連鎖する覚醒と、意外な決着
「ねえジーク……なんか、苦戦してない……? さっきからジークの悲鳴が聞こえるんだけど……?」
「うるせえ! 雄人は黙って引きこもってろ!」
尻尾で掴まれた宝箱の中から、外の様子がわからない雄人の、心配そうな声が聞こえてきた。
そんな雄人の心配を心底ウザそうにあしらうと、ジークは腹いせに、尻尾で宝箱をブンブン回す。
「イダダダ⁈ ちょ、ジーク、痛い! あと酔う! 酔うから⁉」
宝箱の内側から、ガンガンと何かがぶつかる音が鳴り続ける。
そんな目に会う雄人を無視して、ジークは自分に対峙するゼロムたちに、警戒態勢をとった。
「一斉攻撃だ!」
「「了解!」」
豪の合図で、那由多は【感電矢】、豪は【|弱体化《ダウン》】の魔法をジークの目に向けて放つ。そしてゼロムは【ゼロブレイド】を発生させた薙刀を、ブーメランのように投げつけるが――
「あ」
手が滑ったのか、間の抜けた声と共に、薙刀はジークから大きく外れた、右斜め上に向かって飛んでいった。
「! 馬鹿が!」
それを好機と見たジークが、自分の目の前に【隔娄界門】を二つ発生させ、【感電矢】と【弱体化】の魔法を入れ替えるような形で跳ね返す。
跳ね返された【感電矢】は豪に、【弱体化】の魔法は那由多に命中した。
「がっ‼」
「う……!」
痺れで体の動きを縛られた豪がその場で倒れ、力が入らなくなった那由多が、その場で膝をつく。
「っしゃあ! 儲け~! やっぱ雑魚は肝心な時に――」
豪は倒れながら、ゼロムを馬鹿にし始めたジークを見て、内心ほくそ笑んだ。
やっぱテメエは、人を見下すのが好きなんだな。
だからゼロムの、あんな大根芝居にも引っかかる。
こんな時にゼロムがミスるわけないだろう。
つまり、お前の敗因はその性格――
他人の強さを認めず、見下してばかりのクソ見てえな性根の悪さが敗因だ。
倒れながら、豪は隣のビルで待機しているであろう、聖也たちに勝利を託す。
そして聖也とリウラが待機しているビルの中――
「角度完璧だ、ゼロム!」
「リウラ! 師匠の技、見せてやりなよ!」
「ああ! これが俺のオリジナル――」
リウラが、復活した右手を構え、ゼロムの薙刀へ狙いを定める。
「【見えざる手】‼」
リウラが右手を引く動作と同時、ゼロムの薙刀がリウラに向かって勢いよく吸い寄せられ、その同線上にあったジークの尻尾の先を、ブーメランのように回転する刃で切り裂いた。
「――ガッ⁈」
「リウラ!【次元跳躍】!」
「おう!」
聖也たちはすぐさまビルの外、地上の方へワープし――
「「【見えざる手】‼」」
今度は尻尾の先に掴まれていた、雄人が入っている巨大な宝箱を、自身の元へ勢いよく引き寄せる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
ゼロムの覚醒とほぼ同時、リウラは自身の右手が、離れた場所で復活するのを感じ取っていた。
復活は右手のみということから、リウラの右手を回収しに行っても、【ゼロフレーム】を使えるようにはならないだろう。
【次元跳躍】復活の時を考えると、右手を取り戻すことで、蘇るスキルは【見えざる手】だと予想ができる。
そのことに気が付いた聖也たちは、豪にジークの持つスキルを聞いてから、この作戦を計画した。
膠着状態に陥った豪から、連絡を受けた時、指示したのは次のようなことだ。
「ゼロムの薙刀を【見えざる手】で引き寄せて、尻尾の切断を狙う。ジークじゃなくて、宝箱の中の召喚士を人質に取ろう。右斜め上。僕の現在地と、尻尾の延長線上に薙刀を投げてくれ」
「直接狙っちゃダメなのか?」
「単体の遠距離攻撃は【隔娄界門】で防がれる。だから、豪たちも同時に攻撃して、【隔娄界門】を豪たちに使わせてほしい。……ゼロムに投げるのをミスった子芝居させてさ」
「あ~、なるほど。あとは任せろや」
作戦の全貌を理解した豪は、聖也との通信を自ら切った。
【隔娄界門】の発生は二つまでしかできない。自分たちの狙いが、那由多とゼロム、そして自身を含めた3点同時攻撃に見せかける。
自分が【隔娄界門】が2つまでしか生み出せない事実を突き付けた後だ。同時攻撃すれば、ジークも自分たちの狙いがそれだと勘違いするだろう。
そんな中、ゼロムが暴投する振りをすることで、偶然にも【隔娄界門】で自身への攻撃全てを跳ね返せるようになったジークは、回避行動ではなく、【隔娄界門】を使って、豪たちの攻撃を反射する。
散々煮え湯を飲まされたジークだ。自分たちの攻撃で自滅しているところを、馬鹿にしたいはずだ。
心の底ではゼロムを見下したいこと。他人の強さを認めるよりも、自身のプライドの保護を優先するであろうジークは、ゼロムの暴投が演技であることなど考えもしない。
ビームライフルではなく、【弱体化】の魔法でジークを狙ったのは、跳ね返ってきた攻撃をわざと喰らうことで、ゼロムの大根芝居を誤魔化すためだ。反射される前提で、那由多と自分にとって致命傷にならない攻撃を選択していたわけだ。
ジークが聖也みたいな性格だったら、こんな作戦すぐにばれるんだろうなあ。
まあでも、人を散々馬鹿にしてきた奴が、最後に自分の性格にとどめを刺されるってのは、皮肉がきいてていいもんだ。
豪はゼロムと那由多に、簡潔に作戦を伝え、自らを捨て駒として、聖也の作戦を実行したのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「これでチェックメイトだ、ジーク‼」
リウラの元へ引き寄せられる、ジークの召喚士が入った宝箱。
中に入っているのは、カードを使えないただの人間である雄人だ。
雄人の死=ジークの死。雄人の身柄さえ確保してしまえば、あとはどうとでもなる。
聖也たちが勝利を確信していたところ――
「馬鹿がぁ‼ それで勝ったつもりか⁉」
屋上から聖也たちに向かって、ジークが叫んだ。
「こうすれば宝箱はいつでも回収できんだよ‼」
「「え⁈」」
ジークが引き寄せられる宝箱の前に【隔娄界門】を発生させる。
「おい待てジーク!」
ジークの手元に発生した【隔娄界門】を見て、豪が慌てて声をかけた。
「待つか馬鹿共!」
「違う! そのスキルは――」
豪が制するも、時すでに遅し。
宝箱は勢いよく【隔娄界門】を通ってジークの手元に回収され――
「――え?」
中に入っていた雄人は、【隔娄界門】をそのまま透過した。
「「「「「「「「「あ」」」」」」」」」
自分のしでかしたことに気が付いたジークが、同じく事の顛末に気が付いた一同と共に、間抜けな声を漏らした。
ジークたちの視界の外。マンションの屋上から離れた地上の方から、何かが叩きつけられたような音がした。
以前ジークは、【隔娄界門】についてこう語っていた。
生物以外ならなんでも通す【隔娄界門】。
そう。宝箱は回収できるが、中の生物――人間の雄人は【隔娄界門】を通ることはできない。
【隔娄界門】で雄人は回収されないからこそ、決行した作戦だった。
だが、自分の召喚士を軽く見るあまり、当のジーク本人が、そのことに気が付いていなかったようだ。
「……グロ画像だこれ」
地上で雄人が勢いよく、屋上部分から叩きつけられる様を見た聖也は、気分が悪そうに壁に手をかけ、腰を落としていた。
「……ああそうか。そうなるのか」
一方のジークも、雄人がゲームオーバーになったことで、その体が光となって消滅し始める。
「……まあいいか! 俺様ライフ3だし! 授業料ってことで!」
自身の召喚士を殺したことに悪びれる様子もなく、ケロッとした顔で、開き直りを始めた。
「ペロッ、これが敗北の味……! じゃあなお前ら、また狙いに来るぜ~。今度は油断しないからな~。ギャハハハ! あでぃお~す」
自分のミスで敗北したというのに、陽気な声で、悠々と手を振って消滅するジーク。
そんな様子を、何が起こったのかわからないといった表情で、豪たちは眺めていた。
「……勝ったんだよね? 私たち」
「……一応」
結の呆然とした声に、同じく呆然とした声で豪が返事をする。
そして、少しの間をおいてから、
「「「「「はあ~~~~~~~………………」」」」」
当のジークがあの様子だったからか、勝利して真っ先に襲ってきたのは、達成感ではなく疲労感。
予想外の結末で、戦闘の緊張から解放された一同は、くたびれた様子で、その場で体を崩した。
「もう二度と戦いたくねえ……」
豪がなんとなしに呟いた言葉に、全員疲れた様子で相槌を打つのだった。