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サモナーズロード ~召喚士の王~  作者: 糸音
GAME4 最悪の魔人とゼロスキルの戦士
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最強最悪の魔人

 

「接近戦、したかったんですよね? もうちょっと頑張ってくださいよお!」

「グッ……! クソが……!」


 必殺技スキルによって、巨大な化け物に変貌を遂げたジーク。

 宝石を纏った巨大な拳から繰り出される一撃は、防御が得意なはずのアーサーに、ガードの上からでもダメージを与えている。

 アーサーが盾で攻撃を受ける度に、大きな衝撃波が空気を揺らす。動きは鈍重だが、攻撃力だけでみれば、全身が復活したリウラに匹敵するほどの攻撃力だ。


 アーサーが攻撃を引き付けている間に、ゼロムが素早い動きで懐に潜り、ジークへ何度も斬撃を浴びせるが――


「あ~すいません。もうちょっと強めにマッサージしてもらえます?」


 ジークの宝石に鎧に弾かれて、薙刀が乾いた音を立てながら弾かれるばかりだ。

 ゼロムも素手で、岩の壁を砕ける程度には肉体が成長しているはずなのだが、ジークの体に少しもダメージも与えることができない。ゼロムが弱いのではなく、ジークの防御能力が高すぎる。


「【隔娄界門(ヘルゲイト)】警戒しろ! お前ら!」


 豪の指示で、アーサーとゼロムは、ジークから距離をとる。

 豪が一枚のカードをスキャンすると、豪の手に黒いエネルギーが収束し、複数の光の球となって、ジークへ解き放たれた。


「【弱体化(ダウン)】‼」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


【魔法・弱体化(ダウン)】×4……カウント8。命中した者のステータスを半分にする光の球を放つ。……LR


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 肉体性能が高すぎるなら、下げてしまえばいい。

 だが、あくまで【弱体化(ダウン)】は飛び道具。ジークの【隔娄界門(ヘルゲイト)】で軌道を逸らされる可能性がある。

 全員が自分の周囲に発生するであろう【隔娄界門(ヘルゲイト)】に備える中、ジークはニヤニヤと笑い、


「フンッ」


 自分の肉体を見せびらかすように、マッスルポーズをとると、宝石の鎧に触れた黒い光の球が、音を立てて弾かれてしまった。


「「「なっ⁈」」」

「ギャーッハッハッハッハ! 無駄無駄無駄ぁ! 【魔鎧鉱人(アマダイト)】の鎧は、どんな魔法攻撃も弾き返す! ちゃんと肉弾戦で戦ってくださいね~」

「肉弾戦で戦えって言っても……!」


 ここにいる全員、誰もジークの防御力を越えられない。

 余りに詰んでいる現状に、那由多が途中で言葉を切ってしまった。


「……マダ、オワッテナイ!」


 ゼロムが勢い良く助走をつけて、体全体を大きく回転させながら、薙刀をジークに向かって振り下ろす。

 そして【次元跳躍(ディメンジョンリープ)】を使って、ジークの背後に回り込み――


「おっ」


 ゼロムの体重と、回転による勢いを乗せた渾身の一撃で、ジークの宝石の鎧が、ほんの少しだけ欠けた。


「……この鎧に傷をつけたのは、この世界だと、お前が初めてだぜ」

「モウイッカイダ!」


 すぐさま先ほどと同じ要領で、ジークにとびかかるゼロム。

 迫りくるゼロムを、小馬鹿にするような笑みを浮かべながら、ジークは両手を広げて、ここを狙ってみろと言わんばかりのポーズをとる。


「雑魚君の成長をお祝いしてやらなきゃなあ! 祝砲だ祝砲!」


 ゼロムの薙刀が、鎧に触れる寸前、宝石の鎧が突然、赤く光りだし――


「【爆破鎧鉱石(ガイナマイト)】ォ‼」


 宝石の鎧が巨大な爆発を起こし、辺り一帯に、強大な衝撃波をまき散らす。


「……ガッ!」

「ゼロム!」


 屋上のフェンスに叩きつけられ、動けなくなったゼロムに豪が駆け寄った。


「爆発する鎧……⁈」


 遠距離の魔法や飛び道具を封殺する【魔鎧鉱人(アマダイト)】に【隔娄界門(ヘルゲイト)】。

 かといって近距離戦を仕掛けても、生半可な攻撃では宝石の鎧に傷一つ付けられないし、【爆破鎧鉱石(ガイナマイト)】による全方位攻撃のカウンターが待っている。


 どうやって倒すんだ。コイツ。


 あまりに勝ち目のない状況に、皆の頭が真っ白になる。


「皆! こっちに来て!」


 結の言葉で、皆が我に返り、結の元へと駆け寄った。

 結が【転移】のカードを3枚取り出し、スキャンの準備をする。


 もしもジークに勝てそうになかった場合、【転移】のカードを使って逃げること。


 聖也はいざというとき、逃げるかどうかの判断を、結に任せていた。

 相性が悪いせいもあるが、この場にラクナと紬がいないのは、【転移】のカードが3枚しかないからだ。転移の魔方陣は、召喚士とその契約戦士(チャンピオン)、一組だけしか入れない。人数分の魔方陣を用意できないため、近接戦闘に強い、ゼロムとアーサーが同行することになった。


 ゼロムの攻撃が通じない以上、これ以上の戦闘は危険。

 そう判断した結が、カードをスキャンしようとするが――


「なんかいいものもってそうじゃん?」


 ジークが結の背後に【隔娄界門(ヘルゲイト)】を発生させ、渦の位置をすらして、結の体を潜らせる。


「え……? ああ⁈」


 結の手元から【転移】のカードが消失し、ジークの手元に発生した、もう一つの【隔娄界門(ヘルゲイト)】から、転移のカードが吐き出された。


「逃げちゃだめよ~。もっと遊ぼうぜ~」


 出現位置だけでなく、渦の現在地も調節可能。

 最後の逃走手段を奪われた結の顔が、みるみるうちに絶望の色に染まった。


「生物以外ならなんでも通す【隔娄界門(ヘルゲイト)】! 俺様にかかれば、こんなクレバーな使い方もできるのよね。……かかってこないなら、こっちからかかっていきますかあ!」


 手も足も出せなくなった一同を見て、ジークが自分の拳で、自分の鎧の一部を砕いた。

 ゼロムが渾身の一撃で、ようやく一欠片傷をつけるのが精いっぱいだった鎧。

 それを柔い砂糖菓子のように軽く砕き、その欠片を拾い上げ、結たちに向かって放り投げた。


「【爆破鎧鉱石(ガイナマイト)】」


 まさか、砕けた鎧片も手榴弾のように使えるのか。


 危険を察知したアーサーが、皆の前に立ち、盾を構えるが、


「【増素界門(マスゲイト)】」


 投げ込まれた鎧片が、物質の数を10倍にする渦――【増素界門(マスゲイト)】を潜り、その数を10倍に増やす。


「っ⁉ アーサー‼」


 普通のスキルじゃ、この攻撃を防ぐのは無理だ。

 そう判断した那由多が、反射的に必殺技(アルティメット)カードをスキャンした。


必殺技(アルティメット)――』


 スキャナーのアナウンスとほぼ同時、屋上一帯を吹き飛ばしかねないほどの大爆発が発生した。


「皆、大丈夫⁈」

「なんとか……」


 どんな攻撃でも一度は無効化し、その2倍の攻撃力を、次の槍の一撃に乗せるアーサーの必殺技(アルティメット)――【萬流転槍(ばんりゅうてんそう)】。

 強大な爆発の2倍のエネルギーがアーサーの槍にチャージされ、その穂先がギラギラと虹の輝きを放つ。


「アーサー!」

「わかってる!」


 この攻撃が、ジークを討ち果たせる唯一のチャンス。

 アーサーがジークに向かって駆けだすが、


「【隔娄界門(ヘルゲイト)】」

「――っ⁈ あ……」


 ジークが突如として、アーサーの目の前に発生させた【隔娄界門(ヘルゲイト)】。

 その渦を潜ってしまったアーサーの手から、槍と盾が奪われた。


 那由多たちの前に発生した、もう一方の【隔娄界門(ヘルゲイト)】から吐き出された盾と槍が、空しい音を立てて床を跳ねる。


「はい、残念賞! 出直してきなぁ‼」


 実質的な、武器奪いスキル。結がやられたときと同様だ。

 武器を奪われたアーサーに、ジークの拳が叩き込まれ、その攻撃をまともに喰らってしまったアーサーは、那由多たちの元へ吹っ飛ばされた。


「アーサー……!」

「……!」


 那由多が心配そうに駆け寄るも、アーサーはもう返事をすることもできない。

 ゼロムも立つのが精いっぱいの状態だ。


「皆! 状況は……」


 そして、足を引きずりながら、階段を上ってきた聖也が、状況を見て絶句する。


「お、ようやくヒーロー登場ってか?」


 近接が弱いと思われていたはずの、巨大化したジーク。

 もうまともに動けない、戦闘の要であるはずのアーサーとゼロム。

 ジークの足元に捨てられた【転移】のカード。

 何よりも、那由多や結の絶望しきった表情。


「どうみても詰んでるけど……どうする? 頑張ってみる?」


 自分たちの計画が、完全に崩れ去ったことを察した聖也とリウラは、言葉を失ったまま、目の前に広がる最悪の光景を眺めていた。


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