作戦成功。そしてイレギュラー
『相変わらず避けるのうまいねえ!』
聖也の周囲に不規則に【|隔娄界門《ヘルゲイト》】を発生させながら、透過弾と追尾弾を織り交ぜて、聖也を狙う。
なんとか銃弾を躱せているのはヴァルビーの索敵によって、【隔娄界門】の出現位置を把握できるおかげだ。
【隔娄界門】は便利なスキルだが、決して発生が早いわけではない。出現位置さえわかってしまえば、射線の予測がついて、ギリギリだが銃弾を躱すことができる。
そして、ある程度距離を詰めたところで――
「がっ⁈」
背後から撃ち込まれた銃弾に、聖也の右足が撃ち抜かれた。
足を撃ち抜かれたことでバランスを崩し、聖也は目の前の地面に転がるようにして倒れこむ。
バカな。常にマップは警戒していたはずだ。【隔娄界門】の発生情報なんてマップには――
聖也がなんとか後ろを向くと、そこにはジークの【隔娄界門】が発生していた。
『オーケー。この距離が索敵限界ね』
まさか、不規則に【隔娄界門】を発生させる振りして、ヴァルビーの索敵距離の限界を測っていた?!
敵の策のはまったことを悔やみながら、聖也はリウラの契約戦士カードをスキャンして、リウラを召喚する。
「リウラ! こい!」
目の前に発生した魔方陣から、頭と足だけの姿のリウラが召喚される。
「大丈夫か⁈」
「なんとか! それよりも【次元跳躍】を!」
足を撃たれたことで、もう通常の銃弾すら回避することはできないだろう。
それでも、なんとか目的地――【次元跳躍】の使用距離までたどり着くことはできた。
『そこから、屋上までは届かないだろ?』
雄人の言う通り、今の聖也たちの位置からは、雄人たちのいる建物の屋上へワープすることはできない。
だが、建物の一階部分になら、ワープすることができる。
「【次元跳躍】‼」
聖也に触れながら、リウラはジークたちのいる、建物の一階部分――マンションのエントランス部分へワープする。
『……そこ、安全じゃないけど』
「知ってるよ‼」
そして、ワープしてすぐに、聖也は一枚のカードをスキャンした。
「潰れろ! 建物ごと!」
聖也がスキャンしたのは、【剣・巨人殺しの大剣】のカード。
建物の屋上部分に、全長50mの巨大な剣を呼び出す魔方陣が出現する。
「ヤバいってこれ! 潰されちゃうよ!」
「なるほど。道ずれ狙いね」
自分に向かって落下してくる巨大な剣に雄人が慌てる一方、ジークは聖也の狙いを冷静に分析し、鼻をほじる。
「それは甘いんじゃねえの⁈」
ジークが大きく手を広げると、ジークたちの目の前に、剣を吸い込むほどの、巨大な【隔娄界門】が発生した。
【隔娄界門】に飲み込まれた巨大な剣は、はるか遠くに出現したもう一つの【隔娄界門】に落下地点を移されて、遠方のエリアで、強大な衝撃波が発生した。
「アイデアは良かったがなあ! それじゃあ俺は倒せ――」
「グアッ?!」
「ああん?!」
ジークが策を打ち破った愉悦に浸っていた隣で、雄人の悲鳴が聞こえ、反射的に声の方へと振り返る。
「ジーク。これ……」
雄人が自分のスキャナーを指差すと、そこにはスキャナーの使用を封じる、灰色のエネルギーがまとわりついていた。
スキャナーの効果を封じられたことにより、透視スコープ、オールレンジライフルといった装備品が光になって消滅する。
「なんで君たちそこにいるのさぁ⁈」
メインデッキのカードの使用、効果を封じる【沈黙の矢】。
その矢が放たれた方向を振り返ると、そこには豪、那由多、結の3人が、してやったり、といった表情を浮かべて、立っていた。
「……最初からいたぜ、俺たちは」
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「あらかじめ、敵の狙撃場所に待ち伏せておく?」
ジーク討伐の作戦会議でのことだ。聖也のアイデアに、結が疑問の声を上げる。
「敵の出現位置なんて、事前に予測できるの?」
「うん。特に理由がない限り、敵はまた、あの住宅街エリアで、一番高い建物である、高層マンション屋上に現れる」
あくまで仮定の話だけど、と前置きしてから聖也は続けた。
「エリア全体を見渡せるから、オールレンジライフルの射程が活かせるし、リウラの【次元跳躍】を対策するなら、高さっていう距離を稼げるあの建物が一番なんだ。地上から屋上にワープするためには、建物の足元近くまで、接近しなければいけなくなるからね。僕が事前に建物の付近で待ち構えていない限り、十中八九、敵はあの建物の屋上に現れる」
聖也の考察に納得したように、全員が頷いた。
「敵はジークの召喚カウントを溜めてから、【ブックマーク】で屋上に現れるはずだ。事前に建物の屋上で、結の【ステルス】を使って待機して置いて、隙を見て豪の【沈黙の矢】を打ち込むんだ」
「現れてすぐじゃ、ダメなのか」
「いや、現れてすぐは止めた方がいい」
豪の提案に、聖也は首を振った。
「……多分だけど、あいつ空間探知能力が凄いんだよ。どんな離れた距離でも、正確に、射線まで計算して【隔娄界門】を発生させられる。【沈黙の矢】もカードをスキャンして、弓を引くモーションの都合上、余程の隙を生まないと、敵に気付かれて対策されてしまう。……だから僕が敵の隙を作る」
「どうやって?」
「敵の真下にワープして、【剣・巨人殺しの大剣】のカードを使う。これであいつは剣に対して【隔娄界門】を使うはずだ」
「【隔娄界門】で対抗せずに、【ブックマーク】でその場から離れる可能性は?」
那由多の疑問に、「それは大丈夫」と聖也が返す。
「召喚士が両手でライフルを握っている都合上、カードをすぐにスキャンはできないはずだ。敵も屋上へのワープは警戒しても、真下の階へのワープは警戒しない。屋上へ直接ワープできる距離にならない限り、【ブックマーク】は用意しないよ。ジーク、舐めプ好きだから、ギリギリまで引き付けて僕をあざ笑ってくると思うし。切り札の剣は、【隔娄界門】で対処できるしね」
「なるほどね」
「豪。あいつ、僕の剣を防いだら、相当調子に乗ると思うからさ――」
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その調子乗ってるところに、ぶちかましてやれよ。【沈黙の矢】。
驚いた顔でこちらを向くジークたちを見て、豪が大胆不敵に笑った。
「ああ⁈ てめえら、あいつ見捨てて逃げたんじゃねえのかよ⁈」
「逃げるか馬鹿が! テメエに仕返しに来てやったんだよ‼ こい、ゼロム‼」
「来なさい! アーサー‼」
豪と那由多が、立て続けに自分の契約戦士カードをスキャンすると、発生した魔方陣から、ゼロムとアーサーが飛び出した。
「セツジョクセンダ、カスドモ‼」
「たっぷり借りを返すとしますかあ!」
ゼロムもアーサーも、前回の戦闘ではジークのスキルにやられっぱなしだった。相当鬱憤が溜まっているだろう。
「おいおい、こんなか弱い俺様に2VS1は卑怯だろ⁈」
勢いよく迫りくるゼロムたちに慄くジーク。
やっぱりコイツ、接近してしまえば雑魚だ。
その様子を見て、誰もが勝利を確信した時だった。
「……なんちゃってなあ‼ 雄人ぉ、必殺技だ‼」
「は、はいぃ‼」
ジークが叫ぶと同時、雄人がスキャナーから必殺技カードを取り出して、スキャンする。
『必殺技――』
「グアッ?!」
「っ⁈」
アナウンスと共に、突然発生した強大なエネルギーに、ゼロムとアーサーが吹っ飛ばされる。
その背後で待機していた結たちも、ジークを中心に発生する衝撃波に吹き飛ばされないよう、必死に屋上のフェンスにしがみついていた。
「【魔鎧鉱人】……‼」
そして、エネルギーに堪えながらジークを見やった一同は、言葉を失ってしまう。
雄人の肩に乗るようなサイズだったジークの体が、みるみるうちに巨大化していき、全長20mほどの巨大なバケモノに変貌した。
そして、宝箱から上半身を切り離すと、胴体が伸び、伸びた胴体からサソリのような足が生え、ケンタウロスのような姿に変化する。
体にまとわりついたブラックダイヤのような宝石が、体を守る鎧のように成長し、ジークの体をを包み込む。
変貌を終えたジークは、ニヤニヤと雄人に目をやると、
「はぁい、カードを使えない雄人君は、ちょっと引っ込んでいてね♡」
「え、ちょ、ジーク?! 何すんのってうわあああああああああああ⁈」
雄人の体をひょいと摘み上げ、宝箱の中に閉じ込めた。
そして宝箱を、サソリのような尾の先に着いたアームで掴み上げ、邪悪な笑みを浮かべて、アーサーたちへと向かい直る。
「その顔さあ、もしかして近づいてしまえば、なんとかなると思ってた?」
目の前に突如として現れた、圧倒的スケールの宝石の怪物。
結も、那由多も、豪も。アーサーやゼロムでさえも、ジークが発する圧倒的なオーラに委縮し、絶望した表情で固まったままだった。
「残念ながら、こっちが本当の姿なんだよなあ! 近接もツヨツヨのジーク様が、遊んでやろうじゃねえの⁈」