仲間にはならない。が――
「「あのさ……」」
二人同時に会話を切り出してしまい、二人は慌てて言葉を引っ込めた。
「先言えよ」
豪が発言権を譲り、「それじゃあ……」と聖也が口を開く。
謝りたいこと、と言っても、大方予想はついている。
豪は気まずそうに、上目遣いで自分の様子をうかがってくる聖也を、横目で見ながら言葉を待った。
「ボコボコにしてごめん」
「謝る気あんのかお前」
もうちょっと言葉を選べや。言葉を。
殴ってごめんとか、怪我をさせてごめんとか他にあったろう。なんだボコボコって。ボコボコって。
自分の惨めさを引き立てるようなワードに、思わず豪が嚙みついた。
「しょうがないだろ! 殴ったのは悪いと思ってるけど、僕はお前の事許したわけじゃないぞ!」
「ああ⁈ どういう意味だてめえ?!」
「僕のことを悪く言うのは構わないけど、僕の大切な人を引き合いに出すのは違うだろ‼」
正論を突き付けられ、「ぐ……!」と豪が怯む。
「……謝るから、謝れよ……‼」
なんでお前がちょっと泣きそうになってんだ。
ムキになって拳を震わせながら、唇をかみしめる聖也に、豪は弱弱しい声で「ごめん」と言った。
少し間をおいてから、聖也も「こっちもごめん」と返す。
聖也の気が収まったのか、顔を上げたところで、「だがなあ!」と豪が指を突き付けた。
「両親死んでるなら最初から言えや! お前が誰にも言わねえから、クソ見てえな暴言を吐くハメになったんじゃねえか! 予め知っていたら、こっちだって言葉選んで暴言吐いたわ!」
「そもそも暴言吐くなよ⁈」
「うるせえ! 少しは吐かせろ‼」
無茶苦茶な返答に、聖也は呆れながらも、「言えるわけないだろ」とボソボソと続ける。
「……自分の親を殺したなんて、言えるわけないだろ」
「……そりゃ結果論だろうが」
「それでも結果は結果だ。……事実が変わるわけじゃない」
ああそうか。と豪は心の中で相槌を打った。
両親が死んだ事故はただのトラウマじゃない。聖也にとっては、一生消えない罪の十字架だったんだ。
他人に話すことも、自分で口にして思い返すことも怖かったんだろう。
もしも自分が同じ立場だった時のことを考えれば、胸が刺されたように痛む。
「……それでも言えよ」
棘を含みながらも、少しだけ温かさのこもったトーンの言葉に、聖也が思わず顔を上げる。
「お前……周りから、金がないだけの裕福なヤツだと思われてるぞ」
「……そっか」
豪の言葉で、周囲のイメージが、自分の思っていたものよりもズレていたことに気が付いて、聖也が小さく頷いた。
「それは、嫌だな」
「だろうが」
互いに、取り敢えず言いたいことを言い終えたのか、二人は黙ったまま何も言わなくなった。小さな環境音が鮮明に聞こえるほど、静寂とした空気だった。
「……ねえ、この先どうするつもり?」
静寂に耐えかねた聖也が、話題を変える。
「少なくとも、お前の仲間にはならねえ」
「そうか。それは残念」
つれない態度に、聖也は苦笑して息を漏らした。
「……消えるなよ」
「んだそりゃ。 心配してくれんの?」
「当たり前だろ」
ワザとおどけて返した豪に、聖也は真剣な表情で向かい直った。
「仲いいわけじゃないけどさ。消えていい人間じゃないでしょ」
「……」
こういうセリフを真っすぐ吐けるのが、天性の誑したる所以かね。
どこか名残惜しそうに、背を向けて去ろうとする聖也を、「待てや」と豪が呼び止めた。
「テメエはムカつくやつだけど……、あのジークってやつはもっとムカつく」
「……?」
「その、あれだ。……今の敵は、同じってことだ」
何を恥ずかしがっているのか、豪がポケットに手を突っ込みながら、大げさに天を仰ぐ。
「……仲間にはならねえが、協力はしてやってもいい」
キョトンと目を丸くしてから、聖也は嬉しそうに表情を明るくさせて、豪の元へ駆け寄った。
「正直待ってた! その言葉!」
「うるせえバカ。一生待ってろ」
無邪気に手を差し出してくる聖也を、一瞬だけ横目で見てから、豪はめんどくさそうに手を握り返す。
力強い聖也の手に対し、豪はほんの少しだけ手に力を込めて、握手を返したのであった。




