっけ、顔?


 沸々と湧き上がる怒りが、殴られたと言う女子へと、迫る足取りに現れていた。

 あまりに鬼気迫る迫力に、周囲の生徒は自然と道を開け、対峙していた女子生徒は後退っていた。


 綺麗な顔して何が殴られただ。

 ホントに殴られたらどういう顔になるか教えてやる。


 その言葉の後に、響子の友達は、女子生徒の顔を拳で殴り、倒れこむ女子生徒にまたがり、何度も何度も殴った。慌てて取り巻きの生徒が抑えようとするが、抑え込もうとした奴は全員殴られた。


 後から分かったのは、殴ったという証言は嘘だったことだ。


 だが、複数人に大けがをさせたその子は、学校に来なくなったと思ったら、いつの間にか転校していた。


「その人はその後、どうなったんですか?」

「知らない。どっか遠くに引っ越したことだけ、中学校にいってから耳にしただけだ。……今でも思う。あの時別な言葉をかけていれば、その子は人を殴ることはなかったんじゃないかって。……あの時、私の言葉が、その子に人を殴らせてしまった」


 愛想は良くなかったが、決して人を殴るような真似はしないと、響子の中で確信はあった。根拠はなかったが、その子と過ごす日々の中で、そういう気持ちは生まれていた。

 ただ、大勢に囲まれて問い詰められたあの日、不安になった響子は、欲しい言葉を当の本人に求めてしまった。殴ってないにしても、日々のストレスに耐えかねていた所に、疑うような響子の質問はとどめだったんだろう。


 勝手にその子のことを強い、大人びた人間だと思っていたが、理由のない悪意に晒されて、平気でいられるほど強くはなかったみたいだった。


 もういいよ。


 何かを投げ捨てるような言葉が、今でも胸に突き刺さるときがある。


 大人になった今だからわかるのは、あの時、その友達は、自分のことを信じてほしかったんだと思う。友達だと思っていた響子にだ。

 皆の前で胸を張っているだけでよかった。事実がどうじゃなく、自分の中でその子はそういうことをする人間じゃないと。

 事実を解明するのは、もっと公平な立場でものを見れる誰かの仕事だから、黙って信じるだけでよかった。

 もし殴ったのであっても、そしたらそれがはっきりしたときに、改めて真っすぐ向かい合えば良かったのだと、何度も思う。


「私はリウラって奴のことも、ファルモーニの世界のことも何も知らないよ。でも、人の何気ない言葉や気持ちが、時に他人を形作ってしまうことは知っている」

「……」

「色んな奴の言葉や情報が、お前の中に入ってきて、何が本当かなんてわからないと思う。でも、不安な時こそ、お前はお前の中で確かなものを信じていいんだよ。お前にとってのリウラはどういうやつなんだ?」

「……さっき、話した通りの、良い奴です」

「じゃあそれでいいんだよ。その気持ちを伝えるだけでいい。それが今のお前にとって、リウラを信じるってことだと、先生は思う」


 響子に強く肩を掴まれ、聖也は目を腕でこすりながら、立ち上がった。


「……ありがとうございます」


 事実なんて、今の自分にはどうあがいたってわからない。

 でも、自分の中にあるリウラとの思い出が、そうじゃないって思わせてくれる。

 今はその思いに従うだけでいい。事実解明は今すべきことじゃない。


「もう一度、リウラに会ってみます」

「おし! んじゃ、引率してやろーじゃないの。……あ、すまん。ちょっと先に向かっててくれるか」


 響子の目線で、何かを察した聖也は「先に行きます」とリウラのオーラが暴れるほうへ駆けだした。


 その背中を見送ってから、響子は少し離れたところで膝を抱えるファルモーニに歩み寄った。


「……なあ。何で途中まで私に協力してくれたんだ?」


 そもそも、ファルモーニは響子と一緒にいた為、連盟の目的がリウラの復活の阻止であること、そのために聖也のライフを狙っていることは知っている。

 だから、連盟と戦闘になった時、響子にバフをかけなければ、リウラと接触することもなく、事なきを得ていたはずだった。


「……なんとなく」


 拗ねたような言葉が、膝に顔を沈めるファルモーニから洩れた。


「お前、リウラって奴のこと、他になんか知っているんじゃないのか」


 響子の質問に、ファルモーニは答えようとはしなかった。

 肯定も否定もしない。その態度に響子はやれやれと頭を掻いてから、背を向ける。


「……私はもう行くけど、何か迷ってるんだったら、後悔だけはしないようにな」


 そう言い残して、響子は聖也の後を追っていった。

 誰もいない公園に一人取り残され、ファルモーニはズビズビと鼻をすすって、遠くで発行する、黒い雷のオーラを見やる。


「……リウラ」


 大きく雷のオーラが発行し、ファルモーニは反射的に身を縮める。


「……!」


 床に置いていた楽器を抱えるようにして手に持つと、ファルモーニは涙目になりながら、リウラがいるであろう方向へ走り出すのだった。


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