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サモナーズロード ~召喚士の王~  作者: 糸音
GAME4 最悪の魔人とゼロスキルの戦士
59/95

今は誰かの金魚の糞

 

「何あんた。もうデレたの?」

「まだデレてねえよ」


 聖也の後に着いてきた豪を見て、紬が開口一番に毒を吐いた。

 まだとか言ってしまうあたり、陥落は近いだろうと、結がそのやりとりをニコニコと眺める。


「まあ、これで気兼ねなく、ゼロムの修行に取り組めそうね」


 那由多の言葉に聖也が頷くと、特訓を再開する。


「……甘い!」

「アバババ!」


 そして、特訓再開してからというもの、ゼロムはまだ一撃も聖也に当てられていない。


「【次元跳躍(ディメンジョンリープ)】を使おうとして、動きを止めるな! モーションの途中でワープできるから【次元跳躍(ディメンジョンリープ)】は強いんだ! 今からワープすると分かっている敵なんか脅威じゃないぞ!」

「……モウイッカイダ、ヒョロガリ!」


 だが、何度やられてもゼロムは立ち上がる。付き合う聖也も相当だが、やられても必ず立ち上がるゼロムも根気がある。

 聖也たちが特訓に勤しむ間、他の者は、ジーク討伐の作戦会議だ。


「ぶっちゃけ、ジーク召喚前に、召喚士を倒しちゃうのはどう?」


 紬の提案に、那由多が「無理じゃない?」と厳しい顔をする。


「どうして? あいつが狙撃しやすそうな場所に待ち伏せておいて、数人がかりでボコればいいんじゃない?」

「ジーク召喚までに、狙撃ポイントにいる必要がないのよ。それに【ブックマーク】ってカードを持ってるんでしょ? それと【隔娄界門(ヘルゲイト)】ってスキルを組み合わせれば……」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


【魔法・ブックマーク】……カウント5。AとB、2枚で1枚のカード。事前にAカードを置いた地点にワープできる。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 本来であれば、ワープ地点に事前にカードを置いておかなければならないため、結の持つ【転移】のカードや、リウラの【次元跳躍(ディメンジョンリープ)】に比べると、使いにくいワープ手段。

 だが、空間をつなぐ【隔娄界門(ヘルゲイト)】が組み合わされば――


「あいつどこでもワープし放題ってこと⁈」


隔娄界門(ヘルゲイト)】でワープしたい場所へ、Aカードを放り込むことで、実質どこでもワープと化す。

 消耗品であるはずのカードも、もう一つの物質を持つスキル――【増素界門(マスゲイト)】によって、無制限に使い放題。

 つまり、ジークたちはわざわざ狙撃ポイントに顔を出す必要はない。

 そのとき一番適した狙撃スポットに、()()()でいつでも現れることができる。


「それに、エリア外の謎の集団とグルの可能性もある。ジークのカウントが溜まるまで、あいつら仲間の下で悠々と隠れて過ごせるわ」


 ジークたちを倒すには、ジークが召喚された状況下で打ち破るほかないというわけだ。

 しかし、ジーク召喚を許してしまえば、無限ワープで距離をとられながら、オールレンジライフルによる無限射程を押し付けられてしまう。


「何よあのクソチート野郎! まともに勝負すらできないじゃない⁈」

「どうやって勝負の場に引きずり込むかがカギだね」


 結が課題を纏めると、全員がその場で低く唸った。

 真っ先に思い付くのは、メインデッキのカードを封じる、豪のもつ【大魔法・沈黙の矢(サイレンスアロー)】のカードだが――


「普通に狙っても、【隔娄界門(ヘルゲイト)】で逆に利用されるぜ」

「経験者は語る」

「うるせえクソメガネ」


 下手な遠隔攻撃は【隔娄界門(ヘルゲイト)】で軌道をずらされて、味方に跳ね返される。

 紬に突っ込みながらも、苦い記憶に豪が唇を噛んだ。


「近づけてしまえば、俺でも何とかなりそうなんだが……」


 厄介なスキルを持つものの、ジークのサイズは成人男性の頭の大きさぐらいしかない。

 カウントの差はあるが、近づけてさえしまえば近接最強クラスのアーサーの戦闘力が生きる可能性がある。


「過信は禁物ですよ。敵は必殺技を含む、残り2つのスキルをまだ隠しています」


 ラクナが釘を刺しながらも、「……まあ、流石にあの手のスキルを持つ者が、近接も最強クラスとは考えにくいですが」と、遠回しにアーサーの考えを後押しした。


 ジーク討伐の条件は、【隔娄界門(ヘルゲイト)】をどうにか封じた上で、【大魔法・沈黙の矢(サイレンスアロー)】を当てて逃亡を封じ、近接戦闘で叩きつぶす。ということで纏まった。


「聖也の意見が欲しいところだね」

「……聖也君、過労死しない?」

「「「「……」」」」


 とはいえ、聖也の力を借りないのはもったいない。

 ごめん、と心の中で謝りながらも、那由多たちは遠目で聖也たちの特訓を見守った。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 そして、特訓5日目。


「身体能力に甘えるな! ちゃんと考えて動け‼」

「……!」


 ゼロムの身体能力は、当初の10倍くらいには上がった。

 薙刀でコンクリート製の壁を砕けるくらいにはパワーも上がり、聖也の2倍くらいには敏捷性もある。

 加え、3mくらいの単距離間なら、【次元跳躍(ディメンジョンリープ)】によるワープも安定してきた。

 連続した攻撃の間に、視覚外へワープし、不意打ちを狙う。


 それでもゼロムは聖也に攻撃を当てられないでいた。


「またワープ先に重心がずれてる!」


 頭を狙った横なぎをしゃがんで躱しながら、聖也が叱る。


「攻撃する場所を目で見るの止めろ! 視覚外にワープしようが狙う場所が分かれば意味がないって言ってるだろ!」

「グググ……!」


 一向に攻撃を当てられないフラストレーションから、攻撃が乱雑になる。

 そして、乱舞の途中で聖也がバランスを崩し、転びそうになる。

 それを好機と見たゼロムが、薙刀を横に振るって攻撃するが――


「ガッ⁈」


 聖也はそのまま勢いよく後ろに倒れ込みながら攻撃を回避し、持っていた感電警棒(スタンロッド)をゼロムの顔面に向かって投げつけた。


「今、何も考えてなかっただろ」


 顔を抑えるゼロムに、聖也が起き上がりながら続けた。


「戦闘中に叱る余裕がある相手が、隙をさらすわけないだろ。何となく隙が生まれた。チャンス。それ以外の事、考えてたか? 考えてたなら説明してみろよ」

「……」

「答えられないだろ。それが適当だって言うんだよ。生まれた隙がブラフである可能性は? 攻撃が避けられたときのことは考えたか? 無数の可能性を意識するんだ。何となくで戦うな。勝利に、敗北に。一挙一動に理由が説明できるようになれ。それができなきゃ、僕には一撃も当てられないぞ」

「……モウイッカイ‼」


 余裕があるなら優しい言葉を選ぶのだが、如何せん時間がない上に、負けず嫌いのゼロムには、飴より鞭を与えた方が効率的だ。

 悔しさで体を震わせながらも、ゼロムはもう一度と、薙刀を構える。

 そんな様子を見ながら、豪が重い溜息を吐いた。


「あら、なんかナイーブね」

「……んだよ、クソメガネ」

「ご挨拶ね。クソガキ」


 罵声に罵声で返しながら、肩を丸めて座る豪の隣に、紬は腰を下ろした。


(いん)の者のよしみで、愚痴ぐらい聞いてやるわよ」

「何だよ(いん)の者って。勝手に陰キャにすんなや」


 紬に悪態で返しながらも、聖也の様子を見ている内に、自分の中に様々な思いが溜まっていたのも事実。

 聖也はもとより、結にはカッコ悪いとこは見せられないし、那由多も今の自分には眩しすぎる。リウラ、アーサー、ラクナといった異世界の人外共はもってのほかだ。


 弱音の吐き先としては、悪くないか。

 何となくそう思った豪は、紬の目は見ず、独り言のように語りだす。


「……適当に生きてたんだなって、思っただけだ」


 豪の言葉を、紬も黙った聞いた。


「何となくで生きてたんだよ。家族みたいになろうとか思ってるくせに、そのらしさってのを言語化できねえ。人の辿った道を、何となく辿っていけば、同じくらい特別な存在になれると思ってた」


 勉強ができるようになろうとした時に、教科書に書いてある以上のことをやったかな。

 サッカーをうまくなろうと思った時に、兄貴がやった練習をやみくもにする以上の何かしてたかな。

 他人の通った道を通ったのは、いつか自分の人生を踏み外した時の、言い訳にするつもりじゃなかったかな。


 急速に成長するゼロム。それを正しく導ける聖也。

 その二人を見て、自分の努力が無意味だったんじゃないかと、空虚な思いに襲われている。


「正直さ、この先どうしていいかわからねえんだよ。自分の人生も、ゲームのことも。弱さに気が付いてもさ、結局今の俺は、聖也の辿る道に着いて行ってるだけだ。前と同じことを繰り返してる」


 強がって、協力してやるなんて言ったものの、本音はどうしていいかもわからないから、その答えを持っていそうな聖也についていきたかっただけだ。

 結局自分は、自分の方針を、自分ではない誰かに縋っている。


 肩を落とす豪を横目で見て、紬はわざとらしく大きく息を吐いた。


「いいんじゃないの? 適当で」

「はあ?」


 適当じゃダメだったから悩んでるだろ。

 自分がどんな言葉を欲していたかはわからないけど、この言葉じゃないのだけはわかる。

 不満そうに睨む豪を、ヤレヤレと手であしらいながら、紬は続けた。


「別に私、あいつらみたいに先のこと考えてないわよ。あんたが聖也君の金魚の糞してるように、私も那由多の金魚の糞してるだけ。ウンコ仲間ね。私たち」

「最悪な同盟だな」

「自分の弱さに気が付いてる分、根拠のない自信に溺れてるだけの、ウンコ共よりマシなんじゃないの?」

「口悪すぎかよ。あんた友達いないだろ」

「おあいにく様。那由多と出会うまで友達ゼロ。……そんな私でもね」


 おどけた態度から一変して、紬は気恥ずかしそうに、小さな声で呟いた。


「皆といれば、何かを見つけられる気がしてる」


 今、誰か――凄い人の跡を辿るのは、いつか自分の強さを見つける為。

 紬の言葉の真意に気が付いて、豪は目を丸くして紬を見つめた。


「焦りすぎなんじゃないの、あんた。……お互い、出来た友達持つと苦労するわね」


 紬はわざとらしく、音を立てて制服のスカートのほこりを掃いながら立ち上がった。


「……慰めたかったなら素直にそう言えや。クソメガネ」

「……それができないから、陰キャなのよ、私」


 感謝してるなら、クソメガネって呼ぶのやめろ。

 自虐じみた笑みを浮かべながら、その場を去ろうとする紬を、「待てや」と呼び止める。


「……ツムツムってのはどうだ」

「某パズルアプリじゃねえんだぞ、私は」


 まあ、クソメガネよりは愛嬌がある。

 紬が背を向けながら手を振って去ると、豪は聖也たちの特訓の様子を真っすぐと見つめた。


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