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サモナーズロード ~召喚士の王~  作者: 糸音
GAME5 魂音の精霊と復活の破壊神
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【魂音(こおん)の精霊 ファルモーニ】②

「――と、いうわけで。謎のデスゲームに巻き込まれた私たちは、カードの力と、私のスキルを上手く使って、勝ち残りを目指さなければなりません! あなたと私は運命共同体ってこと! オーケー?」

「オーケーなわけねえだろ。痛い妄想垂れ流しやがって」


 デスゲームについて一通り説明したファルモーニを、邪険に響子が突き放す。


「ちょっとぐらい私の言うこと信じてくれてもいいじゃない⁈ 私、きょーこのせいで散々な目に会ってるんだから?!」

「はあ? 私がテメエに何したって言うんだよ」

「いろいろしてくれたじゃないのよ‼」


 響子のとぼけた返事に、ファルモーニが怒りを顕わに続けた。


「身売りしようとした上で、ゴミに出そうとしたでしょ! その後砂場に生き埋めにしようとして、挙句の果てに川流しって何⁈ あんたがスキャナー装備しなかったせいで、心力(スヴォシア)が摂取できないこっちは餓死寸前だったのよ⁈」

「身売りにゴミ出しって――まさかお前、あの端末に憑りついてた怨霊か⁈」

「怨霊って何よ⁈ あんたが不戦敗して勝手に消えるのを防いであげようとしていた恩人でしょうが‼」


 恨みが募ってた両者は、今までの怒りをぶちまけるように取っ組み合いを始めた。


 取っ組み合いは響子の圧勝で終了。


 取り敢えずストレスを発散できた響子に、取っ組み合いで敗北したファルモーニは、泣きじゃくりながら語り掛けた。


「グズッ……そんなに私の言うことが信じられないなら。あんたが勉強教えてる男の子にでも、聞いてみなさいよ」

「は? なんでうちの生徒が出てくんだ」

「きょーこ見たでしょ? その生徒ってのが、あんたと同じスキャナーを持っていたのを。あれデスゲームのプレイヤーである証よ」


 ファルモーニの言葉で、響子は、豪の鞄に自分と同じスキャナーが入っていたことを思い出した。


「ああ、そういえば学校でそんなことが……」


 学校、と口にした響子が突然言葉を切り、一瞬だけ目を細めて、大量の冷や汗を流し始める。


「……今何時だ」

「え? 何?」

「今何時かって聞いてんだよ⁈」


 血相を変えて、突然胸ぐらをつかんでくる響子に、ファルモーニが怯えながら首を振った。


「あんたの世界の時間の基準なんて知らないわよ⁈」

「この世界では時間の流れは止まってるんだよな⁈」

「それはデスゲーム中の話! この昼のフィールドはあんたの世界と同じ速度で時間が経過してるのよ! あ、あれ! ほら響子! あれ時計ってやつでしょ⁈ あれ見ればわかるんじゃない⁈」


 ファルモーニが慌てて、商店街に立っていた柱時計を指差すと、響子が睨むような視線で時計へ振り返る。


 時刻は――9時20分。


「くそったれえええええええええええええええええええ‼」

「ちょ、響子?! お願い! 殴るの止めて?! ぶたないで‼」

「出せ‼ 今すぐ私をここから出しやがれ‼」


 胸ぐらをさらに引き寄せ、拳を振りかざそうとする響子を、泣きながらファルモーニが制して、ログアウトの方法を教えた。


 ログアウトのコマンドを押した響子は、アラーム3台が無慈悲に鳴り響く,自宅の部屋へと転送される。

 響子のスマホには、他の教員や教頭からの、不在着信が何件も入っていた。


 しばくしばく。学校が終わったらあのファルモーニとかいうコスプレ女、とにかくしばく。


 学校へ連絡を入れた響子は、すぐさまタクシーを手配し、タクシーが来るまでの間に着替えと化粧をすまして、荷物を手に飛び出した。


 始業時間を大幅に越え、勤務先の中学校にたどり着く。

 ファルモーニへの怒りを更に募らせながら、同僚や上司に向かって、響子は頭を下げ続けるのであった。


 ・・・・・・・・・・・・・・・


 結局その日は、休みの内に溜まっていた細かな雑務や、復帰した自分に寄って来る生徒たちへの対応に追われ、スキャナーについて尋ねることなど忘れていた。


 そして家に帰って、一頻りファルモーニの尻を叩いて懲らしめた後、夕飯の野菜炒めを口にした。


「お前、メシとか食わねえの?」


 反省の態度を示すために、部屋の隅で身を縮めながら正座をしていたファルモーニが答えた。


「きょーこの心力(スヴォシア)さえもらえれば、私は大丈夫よ」

「その心力(スヴォシア)ってのは、私が生み出すやつじゃなきゃダメなの?」


 響子の質問に、ファルモーニはうんうんと、頷いた。


「スキャナーに私のカード刺さってるでしょ? そのカード越しにしか私は心力(スヴォシア)を受け取れないのよ。カードに心力(スヴォシア)を送る役割はスキャナーが果たしていて、そのスキャナーはきょーこ専用のもの。つまり、私はきょーこに心力(スヴォシア)を貰って生きるほかないわけ」

「寄生ってことね。こんなでっかい寄生虫飼いたくないんだが」

「共生関係ですー。寄生って言わないでくださーい」

「お前が私の何の役に立つんだよ」

「デスゲームで生き残れるよう、サポートするわ」


 ファルモーニの回答に、響子は顔をしかめる。

 ファルモーニから一通り説明を受けたものの、響子はこのゲームに関して正直ピンと来ていない。

 異世界から来たというファルモーニの存在を何とか受け入れ始めていても、ファルモーニが度々口にする、デスゲームについては半信半疑だ。


「だからきょーこ、あんたは明日、あの豪って生徒を仲間に引き入れなさい」

「は? 何で」

「私の力じゃ、1人で勝ち残るのは無理。信頼できる誰かとチームを組んで、その人に私の願いも叶えてもらう」


 ファルモーニの説明に、響子が「お前私よりも弱いもんな」と冷ややかな視線を浴びせた。


「だが、お前が言うような殺し合いのゲームなら、うちの生徒は巻き込めねえぞ」

「巻き込む巻き込まないじゃなくて、強制参加なの。他のプレイヤーに殺される前に、保護する意味でも、一緒にいた方がいい」

「……まあ、それなら」


 いつもの口うるさい賑やかな様子から一転して、ゲームのことについて語るファルモーニは神妙な様子だ。

 ゲームについては半信半疑だが、直感で嘘は言っていないことは分かる。

 ファルモーニの助言に、響子は複雑な顔で頷いた。


 しんみりとなった室内に、響子の持つ箸と食器が重なる音だけが聞こえ始めた。


「……ごめんごめん! なんか真面目な話、しちゃったね! お詫びに一曲歌ってあげる!」

「歌うなバカ。うちのマンションは9時から楽器は演奏しちゃいけないんだよ」

「じゃああと10分は歌っていいってことよね?」


 しまった。もうちょっと門限を早めに設定すればよかった。

 時間の関係で響子にこっぴどく怒られたファルモーニは、人間世界の時間の数え方と、時計の読み取り方をマスターしていた。


 ファルモーニが指を鳴らすと、ファルモーニの体から心力(スヴォシア)が溢れ出し、溢れた虹色の心力(スヴォシア)が、ギターに似た楽器に変貌を遂げる。

 ギターから延びる光のコードを、胸元に描かれた魔方陣に差し込むと、鼻歌交じりにギターを鳴らす。


「きょーこが、スマホ? ってやつでよく聞いている曲ね」


 ワンツーワンツーとリズムをとってから、ファルモーニが演奏を始める。

 演目は響子が好きなバンドグループの1stシングル。楽器はギターしかないはずなのに、ファルモーニの楽器からは、ギターのみならず、ドラムやキーボードの音が響いてくる。


「その音、どうやって出してんだ?」

「これねえ、私の特技。魂音(こおん)って言ってね。私が想像した音を、このコードを伝って楽器で鳴らすことができるの。ひとりでオーケストラもできるんだよ」

「へえ、すげえ」


 こういう魔法じみた所業を見ると、ファルモーニが異世界からやってきたと改めて実感させられる。

 便利な能力ではあるが、数回耳にしただけで、曲を完璧に再現し、アレンジを加えることができるのは、ファルモーニの耳が良く、音楽に対する造詣が深いからなのだろう。

 珍しく素直に感心する響子に、ファルモーニは得意げに笑った。


「私、きょーこの世界の音楽好きよ。いろんな人が、色んな音を出して、個性が一杯できいてて楽しい。歌詞も楽しいものから泣きたくなるものまで様々。だから人間の世界が羨ましい」

「お前の世界じゃ、そんなに音楽は発展してなかったのか?」

「私の世界じゃ心力(スヴォシア)がお金でありながら、寿命でもあった。命を払って、何か物を買う。娯楽に対するハードルが高かったから、音楽もそんなに発展しなかったの。命を捧げる価値のある音を出さないと、誰も聞いてくれなかったから」

「結構ディストピアなのな」

「うん。だから、音楽の授業があったり、思いついた歌を、インターネットってやつとかで、すぐ皆に共有できるのって、凄いと思う。多くの人が楽しいことを楽しいと思えるだけの余裕や、それを成り立たせるための社会の仕組みが、きょーこたちの世界にはある」


 こうも自分たちの世界についてべた褒めされるのは、悪い気はしない。

 一方で、ポップスやヘビメタなどの、音楽の概念が生まれる程度には、ファルモーニの世界の文化水準は高かったようだが、だからと言って、それを誰でも楽しめるような環境ではなかったらしい。

 笑いながらも、少し物憂げな遠い眼をしながら、弾き語りをするファルモーニを、響子は黙って見つめていた。


「私ね、きょーこたちの世界の音楽、たーくさん聞いてね、私だけの曲、たーくさん作る。んでもってゲームで勝ち残ってさ。私のいた世界を蘇らせて、きょーこたちの世界みたいに、人を集めてライブするんだ」

「それいいな。……蘇らす? 元いた世界に帰るとかじゃなく?」

「うん。私たちの世界は、一度滅んでる」


 滅んでいる、というのはどういう意味か。

 急に話がシリアスな方に傾き、真剣な面持ちになる響子に、ファルモーニがあえておどけた口調になった。


「ああ、ほら、あんたたちの世界で言う、転生ってやつ? 私たち一度死んでるのよ」

「お前、本当に怨霊じゃないだろうな?」

「だーからそんなんじゃないって! メモリーカードと心力(スヴォシア)さえあれば、理論上は復活できるの!」


 またも怨霊扱いされそうになったファルモーニが、ぷうっと頬を膨らます。


「なんでお前らの世界は滅んだんだ?」

「……それは、ちょっと思い出したくないかな」


 少しだけ怯えたように言葉を濁すファルモーニを見て、響子も質問を打ち切った。

 死の瞬間ってというのは、どんな世界の生物でも、トラウマものには違いない。

 自分の発言がしんみりとした空気を作ってしまったことを誤魔化すように、ファルモーニは無理やり笑って、響子に人差し指を突き付けた。


「とにかく、正しく世界を蘇らせるために、信頼できる仲間を作らなきゃね。明日、あんたの生徒さんに声掛けをお願いね。わかった?」

「はいはい、わかりました」


 響子がやれやれと頷くと、ファルモーニが満足そうに頷いた。


「そうと決まれば、明日に備えて休みましょ! それじゃ、お休みなさーい!」

「てめえは床で寝やがれ‼」


 図々しくも響子のベッドを拝借しようとするファルモーニを、響子が強引にベッドから叩きだした。

 そもそも、ファルモーニは実体化を解いて、カードの中で眠ればいいだけの話なのだが、どうもカードの中は窮屈で嫌らしい。


 自分もふかふかの布団で寝たいとごねるファルモーニに苛立ちながらも、響子は予備の布団を押し入れから引っ張り出して、それを床に敷いてやるのだった。


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