不安の種と、新たな招待状
ちょっと仕事が忙しくて、投稿が不安定になりそうです。
出来る限り頑張って投稿します。
「……で、カードは手に入らず、期待した情報も得られなかったと」
ジークと接触した翌日の昼休み。結に加え、豪も一緒に屋上で弁当を食べていた。
豪の弁当は肉が中心のスタミナ弁当。大きめのお重に入った白米やステーキをガツガツと食べながら、豪が話を纏めた。
「そうなんだよ。結局ジークの言葉の意味も分からずじまいだし」
「ねえ聖也、リウラが本当は悪い人っていう可能性は……」
『あるわけないだろ、バカ女』
豪のカバンの中のスキャナーから、ゼロムの声が響く。
『そもそも、あのカス共の言うことを真に受けるな、バカ共。」
「バカ女……」
「……おいゼロム、お前仲間に対してその口の悪さはねえだろ」
肉体の成長に合わせて、声帯も成長し、はっきりと言葉を喋れるようにはなったものの、口の悪さは相変わらずだ。
目に見えて落ち込む結をフォローするように、豪がゼロムを窘める。
『俺はリウラ師匠に最大限の敬意を示すため、他の奴らには暴言を吐くことに決めている』
「いや、どんな敬い方だ。普通にリウラに敬語使って話せよ」
『俺敬語知らない』
「……豪、少しずつ教えてあげなよ。敬語」
「……おう」
どうやらゼロムは育ちが良い方ではないらしく、敬語の概念がないらしい。
リウラを頂点に、他の扱いを落としていくような斬新な敬意の表し方に、全員が呆れたような息を吐いた。
「……でもゼロムは、前の世界でリウラに似た何かに殺されたんでしょ?」
ずれた話を聖也が戻すと、ゼロムが困ったように唸り声を上げた。
『……似ているだけだ。師匠とは別物』
そういうゼロムも、何だか歯切れが悪い。
『そもそも師匠はそんなことする奴じゃない。そうだろ? 師匠』
『……ウム。俺自身もそう思う』
聖也のカバンの中から、リウラが返すが、こちらも返答に元気がない。
「まあまあ。純粋にジークたちの依頼主がリウラを狙ったのだって、純粋にリウラが強すぎるせいで、復活を阻止したいのかもしれないし」
「どういうことだ? 結ちゃん」
「豪くんは知らないかもだけど、リウラは体を取り戻すと、すっごく強いんだよ。それこそジークとかでも全く歯が立たないんじゃないかな?」
「へえ、そんなに強いのか。お前の契約戦士」
「ああうん、復活さえしてしまえば、余裕でゲームに勝てると思う」
「……お前にそこまで言わせんのか」
結の言う通り、純粋に、ゲームの勝ち残りを狙うプレイヤーが、リウラの復活が不完全なうちに、リウラを討伐しようとしている可能性はある。
ジークたちは意味深に、記憶を持っていない自分たちだからこそ。リウラの討伐役として選ばれたことを強調していたが、それこそ、強すぎるリウラを復活させたくない以上の意味は持たないのかもしれない。
ただ、気がかりなのは、以前にラクナが吐いたセリフ。
――せいぜい、記憶を貰う相手は選ぶことですね。リウラが正しく、肉体と記憶を取り戻すために。
正しい復活ってなんだ? 記憶の全てを思い出すことは、正しい復活じゃないのか?
リウラの事を知るラクナは、なぜか仲間になった後も、リウラの復活に非協力的だ。今となってはリウラの復活は、ラクナにとってもメリットのある話なのに。
もしかして、リウラが復活すると、何か悪いことがある?
聖也が深く考えていた所、『おい』とゼロムが苛立った声をあげる。
『お前が余計に悩むから、師匠が変な不安を覚えるんだ。お前はただ、師匠を信じていればいいんだ』
「そうだよ聖也。一番傍にいる聖也が信じてあげないと」
ゼロムの言葉を結が後押しすると、「……それはそうだね」と聖也も頷く。
だが、頷きながらも、聖也の胸をチクリと妙な違和感が刺した。
二人の言葉に頷きはしたけど、今頷いた『信じる』って言葉は何か違う気がする。
今の信じるってのは、リウラがリウラの世界を壊し尽くすような存在じゃない、と――そうであって欲しくないという願いであって、本来の信じるって言葉の意味と、ズレているような気がしてしまった。
もしリウラが、リウラの世界を滅ぼした存在だとしたら、僕はリウラを信じることができるのかな?
もしそうだったとして、僕はリウラとどう向き合って、リウラの何を信じるんだろう?
どうにも煮え切らない聖也の表情を見て、豪が強引に話題を切り替えた。
「そういえば、ゼロムたちって飯食わなくても平気なんだよな?」
『ああ。スキャナーを通して、主たちが生み出す心力を摂取できているからな。心力さえあれば俺たちは死なない』
『一度スキャナーを装備すると、お前たちの心力が受け取れるようになるよう、スキャナーにプログラムされているのだ。……それと同時に、デスゲームの参加登録も自動で行われてしまうが』
ゼロムの説明を、リウラが補足する。
「え、じゃあスキャナーさえ装備しなければ、僕たちデスゲームに参加しなくてよかったってことにならない?」
『確かにそうだが、その場合は不戦敗となって、自動的にライフが減らされる』
「装備しないと、契約戦士共々、勝手に消滅させられてしまうってことか」
『そうなるな。……まあ、スキャナーには装備したくなるような暗示の魔術が込められているから、基本的にはそのような事態は起こらないかもしれんが……』
「勝手に消えるよりかは、デスゲームに参加して、生き残りかけて戦った方がマシかあ」
豪の変えた話題に、ゼロムたちが上手く乗ってくれた。取り敢えず重苦しい空気が解消されて、聖也と結は胸をなでおろした。
その後は豪が昨日見たドラマの話などを適度にふってくれて、穏やかな昼休みを過ごすことができた。周りの目を気にして生きてきた影響からか、豪は空気を読むのが上手い。
「……あいつらいつの間にか仲良くなったんだな」
そんな聖也たちの様子を、屋上入り口の扉の隙間から、聖也たちの担任である響子が伺っていた。響子が安心したような笑みを浮かべて、屋上を後にしたことは、みんな気が付いていなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・
夕日が沈んで、月が登り始めた頃、響子は学校近くにある、マンションの一室の扉を開けた。
響子が一人暮らしをしている部屋だ。学校や駅などが近くにあり、少し歩けば大型の商業施設なども存在する立地にあり、オートロック、インターネット完備の1LDKの部屋は、家賃は決して安くはない。
だが、流石私立の金持ち学校というべきか。勤務する教師は、指定エリアの一定金額以下の物件なら、家賃の全てを学校側が肩代わりしてくれることになっている。
まだ働き盛りの20代前半。この措置はまだ貯金に余裕のない響子にはありがたい。存分に金持ち共の好意にあやかることにしている。
「……ん? なんだこれ」
玄関前に無造作に置かれていた小包を拾い、響子は首をかしげる。
送り主の住所どころか、自宅の住所すら記載されていない小包には『音和響子 宛』と記されている。
怪しげな小包に、不信感を覚えながらも、響子は小包の封を開ける。
「……カードと、何かの玩具かこれ?」
小包の中に入っていたのは、デスゲームへの招待状。
聖也たちが装備しているスキャナーと、メインデッキ。
だが、そんなことも知らない響子は、このスキャナーとデッキを、何かの間違いで届いた玩具だとしか思っていない。
何でだろう。なんだか一度装備してみたい。
何か暗示にかかったように、無造作に強化が装備しようとしていた所――
「……待てよ。これメルカリで売れるんじゃね?」
暗示を打ち破るほどの邪な思想で、響子はふと我に返った。
返送しようにも、送り状とかないし。そもそも私宛に届いた小包だし。そもそも最近の玩具とか知らんし、興味もない。
……だったら売って生活費の足しにした方がいいよなあ?
「包装用の緩衝材あったっけ……」
スキャナーとデッキを小包に入れ直し、響子は押し入れの小物入れの中から、適当な段ボールと緩衝材を用意し始めた。
諭吉の一枚にでもなってくれたら儲けもの。
響子はうきうきとした様子で、明かりを調整しながら、スキャナーとデッキの写真をスマホで撮った。
『謎の電子機器・おまけで何かのカード \10000 値引き交渉受け付けます』
明日は土曜で学校は休み。
フリマサイトに写真を撮って出品し、響子は家事と、来週の授業の準備を終わらせて床に着くのだった。