襲った理由 ~クズ編~
投稿が遅れてしまいました。
申し訳ございません。
新章スタートです<(_ _)>
「……やっぱりカードは落ちてないね」
ジークと戦った翌日。聖也とリウラは、新しいカードを求めて、【召喚都市・昼】のフィールドを歩き回っていた。
しかし、歩けど歩けども、スキャナーはおろか、他のプレイヤーすら見当たらない。
「……俺たちの他にグループを組んでいるものがいる以上、もう物色されつくしてしまったのではないか?」
「それはそうかもね」
どこか気の抜けたリウラの言葉に返事をしながら、聖也は相棒の様子を見やる。
「……」
いつもなら「カードがなくても、復活した俺のスキルがある! 俺を当てにしてくれれば良い!」ぐらいの前向きな言葉を吐きそうなのだが、当の本人は、少し俯きながら、ぼうっと何かを考えているようだ。
「ねえリウラ」
「……どうした?」
「どうした、じゃないでしょ。昨日から様子が変だよ。何か嫌な記憶でも思い出したの?」
右手を取り戻してから、リウラはどこか魂が抜けたように、物思いにふけることが多くなった。
その原因があるとすれば、ゼロムから貰ったというリウラの記憶。聖也が内容を尋ねても、リウラはその度にはぐらかし、詳細を語ろうとしない。
どこか意気消沈した振る舞いや、隠し事をするような態度に、聖也も流石に心配になる。
そんな心配を察してか、リウラも申し訳なさそうに「すまない」と謝ってから続けた。
「……ゼロムの記憶の最後で、俺に似た何かが、ゼロムや俺が住んでいた世界を壊して回っていたんだ」
「どういうこと?」
「俺にもわからん。恐らく俺には関係ないものだ。……関係ないはずなんだが」
複雑な表情で押し黙るリウラ。そんな相棒の様子に釣られて、聖也も暗い気分になってしまう。
これ以上聞いても、リウラを追い詰めてしまうだけだ。
そう判断した聖也が、何か別の話題を探したところ――
「おっ? なんか見たことある奴いる~」
「「……」」
後ろからした、今最も会いたくない契約戦士の声に、二人は身を固まらせた。
うん、違う。確かに空気を変えたいとは思っていたけど、お前は呼んでない。
何も聞かなかったことにして、その場を去ろうとする聖也の前に、生物以外をなんでも通す黒い渦――【隔娄界門】が出現する。
『そうつれない態度取るなよ~。俺と聖也君の仲だろ?』
「お前と僕の仲だからだよ‼」
まるで自分を殺そうとしてきたことなど、気にも留めていないような軽い声が渦から聞こえ、聖也は怒りを顕わに背後へ振り返る。
「はろ~。聖也君とリウラ、だったっけ? 元気してる~?」
「あ、どうも……こんにちは」
振り返ると現れたのは、前回戦った性格最悪の鉱石の魔人――ジークと、その召喚士である雄人の姿だった。
「何カッカしてんの? 昨日の敵は今日の友って言うだろ? せっかく会ったしお茶でもどう~?」
「勝手に友達認定するな! 僕はお前が、僕の仲間にしたことを忘れちゃいないからな!」
「いつまでもそんなちっちぇえこと気にしてちゃあ、いつかストレスで早死にするぜ~? クソみてえなことがあったら、水に流して忘れるに限る! 糞みてえにな。ギャーッハッハッハッハ‼」
命を狙われたのはちっちゃいことでもないし、お前のせいで豪のライフは1減ったし、結に至っては消滅の危機まであった。
そんな聖也の事情などお構いなしに、ジークは腹を抱えて、下品な笑い声をあげている。
「まあ、せっかく会ったし、……どうかな、少し話しない? 君に聞きたいことがあってさ」
ジークの様子にドン引きしながらも、雄人からも、話の場への誘いを貰う。
「……話を聞こう。聖也」
「リウラ⁈」
聖也が返答に困っていた所、それを後押ししてきたのはリウラだった。
「俺たちの殺害を頼んだ依頼主とやらについて、こちらも把握していた方がいいだろう」
「正直に話すとは思えないよ? こいつら」
「それでも、他に知るすべもないだろう。それに……」
リウラは神妙な顔で俯いてから、腹をくくるような眼差しで言葉を続ける。
「……俺の記憶を貰えるかもしれない」
そんなリウラの様子に、聖也も重い息を吐きながら頷いた。
凄く、凄く気が進まない。
だけど、リウラの言っているように、他に話を聞く当てがないのも事実。
「お? 俺様とお茶する気になった?」
ニヤニヤと悪い笑みを浮かべながら、聖也たちの様子をうかがうジーク。
嫌悪感を顕わにしながら聖也は頷くと、「よ~し、それでは楽しいティータイムと行きますか!」とジークは浮かれた様子で、雄人の頭をバシバシと叩くのであった。
・・・・・・・・・・・・・・・
お茶をしようぜ。
そう言われて連れてこられたのは、住宅街エリアに存在する、食べ放題の焼き肉チェーン店。
無人のレジに雄人が「……4人分で」とスキャナーをかざすと、進入禁止の結界が解除され、中の適当な席に座る。
席についているタブレットには、『残り120分』という表記と、食べ放題のメニューの内容が映し出されていた。
「これとこれとこれとこれと……取り敢えず旨そうなやつ全部頼むぜ~」
他3人の意見などお構いなしに、ジークは自分の食べたいものを片っ端から頼み始める。
注文確定のボタンを押すと、突如として洗われた魔方陣から、大量の肉やサイドメニューが吐き出された。
店員が運んでくるのを待つ必要がないのは、便利なものである。
「んで、俺に聞きたいことがあるんだろ?」
肉を焼くのを雄人に丸投げしながら、ジークはニタニタと聖也たちに向かって邪悪な笑みを浮かべる。
「……依頼主ってなんだ。何で僕たちを狙っている?」
「まあ、聞きたいのはそんなことだろうと思ったぜ」
焼けた肉を、器用に箸を使って口に運びながら、ジークは話を続けた。
「依頼主の顔や、お前たちを狙う目的は知らねえ。あくまで俺たちはビジネスとして、お前たちを狙っただけだからな」
「ビジネスってどういうこと?」
「よくぞ聞いてくれました!」
ジークは一人で拍手をパチパチと鳴らして、勝手に一人で盛り上がる。
「雄人君がさ、お前たちの世界で、お金? ってのに困ってたからさ。優しい俺様が、いろいろな金策を考えてやったのよ」
「……金策?」
「まあまずは、紙幣ってやつを【増素界門】で増やそうとしたんだけど、遠し番号? ってのが一緒で使えねえから却下された。 硬貨の複製には札束よりもエネルギー使うし、めんどくさいから、俺から断ったがな」
しれっと語っているが、普通に通貨偽造罪で犯罪だ。
何気ない様子で、日本経済を壊してしまう可能性を持つジークのスキルに、聖也は戦慄する。
通し番号が何とかなったら、お前、複製した札束使うつもりじゃなかっただろうな?
懐疑的な聖也の視線に、雄人が目を逸らしている中、ジークは話を続ける。
「そこでセカンドプラン! ひもじい雄人君の為に、俺様は天才的なビジネスを思いついた!」
「どうせろくでもないビジネスだったんだろ⁈」
「馬鹿野郎! 正々堂々、清廉潔白! 至極真っ当な商売よ!」
ジークは【隔娄界門】を発生させると、ノートパソコンが中から吐きだされ、それを聖也たちに突き付けた。
「――はあっ⁈ なんだよこれ⁈」
そして、映し出されていたホームページの内容を見て、聖也が悲鳴に近い声を上げた。
「『ムカつくゲームのプレイヤー、ぶっ殺します! お値段1億、前金は5000万! 金さえ積めば、世界最強のジーク様が、どんなプレイヤーでも仕留める、代行プレイヤーキルビジネス!』 ツヨツヨの俺様しか出来ない最強の商売だよなあ? このホームページを【召喚都市】のインターネット上で公開して、俺たちは依頼を待ったわけよ。あ、ホームページ作成は雄人君が一晩でやってくれました」
「フザけんな⁉ こんなイカれたホームページを見て、仕事を頼む奴なんかいるわけ――」
そこまで言い切ったところで、気まずそうに雄人が目を逸らす。
「……まさか」
「……うん、振り込まれたんだよね。5000万」
「ゴッ……⁈」
5000万。
今まで生きていた中で、見たこともないような額の大金に、聖也が意識を失いそうになる。
疲れたように頭を抱える聖也を見て、雄人が勝手に自己弁護を始めた。
「いや、僕も依頼が来るなんて思ってなかったよ! でも気が付いたら勝手に5000万、予備の口座に振り込まれていて、返すこともできなかったんだ! しかも、ボイチェン使って『金は払った。リウラって契約戦士と、その召喚士を殺せ』って一方的に言われてさ! ……だから、その、こっちも後に引けないっていうか……被害者っていうか……」
「そいつは何でリウラを狙っている⁈」
「知らないよ! ジークたちの世界で、何か悪いことでもしたんじゃないの⁈」
聖也の怒声に、雄人が怯えながら返した。
そんな主人の情けない様子を見て、ジークがゲラゲラと笑いながら肉を食べる。
「まあ、お前たち割と強かったし。1億貰っても割に合わないビジネスになっちゃったのよね。……だから、暫くの間は狙わないでおいてやるよ」
「……依頼主を裏切るってこと?」
「人聞きの悪いこと言うな! 義理堅いジーク様がそんなことするわけないだろ!」
「……でも、仕事はしないってことなんだよね?」
「殺しの期限なんて設けてねえからなあ! いつか達成しますって言って、前金だけは貰っておこうぜぇ! 返せって言ってきたら、依頼主ぶっ殺せばハッピーエンドだ‼」
義理堅いって、なんだっけ。
あまりに横暴な振る舞いに、全員言葉を失いながら、下品な笑い声をあげるジークを見つめていた。
「ジークとやら、お前は前の世界の俺について、何か記憶を持っているか?」
「ん~?」
話が一段落したところでリウラが尋ねると、ジークは豪快なゲップをしてから答えた。
「おめーの事なんか知らねえよ? まあ、俺様自分のこと以外に興味なかったし」
「……そうか」
「だから俺たちに依頼が来た」
「……どういう意味だ?」
ジークの意味深な言葉に、リウラが食いつくように反応した。
リウラの真剣な表情をあざ笑うかのように、ジークはニタニタと爪楊枝で歯の隙間を弄った。
「言葉通りの意味よ。お前を知らないから、俺はお前たちの殺し役として選ばれた。ククク、後は自分で考えなあ?」
「……僕が聞きたいこともそれだったんだよ。一億払ってでも殺したい奴がいるなんてさ。……君の契約戦士、いったい前世で何したんだよ?」
ジークたちの言葉で、聖也たちは複雑そうな表情で、向かい合った。
ジークの言っている意味は分からないが、依頼主とやらが、リウラの重大な秘密を何か知っているのは間違いなさそうだ。
ただ、それは今の自分たちが知っていいものなのだろうか?
あまり良くない方向へと物事が進んでいくような不安を感じていた所に、「あのさ……」と雄人が語り掛けてきた。
「なんというか、その、ジークはああ言ってたけど、依頼主との関係が切れたわけじゃないからさ。……もしかしたら、また君たちを狙わなきゃいけなくなるかもしれない」
「……」
「……えっと、その、ね、つまり、その」
鋭い聖也の眼光に怯えながらも、目線をせわしなく動かし続けながら、雄人がしどろもどろに言葉を繋ぐ。
そして、自分を落ち着かせるように、小さく咳払いをして、俯きながら上目遣いになった。
「……今後とも、よろしく」
「――‼ 宜しくするわけないだろ‼」
ジークもクズだが、雄人も十分、別ベクトルでクズだ。
余りに身勝手な言葉に、聖也は机を乱暴に叩きながら、リウラを連れて店を後にする。
「あと1時間、残ってるぜ~?」
そんなジークの言葉を完全に無視しながら、聖也は店の外でログアウトのコマンドを押したのだった。