連盟
次のゲーム開始は、真夜中の0時ちょうど。
誘われたライングループには、聖也たちに加え、大友那由多と物部紬という人物が入っていた。聞けば二人とも、聖也を経由して仲間になった女子高生とのこと。
だからお前誑し呼ばわりされんのよ。
自分の知らないところで、着々とハーレムを形成しかけている聖也の姿を思い浮かべ、響子は呆れたような、感心したような表情になる。
響子『なんか色々マークがついてるけど、これは何?』
那由多『ピンですね。各プレイヤーのスタート位置がわかります』
響子『人がたくさんいるとこ行けばいい?』
紬『いいわけないでしょ。自殺志願者ですかあんたは』
丁寧な眉他の返信に比べ、紬の返信にはどこか棘がある。
別に傷つきはしないが、友達作るの苦労してそうだなー、なんて感想が浮かぶのは、職業柄か。
響子『人がいない所でスタートすればいいのね』
聖也『スタート地点合わせましょう。開始直前に、住宅街エリア中央の高層マンション前にピンを立ててください』
響子『わかった』
紬『ほんとにわかってます?』
とりあえず、ゲームに関しては聖也の言うことを聞いておけば間違いないだろう。
毒のある紬の返信には、アへ顔で親指を立てる、キモカワキャラのスタンプで返信をした。
結『襲われれば反撃はしますが、ライフ1のプレイヤーは殺さない方針で頑張ってます』
豪『敵に襲われても、勢いのまま殴り殺さないように』
空気を緩める狙いもあるのだろうが、豪、お前あたしの事なんだと思ってるんだ。
冗談半分の豪の返信には、『やかましい』とおどけて返す。(なお、後に聞けば8割は本気で言っていたらしい)
「……あと1分か」
気が付けば、ゲーム開始まであと1分。
こんな夜中に未成年とゲームのやり取りをしているとバレれば問題だが、状況が状況なのでしょうがない。
念のために動きやすい服装に着替えたし、体もすぐ動かせるよう、準備運動も万全。
殺し合い、と言っても現場の空気感の分からない分、緊張しても無駄。
自分を落ち着かせるように、響子はその場で大きく伸びをした。
「さて、ピンを立てればいいんだったな」
響子は腕に装備されたスキャナーのマップ画面を見やる。
既に駅・商店街エリア、運動公園エリアには、無数のピンが乱立している。このプレイヤーたちは敵である可能性が高い為、接触してはならない。
ゲーム開始10秒前。聖也が指定した位置に、複数ピンが立ち始めた。恐らく聖也たちのものだろう。
響子もそこにピンを立て、スタート位置を設定するが――
「――ダメ!」
「っ⁈ ファルモーニ?!」
直前に実体化したファルモーニが、マップをタッチし、響子のスタート地点を駅・商店街エリアにずらした。
そして、響子の視界がスパークし、辺りの暗くなったゲームの世界【召喚都市・夜】に飛ばされる。
「てめえ! どういうつもりだ⁈」
ゲーム開始後は、ファルモーニはカウントが溜まるまで実体化できない。
スキャナーのカードにいるであろう、ファルモーニに響子が怒鳴ると、カードから怯えた声が聞こえてきた。
『……ごめん。ほんとにごめん。でもダメなの。リウラの側にいちゃダメなんだ……』
「いい加減にしろお前! そんな曖昧な説明で分かるわけねえだろ!」
『だからごめんって言ってるじゃない! 事情も知らないくせに怒鳴るの止めてよ‼』
その事情を、お前が説明したがらないんだろうが。
ファルモーニの逆ギレに顔をしかめるも、今まで聞いたことの無い、本気で怯えたファルモーニの様子に、響子も言葉を引っ込めた。
「……あの、すいません」
「――誰だ⁈」
背後から急に声をかけられ、響子は警戒態勢をとりながら、声の方へ振り返る。
聖也たち以外の人間=敵の可能性。
声をかけてきたのは、自分と同じくらいの20代女性。服装から見るに、会社勤めのOLだろうか。
鋭い目つきで身構える響子に、そのOLは慌てて手を振りながら、敵意がないことを懸命に示す。
「あ、驚かせてごめんなさい! 見ない顔だったから。あなた、連盟の新入りさんですか?」
「……連盟?」
「連盟を知らない……? あなた、もしかして初参戦です?」
首を傾げた響子に、OLの女性は驚いた様子で尋ねる。
「……ええ、まあ」
「良かった! いろいろ分からないことだらけで不安だったでしょ? ゲームのことはどこまで知っているのですか?」
「えっと、プレイヤー間で殺しあって、生き残ったら、勝者の特権がなんやら……」
「最低限は知っているようですね」
響子の回答に、女性はホッとしたように胸をなでおろす。
え、なに。この敵意の無さ。殺し合いのゲームじゃなかったの?
困惑した顔で、警戒態勢を解かない響子の様子を見て、「あ、殺しあうつもりはないんです!」と、両手を上げて、敵意の無さを改めてアピールした。
「だって、殺し合いなんて馬鹿げているでしょう。どんな願いを叶える力が手に入ると言っても、普通に暮らしてる人間が、そんなこと出来るわけないじゃないですか」
「ですよねえ」
朗らかに笑う女性に釣られて、響子も構えを解き、つられて笑った。
良かった。デスゲームって言っても、まともな人間もちゃんといるんだ。
警戒を解いた響子に、女性は人差し指を立てて、提案した。
「よかったらいっしょに来ませんか? 実はそういうプレイヤーを集めて、【連盟】という集まりを開いているんです」
「へえ、それはいい」
「でしょう? 貴方さえよければ、私たちのリーダーに紹介して、貴方も連名に参加できるよう、交渉してみましょうか?」
「それは是非ともお願いしたいです」
聖也が敵の可能性が高いと言っていたプレイヤーは、非殺戮主義者の集まりのようだ。
本来は、聖也たちに合流しなきゃいけないのだが、せっかくだから、連盟という集まりの情報について仕入れておくのは悪くない。
もしいい人の集まりだったら、生徒たちも仲間に入れてもらえるよう、お願いしてみよう。
「それじゃあ、リーダーに紹介しますね」
女性はスキャナーから【通話】のカードを取り出して、スキャンすると、リーダーと思われる人間と会話をし始めた。
「面会オッケーです!」
通話を終えた女性が明るい顔で〇を作ると、響子を手招きしながら、リーダーの下へと先導する。
(……まあ、残りの仲間との顔合わせは、またの機会にしよ)
本来は、那由多、紬と顔合わせの予定だったのだが、こうなってしまっては仕方がない。
陽気に笑って歩く女性の後を、響子も軽い足取りで付いていくのだった。