復活
「さあ、カウントは溜まっただろ? 早くリウラを召喚するんだ」
リンカーは鎖で繋がられた首輪をぐいと引っ張って、聖也に召喚を促した。
「……リウラの復活って、何が狙いだ⁈」
「決まっているだろぉ。このゲームで勝ち残って、勝者の特権を手に入れる為さ」
リンカーはうっとりとした表情で、舌なめずりをしながら答えた。
「さあ、リウラを召喚しなさい」
どうやら、丁寧語で話すのが洗脳の合図らしい。
聖也の体が意思とは関係なく動き出し、リウラの契約戦士カードに手を伸ばす。
ダメだダメだダメだ。
こいつが何を考えているのかは知らないけど、こいつの復活は、今までのアーサーやゼロムから記憶を貰っての復活とは違う。正体不明の底知れぬ悪意をはらんでいる。
必死に抵抗しようとするも、体が言うことを聞かない。
聖也は苦しそうに表情を歪ませながら、リウラの契約戦士カードをスキャンした。
「――聖也を離せ‼」
実体化してすぐに、リウラがリンカーに攻撃を仕掛ける。
【次元跳躍】で相手をかく乱してから、死角に回って飛び蹴りを食らわせる。
「……うん、ダメだね。今の君じゃ」
背後から綺麗に一撃を入れるも、当の喰らった本人は余裕の笑みを浮かべながらも、がっかりそうに息を吐いた。
スキルを取り戻しつつあるものの、肝心の攻撃力は人間以下。
【次元跳躍】のクールタイム中のリウラの顔を、リンカーが乱暴に鷲掴みにする。
「ぐあっ!」
「僕の記憶をあげるよ。それでしっかりと思い出すといい」
リンカーがリウラを掴む手に、大量の心力を籠め始めた。
「この僕と――世界の全てを滅ぼした時のことをなぁ‼」
ドクン、と大きく心臓が脈打つように、リウラがビクンと跳ねた後、膨大なエネルギーが発生し、リンカーと聖也を吹き飛ばした。
「……リウラ⁉」
すぐさま立ち上がり、爆発の中心にいたリウラに、聖也が慌てて駆け寄る。
爆発で舞い上がった土煙をかき分けながら、進んだ先で、
「体が……」
肉体を完全に取り戻した、リウラが膝を折って存在していた。
結を助けた時と同じ、腕が、脚が、細身ながらも引き締まった肉体が。今までの一頭身ではない、完全なリウラの姿がそこにあった。
「聖也……?」
「大丈夫か⁈ あいつに何された?!」
「大丈夫じゃ、な、い」
体を取り戻したというのに、肝心のリウラは呆然とした顔で聖也を見つめていた。
そして、突然聖也を右手で強く突き飛ばした。
「ったあ⁈」
「にげ、にげ」
何をするんだ、という言葉は、リウラの様子を見て引っ込んでしまった。
リウラが苦しげな顔で、自分の左手から溢れ出てくる黒い雷のようなオーラを、必死で抑え込んでいる。
「逃げロ……聖也……‼」
リウラが叫ぶと同時、瞬間的に膨れ上がった雷のオーラが、辺りに稲妻をまき散らした。
轟音と共に拡散した稲妻は、破壊するというよりは、触れたもの全てを溶かすように、周囲に消滅をまき散らしていく。
聖也の首輪の鎖に、雷のオーラが触れると、鎖は焼き切られ、聖也が首輪による支配から解放された。
「おい! 必殺技だ‼」
「は、はい!」
リンカーが自分の召喚者に命令すると、召喚者と思われる男性は、必殺技カードをスキャンする。
『必殺技――』
アナウンスと共に、大量の心力がリンカーに流れ出し、邪悪なオーラ―を纏った、一本の鎖付きの首輪が顕現される。
「【駕瓦我隷輪】‼」
邪悪なオーラを纏った首輪が、リウラの首に装着される。
するとリウラが口から涎を垂らしながら、苦しそうな声で叫び出した。
「――止めろ‼」
首輪をつけた者に洗脳の魔術を流し込み、洗脳を終えた者を自在に使役することのできる、リンカーの必殺技――【駕瓦我隷輪】。
敵の狙いは、復活したリウラを使役すること。
気が付いた聖也が、リンカーの必殺技を妨害しようと駆けだすが――
「……っ‼」
「「……え?」」
リウラが左手で鎖に触れると、【駕瓦我隷輪】はいともたやすく引きちぎられてしまった。
「……来るナ」
そして、リウラは一瞬だけ聖也に目をくれると、そのままどこかに走り去ってしまう。
「ハハハハハ‼ いいじゃないか、いいじゃないかぁ‼」
「――ガッ⁈」
何が起こっているのか理解ができずに困惑した聖也の首に、再び首輪がはめられた。
そしてこの場から去ったリウラの後を追うように、リンカーが聖也を引きずり回しながら駆けだした。
「あの力さえ手に入れば、この戦いの勝者になることなんて容易すぎる‼ 何が何でも手に入れてやるぞぉ!」
「クソ……離せ……!」
乱暴に引きずられながら、首輪の解除を試みるも、繋がれている鎖はびくともしない。
解除どころか、高速で石造りの道路を引きずられ、カーブを曲がる際に壁に叩きつけられそうになる。自分の命を守ることで精いっぱいだ。
【剣・巨人殺しの大剣】で相打ちを狙うしか、この状況を単独で打破する方法は存在しない。
襲い来る痛みに耐えながら、聖也が考えを巡らせていた時だった。
「「――⁈」」
突如として鎖が引きちぎられ、聖也が支配から解放される。
「なんだ、君は?」
「こっちのセリフだ変態束縛野郎が」
謎の乱入者が現れ、忌々し気に振り返るリンカー。
苦しそうに首を抑える聖也を、一人の人物が優しく起こした。
「うちの生徒に何してくれてんだテメエ‼」
「せ、先生?!」
聖也を助けに入った人物は、はぐれて行方不明になっていたはずの聖也の担任、音和響子だった。
「ねえちょっと、響子! 私を置いていかないでよ! 私の歌の範囲だって限界があるんだから!」
そして、響子に続いて、ヘロヘロにくたびれた様子のファルモーニが現れる。
「……もしかして、取り込み中?」
「……うん。そうだね」
お互いに身構え、睨みをきかせ合うリンカーと響子。
響子がスキャナーでカードをスキャンすると、響子の両手に薄手のナックルグローブが装着された。
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【拳・無効革】……カウント4。触れた相手のスキル・魔法効果を封殺する革製のグローブ。攻撃力は装備者依存。……R
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「へえ、人間のくせに僕とやり合う気?」
「たりめーだ。テメエみてえな不審者から生徒を守るのも仕事の内なんだよ」
「……じゃあ、私は聖也君保護して隠れとくね!」
「待てや」
響子を残してその場から逃げようとするファルモーニを、響子が低い声で呼び止めた。
「何逃げようとしてんだコラ‼ さっさと歌えや‼」
「は、はいいいいいいいいいいいい‼」
響子の怒声と共に、ファルモーニが楽器を構え、メロディーを刻みだす。
「こんな状況ですが、私、歌います‼」
リウラを追いかけるのも大事だが、目の前のリンカーを放置していくわけにはいかない。
響子とファルモーニを交え、リンカーと暴走するリウラ、そして謎の連盟との乱戦が始まろうとしていた。