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サモナーズロード ~召喚士の王~  作者: 糸音
GAME5 魂音の精霊と復活の破壊神
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信じる

 

「こんな状況ですが、私、歌います!」


 響子に命令され、ファルモーニは半泣きになりながら、ギターに似た楽器を掻き鳴らす。

 ファルモーニの楽器から、ロックのような音楽が流れ始めると、響子や聖也の周りに黄金色のオーラが纏わりついた。


「君たちを躾けている暇はないんだけどなあ!」


 リンカーが鎖付きの首輪を、鞭のようにして振り回し、響子に襲い掛かる。

 鉄製の首輪は重量があり、棘のついた部分で殴られるだけで、並大抵の人間には大ダメージが入ってしまうだろう。

 だが、響子はそれを表情一つ変えないまま、両手で掴むと、


「フン‼」


 それを一発で引きちぎり、素早い動きでリンカーに迫る。


「――な⁈」


 大型のドラゴンが暴れても、びくともしない鎖を引きちぎられ、驚愕するリンカーの眼前に、響子が繰り出す拳が肉迫する。


「【簡易防御壁(インスタントシールド)】!」


 寸前でリンカーの召喚者が【魔法:簡易防御壁(インスタントシールド)】で、間に板状のバリアを発生させるが、響子の拳はバリアをぶち破りながら、リンカーの頬をとらえ、その体を市街地の壁へとぶっ飛ばした。


「グハッ?!」


 馬鹿な、なんで人間にこんな力が出せる⁈ 

 痛みと驚き、そして怒りで顔を歪めながら、リンカーは後方で楽器を鳴らすファルモーニを見やった。


「あいつか……⁈」


 戦闘が始まったのにもかかわらず、曲に合わせて歌を歌うファルモーニ。

 あいつの歌が、個の人間をパワーアップさせているに違いない。

 そう判断したリンカーは、標的をファルモーニに移し、ファルモーニに向かって首輪を飛ばす。


「やっぱこっちを狙ってくるよね?!」


 攻撃に怯えながらも、ファルモーニは演奏を続けたまま、華麗な足さばきで迫りくる首輪を蹴り壊す。


「何だと⁈」


 あの女は支援役じゃないのか⁈ なぜ支援役の肉体があそこまで強い⁈

 リンカーが驚きで一瞬身を固めてしまったところに、響子がすかさずラッシュを叩きこむ。


「――っ!」


 何とかガードの態勢を取り、もろに攻撃を喰らうことは避けたものの、速く重い攻撃の一つ一つが、ガードの上からでもダメージを与えてくる。


 ダメだ。肉弾戦じゃかなわない。


 自分よりも体が遥かに弱いはずの人間に押されるという屈辱に苛立ちながらも、リンカーは響子から距離を取り、召喚者を連れて逃走を開始した。


 リンカーが立ち去ったのを見て、響子が聖也の下に駆け寄り、肩に手を置いた。


「大丈夫か?」

「はい、先生のおかげで……」

「ちょっと~、あたしのおかげでもあるからね~」


 自分を指差して功績をアピールするファルモーニに、ありがとうと返事をすると、得意げにピースを作って、明るく笑った。


「流石ファルモーニ。凄い強化スキルだ」


 ファルモーニは攻撃スキルを持たない代わりに、歌で誰かを支援することに特化した支援型の契約戦士(チャンピオン)だ。

 そのうちのスキルの一つ、【与え合う力の増強曲(ギブ・ギグ・ギブン)】。

 ファルモーニの歌を聞いた味方の肉体を強化すると同時に、その強化分だけファルモーニの肉体を強化するスキル。

 強化幅は強化対象によって異なり、効果にバラつきはあるものの、誰かの戦闘能力を強化しながら、あまり戦闘能力に長けていないファルモーニの短所をカバーできる。相性に左右はされるが、上手く噛みあえば非常に強力なスキルだ。


「本来はあそこまで強化はかからないはずなんだけど、響子はバフの乗りが異常なのよね。どうやら私たちの音楽性の相性はバッチリみたい」


 本来は他の契約戦士(チャンピオン)を強化するためのスキルであり、召喚者を戦わせるためのスキルではないはずだ。

 だが、武闘派の響子にバフをかければ、並大抵の契約戦士(チャンピオン)は返り討ちに出来てしまうほどの、屈強な戦士の出来上がり。


 自分も大概な部類だと思うが、この人ホントに人間か?

 なんて感想は口にするのは怖いので、聖也は黙って、浮かんだ言葉を心の中にしまった。


「聖也。状況はよくわからないが、お前どうやら連盟って奴らに狙われているらしい」

「連盟……? 何ですかそれは」

「私も知らん。100名規模のプレイヤーで構成された組織らしい。あいつら、消えた人間の復活と、ファルモーニたちの世界の再生を目的としているらしいが……」


 話すかどうか、少し躊躇いながらも、響子は言葉を続けた。


「世界再生にあたって、ファルモーニたちの世界を滅ぼした、【破壊神 リウラ】の復活を阻止したいようだ。リウラって、お前の契約戦士(チャンピオン)だったろ?」

「破壊神……⁈」


 突如として飛び出してきたとんでもないワードに、聖也は言葉を失ってしまった。

 だが、リンカーも似たようなことを言っていた。世界を滅ぼしたときのことを思い出せ、と。


 復活したリウラが纏っていた黒い電のようなオーラは、ゼロムを殺した存在が纏っていたオーラに、話を聞く限りでは酷似している気がする。


 もしかして、リウラはそういう存在なのか? 

 元々は世界を滅ぼすような、そういう凶悪な存在なのだろうか?


「ファルモーニ……何か知ってる?」

「……私は」


 聖也が訊ねるが、ファルモーニは口を閉ざしたままだ。


「……リウラの召喚者だからこそ、聖也君には詳しく教えてあげられないの」

「どういうこと?」

「聖也君の心力(スヴォシア)を貰って、リウラは生命活動をしている。記憶を心力(スヴォシア)に混ぜて渡すときと同じように、聖也君がリウラを【破壊神】として認識すると、その思念が心力(スヴォシア)越しにリウラに伝わって、暴走が加速するかもしれない」


 なるほど、今までラクナが僕に情報を与えたくなかったのはそれか。


 ファルモーニの回答に、聖也は複雑そうな顔をして考え込んだ。


 ゼロムの記憶や、ラクナやファルモーニの態度、そして連盟やリンカーの目的から、リウラがファルモーニたちの世界を滅ぼした存在であることはほぼ確定だ。

 以前ラクナは言っていた。自分がリウラを完全な状態で召喚できないのは、メモリーカードのリウラの情報が破損しているからだと。


 逆を言えば、メモリーカードの情報が破損されているからリウラは破壊神として復活せずに済んだのだ。

 だからラクナは言っていたのだ。ゆっくりと記憶を取り戻せと。


 破壊神の記憶を取り戻さないまま、メモリーカードを修復してしまえば、リウラは破壊神ではない肉体で安定することができたのだ。

 ゼロムと、アーサーに記憶を貰った時、そして最初に体が戻った時。計3回の中で、リウラが破壊神として復活しなかったのは奇跡だったのだ。


 だが、リウラは破壊神として復活してしまった。

 破壊神として復活したら具体的にどうなるかはわからない。だが、どんどん雷のオーラに自我を食われるような、リウラの様子を見たところ、リウラ自身も今の自分をコントロールできないらしい。


 雷のオーラに触れた首輪は、いとも容易く砕け散ってしまった。

 その破壊の力が、暴走し、辺りに無作為にばらまかれたとしたら――


「……このままだと、リウラが全てを破壊しつくかも」


 ファルモーニの予想を、聖也は否定することはできなかった。


「……僕はどうすればいい?」


 聖也の問いに、ファルモーニは不安な顔をしながら考え込み、質問で返した。


「……暴走したとき、リウラの意識はまだあった?」

「……うん」

「それなら、まだ暴走を抑えられるかも」

「本当……⁈」


 喜ぶというよりは、可能性に縋るような聖也の眼差しにから逃げるように目を逸らしながら、ファルモーニは続ける。


「蘇った破壊神の記憶を、聖也君の記憶で上書きするの。そんな存在じゃないって、あなたが強く信じることができれば、その気持ちが籠った心力(スヴォシア)がリウラに伝わって、破壊神の記憶を中和できるかもしれない」

「リウラって奴を信じるってことか」


 信じる。と言われて、聖也は言葉を失ってしまった。


 そもそも、ゼロムの記憶の内容を聞いたときから、リウラがゼロムや世界を滅ぼした存在だという可能性は、自分の頭の中に浮かんでいた。


 そして、それが的中した今。リウラの何を信じればいいのだろう。


 リウラが破壊神であってほしくないと、そうであってほしくないという願いは、信頼する振りをした事実の肯定のような気がする。リウラが破壊神でないと自己暗示気味に決めつけることは、現実逃避しているだけになるんじゃないか。


「……信じるって、どうやるの?」


 聖也の疑問に、提案したファルモーニは暗い顔をしながら目を逸らした。

 答えを見つけられない不安に、聖也が肩を落とした時だった。


「悩んでたってしょうがねえ! 動くぞ!」


 聖也たちの服の襟をぐいっと引っ張り、響子は聖也たちを無理やり立たせる。


「とにかく、リウラって奴をもう一回直に見て判断するんだ。この場であれこれ悩んだって、何も解決しねえだろ」

「それはそうですけど……」

「……聖也。取り敢えず、リウラって奴が破壊神だとか、そうでないとか、そういうことは忘れろ」


 響子は少しだけ膝を折って、聖也と同じ目線の高さに顔を合わせると、聖也の肩をしっかりと手に取ってから、真正面から向かい合った。


「決めつけとか、思い込みとかじゃなく、リウラって奴との思い出から、信じたいものを信じるんだ」

「でも……! 僕は、今のリウラを信じていいか分からなくて……!」

「それでいいんだ」


 聖也の不安をなだめる様に、響子はニッと笑う。


「自分じゃない誰かのことなんてそんなもんだ。曖昧で、答えの見えないものを信じなきゃいけないときってのがあるんだ」


 響子の言葉に、聖也は顔を明るくすることはなかった。

 結局答えは自分が出さなくてはならなくて、その結果次第でリウラを、仲間や他のプレイヤーたちを危険にさらしてしまう可能性がある。

 気持ち一つで、リウラも、その他の全ても。何かかもを決定づけてしまうかもしれない。


 そんな重責に心臓が潰されそうになるが、それでも聖也は頷いた。


「やってみます……!」

「強いな。よし、行くぞ!」


 動かなければ始まらない。何もしないのだけは無しだ。

 聖也の決意を後押しするように、響子はその背中を力強く叩いた。


「あっちの方から音がするよ……!」


 おそらくその方向に、リウラがいるのだろう。そして、その支配を狙うリンカーや、最悪連盟の連中たちも。


 ファルモーニが示した方角へ、聖也たちはファルモーニの強化を受けながら駆けだした。


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