表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サモナーズロード ~召喚士の王~  作者: 糸音
GAME4 最悪の魔人とゼロスキルの戦士
56/95

笑われても貫き通すのが努力

「じゃあ、今日もログイン先で!」


 放課後、聖也は結に手を振って、足早に学校を後にした。

 次の戦いまで、とにかく時間が足りない。一刻でも早く家に帰って、家事を済ませてゼロムの特訓に付き合うつもりなのだろう。


 そんな二人のやり取りを遠目で見つめて、豪はげた箱から靴を取り出す。


 帰りがながら校庭を眺めると、練習に勤しむサッカー部の姿が見えた。

 かつて自分が所属していた部活。

 事あるごとにプロサッカー選手である兄と比較されて、居心地が悪くなって辞めたっけ。


 自分なりに努力はしたつもりだった。兄貴がこなしていた練習メニューを、倍の量やり込んだ。

 それでも兄貴のようになれなくて、同じ道をなぞったせいで、比較の目が激しくなって。


 とどめがサッカー素人であるはずの聖也に、運動交流会でボコボコにされたこと。

 自分の全てを俯瞰して見てくるような、聖也の冷たい目線が、今でも夢に見ることがある。

 少しのプレーで、全ての動きを読み切られて、成す術もなく制圧された。


 その時聖也が、何を考えてプレーしていたのかはわからない。

 ただ、思い知らされた。自分とコイツは同じ次元で生きてはいないのだと。特別な人間とはコイツみたいな奴のことをいうのだと。

 そして、自分はそういう人間になれないのだと。


 誰よりも努力をしている自覚はあった。だからこそ、敗北の味が人一倍苦く感じた。


 そんな物思いにふけりながら、歩いていると――


「アウ……!」


 自分のカバンにしまっていたスキャナーからゼロムが実体化し、スキャナーを取り出し、勝手にログインのボタンを押そうとする。


「止めとけよ……」


 ゼロムがボタンを押そうとする手を、豪が制した。


「聖也から戦い方習うんだろ。聖也の契約戦士(チャンピオン)からスキル習うんだろ。……無意味だよ。特別な奴らのまねごとしたって、そいつらみたいには成れやしないんだよ」

「……?」

「俺がそうだった。特別な存在になりたくて、馬鹿みたいに努力してさ。これっぽっちも実らなかった。結局さ、才能がいるんだよ。何か大きなことを成し遂げるには」

「……」


 豪はゼロムの手を掴みながらも、ゼロムを見ようとはしなかった。目元を伏せて、自分に言い聞かせるように、言葉を吐き続ける。


「どんなに頑張っても、お前じゃまたジークってやつに笑いものにされるだけだ。……だからやめろ。あいつらの時間を使わせるな。……ちゃんと考えようぜ。二人で、身の丈に合ったゲームでの生き残り方を」


 どんなに頑張っても報われなかったこと。頑張っても頑張っても、笑われたり、比較されたりするだけで、時間を浪費しただけだったこと。

 苦い思い出を思い出しながら、つづった言葉は、最後の方には震えていた。


 そんな自分の様子を気の毒に思ったのか、ゼロムが肩に、ポンと手を置いた。


 ……あんだけ酷いこと言ったのに、俺のこと気にかけてくれるんだ。

 

 豪がそう思って、顔を上げたところ――


「バカ……ナノカ?」

「…………ん?」


 突然の罵声に、頭がフリーズする。


 今、誰がしゃべった? バカ……? 馬鹿?

 どこかで聞き覚えのあるような、かすれた謎の声に突如暴言を吐かれ、豪は混乱しながらも、周囲を見渡した。


「バカ、ナノカ?」


 ゼロムに足を力強く蹴られ、ようやく、声の主がゼロムであると認識する。


「はあっ⁈ お前、喋れたのかよ⁈」

「……ナン、カ。シャベレタ」


 確かに、心力(スヴォシア)とかいうエネルギーを摂取できれば、いずれ喋れるようになるとは言っていたが、こんなに早く成長するものなのか。

 だとしても、第一声が馬鹿ってなんだ。馬鹿って。

 一応の主であるはずの、自分への悪態に、しおらしい顔から転じて、眉間にしわを寄せ、ぴくぴくと頬を引きつらせる。


「ヤルキナイナラ、スッコンデロ。イッショウブザマ、サラシテイキテロ、ゴミカス」

「…………」


 言葉を得た瞬間、湯水のごとく溢れ出てくる罵詈雑言に、豪がキレた。


「てめえ‼ 人がしおらしく引き留めてやってんのに、なんだその言い草は‼」

「ソノママ、ウジウジシテロ、ウジムシ……‼」

「……好き放題言いやがって! 凡才は凡才らしく、大人しくしていようって、有難いアドバイスしてやってるってのに!」

「オマエト、イッショニスルナ‼」

「じゃあテメエは、応えられるのか⁈」


 より一層、大きくなった豪の声に、ゼロムが一瞬だけ怯んだ。


「ジークを倒すっていうあいつらの期待に応えられんのか⁈ 頑張れば強くなれる保証がどこにある⁈ 自分の中に才能があるっていう保証は?! 気持ちだけで結果を残せるほど、テメエも俺もできた存在じゃねえだろうが‼」

「キタイモホショウモ、カンケイナイ‼」


 豪の強い語勢に負けじと、ゼロムが声を張り上げて返した。


「カツタメニシュギョウスルンダ……! カテナイナラガンバレナイ、オマエハゴミカスダ……! ナシトゲルイシヨリ、ナセルリユウデウゴク、オマエハオロカモノダ……!」 


 ゼロムの言葉に、今度は豪が返す言葉を失った。

 平手打ちを喰らった気分だった。

 今まで感じていたはずの怒りが、ゼロムの言葉に吹き飛ばされた。

 呆然とする豪に向かって、ゼロムが立て続けに叫ぶ。


「ダレカニワラワレテモ、ツラヌキトオスノガ、ドリョク! タニンノメデシカ、ジブンヲハカレナイ、ゴミカスガオレノジャマヲスルナ‼」


 かすれた声で力強く宣言し、ゼロムは豪の股間を蹴る。


「ガッ⁈」


 痛みで行動の自由を奪われているうちに、ゼロムがスキャナーのログインボタンを押し、許可を得ないままログインする。


 視界が一瞬スパークしたかと思うと、気が付いたときには、聖也たちが待つであろう特訓場所――【召喚都市・昼】に飛ばされていた。


「アバヨ。タマナシ」


 玉を蹴っておいて、タマナシってなんだ。

 豪は痛みに悶えながら、自分に悪態をついて走り去る、ゼロムの背中を見送った。

 小さく、戦士としては頼りないはずのゼロムの背中が、なぜか力強く、大きなものに見えた。


 勝てないなら頑張れない、お前はゴミカスだ。

 成し遂げる意志より、成せる理由で動くお前は愚か者だ。


 ゼロムの言葉が頭をよぎる。


 勝つってなんだ?

 誰かに認められようと頑張ってたのは確かだ。

 でも、誰かって、誰だった?。


 今までの自分の努力を思い出しながらも、何のための努力だったのか、自分でも思い出せない。


 笑われても、貫き通すのが努力。


 ゼロムの言葉が、再び豪の胸を刺す。


 いつから俺は、笑われないためだけの努力をしていたんだろう。

 頑張って無理だからしょうがないだなんて、いつから自分に理由付けをするための努力をしていたんだろう。

 頑張るために頑張っていた。

 だけどそれだけだった。

 いつか自分のためになるかも、なんて都合のいい未来に逃げながら、方向性のない努力に溺れていただけだ。

 実るはずがなかったんだ。自分の中に、ゴールも軸も何も無かったんだから。

 自分の努力の源は、今では顔も思い出せないような他人だった。

 自分はただの見栄っ張りだったんだ。


 そんな思いが胸の中に渦巻いたとき、思い出したのは、結が太陽のような微笑みと共に放った、聖也への言葉。


 ――今の聖也は強いし、かっこいいよ。


 きっと今の聖也にはあるんだ、どんな時でも、自分を支えてくれる、自分の意志が。

 だから、勝てる勝てないじゃなく、ジークに立ち向かうことができる。できる出来ないじゃなく、困難に挑むことができる。


 自分はどうだった? 


「俺、ダサすぎかよ……」


 自然にあふれてきた涙を、拭うことはしなかった。

 よくは分からないけど、今は心から溢れ出る情けなさに向き合っていたかった。

 自分が今まで逃げてきたものに、逃げないでいたかった。


 このまま俺はどうすればいいだろう。


 豪は、もう誰の姿も見えない、ゼロムが通った道へ、ゆっくりと顔を上げる。


 何をしていいかはわからない。

 だけど、何もしないのだけはダメだ。


 カッコ悪くても、ダサくても、変わるためには動かないと。


 行く当てのない豪は、涙を拭って。

 小さな歩幅で、それでも力強い足取りで。

 自分よりも弱くて、ずっと強い戦士――ゼロムの通った道をたどった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ