表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サモナーズロード ~召喚士の王~  作者: 糸音
GAME4 最悪の魔人とゼロスキルの戦士
51/95

決別と弟子入りと

今日も諸事情により、早めの投稿です。

「大丈夫⁈ 聖也、那由多さん⁈」

「……遠くから見てたわよ。ヤバい奴に目ぇつけられたわね」


 聖也たちがログアウトし、河川敷の橋の下へ戻ってくると、心配そうな顔で結たちが寄ってきた。

 肩と足を撃ち抜かれた感覚が、まだ残っている那由多はまだ気分が悪そうだ。


 まだバランス感覚が戻らない那由多を、紬が肩を貸しながら座らせた。


「……あと、豪くん」


 結の視線の方へ振り返ると、一足先に現実世界に戻されていたであろう豪が、くたびれた様子で腰を落としている。


「……」


 まだ脳を撃ち抜かれた感覚が残っているのか、戦闘の混乱が残っているのか、深く俯いたまま、一言も発しようとしない。


「……あのさ」


 このまま黙っていた所で、聖也たちにとっても、豪にとっても良い方向に話が進むわけでもない。

 学校でのことや、ゲームでの失態はひとまず置いておき、聖也が豪に話しかけた。


「……僕たち皆、ゲームに強制参加させられた被害者なんだよ。豪さえよければ一緒に協力して勝ち残りを」

「――誰がテメエなんかに協力するか馬鹿」


 聖也の声を遮るように、豪が俯いたまま続けた。


「お前の力なんか死んでも借りるか。勝手にやってろ」

「……ちょっとあんた。あのザマでよくもそんな減らず口叩けるわね」


 豪の悪態に真っ先に反応したのは、聖也ではなく紬だった。


「あんたあとちょっとで那由多殺しかけたの分かってる⁈ 初心者だか何だか知らないけど、謝罪の一つくらいしたらどうなのよ⁈」

「紬、落ち着いて!」

「うるせえ愛人18号!」

「愛人18号って何よクソガキ⁈」

「……もういいよ、ほっとこう」


 殴りかかろうとする紬を、那由多がなだめる様子を見て、このチームに誘うのは無理だと判断。


 ここまでひどい目に会って、なお自分のプライド優先かよ。


 心底呆れたように、重い息を吐き出して、聖也の肩がゆっくり沈んだ。

 そして、その様子が癇に障ったのか、豪の怒りの矛先が聖也に切り替わる。


「……テメエはいつもそうだよな。そうやって人を下に見て」

「……何か誤解してない?」

「してないね。事実、自分が俺よりも上だと思ってるから、俺に協力しようとか、ふざけた提案ができるんだろ。勝ち残りのゲームで使える駒が欲しいだけだろ」

「お前が勝手に自分を下に置いてんだろ」


 あまりの話のかみ合わなさに、聖也も段々と表情が厳しくなる。

 最後の発言の言葉尻は、苛立ちによって低く濁っていた。


「もういいよ、どっか行けよ。もう2度と僕たちの邪魔するな」

「聖也もそんな言い方……」


 突き放すような聖也の言葉に、豪が大きく舌打ちをして、その場を立ち上がる。

 去ろうとする背中を止める者は誰もいなかった。暗くなり始めた河川敷を、ゆっくりと去っていきながら――


「……親がどんな教育すれば、あんな王様気取りの勘違い野郎が育つかね」


 豪が負け惜しみに吐き出した言葉に、聖也がピクリと反応した。


「……親は関係ないだろ」


 反応が返ってくるとは思っていなかったのか、豪が意外そうな表情で振り返る。


「……どうした? 親に何か思うところでもあるのかよ」

「別に、そういうわけじゃ……」

「ああそういえば、テメエ、学費ケチる目的でウチに入った苦学生だったか。金にがめついクソ親持って大変だね」


 ちょっとでも聖也の気に障れば御の字。

 そんなことを思いながら、大した考えもなしに吐いたセリフ。


 妙なゲームに巻き込まれて、散々イラつかされたんだ。これくらいいいだろ。


 ちょっとだけふざけた口調で吐き捨てて、豪がその場を去ろうとしたところ――


「……ん? ――っぐぼ⁈」


 背後からものすごい勢いで聖也に肩を掴まれ、反射的に振り返った瞬間、豪の頬に容赦のない右ストレートが叩き込まれた。


 気に障ればいい。そう思って吐いた言葉が触ったのは、聖也の逆鱗だった。


「テメエもっかい言ってみろ‼」


 今までどんな暴言を吐かれても、冷静を保っていた聖也が、怒りを顕わにして、豪に迫る。


 不意の一撃で倒れた豪の胸ぐらをつかみ、無理やり体を起こしながら、聖也はもう一発、二発と豪の顔を殴っていく。


「ちょっと落ち着いて聖也‼」

「……何しやがんだテメエ‼」


 那由多と結が聖也を無理やり剥がすと、豪もヨロヨロと起き上がりながら、顔から出る鼻血を拭い、聖也に向かって殴りかかる。


 結と那由多に腕を押さえられながらも、聖也は顔面に繰り出されたパンチを、首だけの動きで躱し、カウンター気味に蹴りを食らわせた。


 腕の回転を利用して、結たちの腕を振り払うと、よろめく豪に荒い足取りで迫っていく。


 顔や体を襲う痛みに、顔をゆがめながら、豪が拳を繰り出すも、全部寸前で避けられる。

 ならば動きを封じようと、胸ぐらをつかみ、体を引き寄せようとしたところ、その勢いを利用して頭突きをかまされた。


 自分の動きが、完全に見切られている。


 そのことに気が付いたときには、豪は聖也が繰り出す攻撃によって、再度大きく吹っ飛ばされていた。


『見事な近接戦闘だ』

『聖也氏つえー』

『まあ、銃弾を避けれるような人間ですからね』

「「呑気に観戦してないで、聖也君を止めなさい‼」」


 スキャナーから他人ごとのようにリウラたちが会話をしていると、聖也を除くそれぞれのパートナーが悲鳴に近い声を上げた。


 華奢な体つきの割に、めっちゃ力強いんですけど⁈


 3人がかりでなんとか聖也を抑える様子を見て、仕方なしにアーサーとラクナが実体化する。

 さすがに契約戦士(チャンピオン)の力には敵わないのか、聖也も「離せ‼」と抗いながらも、ラクナに羽交い絞めされて、完全に身動きが取れなくなってしまった。


「おい坊主。今のうちに逃げろ」


 あそこまで一方的にやられては、戦意も喪失してしまったのか、素直に立ち去ろうとする豪に、聖也が叫んだ。


「次、両親の事でも‼ 友達の事でも‼ 僕の大事な人のことを悪くいってみろ‼ ふざけた口がきけないよう、叩きのめしてやるからな‼」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「……落ち着いた?」


 豪が去ってしばらくした後、ようやく冷静さを取り戻した聖也に、結が語り掛ける。


「……みんなごめん」

「私たちは別にいいんだけど、ねえ……」

「ぶっちゃけあそこまで一方的だと、相手に同情するわ」


 紬の歯に衣着せぬ言葉に、聖也がガクッと肩を落とす。

 今までの態度や言葉にフラストレーションがたまっていたのは事実だったが、あそこまで激しく爆発するとは、自分でも思っていなかった。


 今まで気にしないように努めていたのに、最後の最後で、暴力という最悪な形で相手にぶつけてしまった。


 橋の下で蹲る聖也に、スキャナーからラクナが慰める。


『私は良いと思いますけどね。愚か者にはいい薬になったと思いますよ』

「限度ってものがあるでしょーが」

『私たちの世界の者は、割と暴力には寛容なので』

「あんたたちの世界どんだけ荒んでたのよ……」


 そういえば、アーサーも呑気に観戦してたし、リウラも止めようとはしなかった。

 リウラたちの世界の、治安を想像した面々の頬がひきつった。


 ……明日どんな顔をして学校に行こう。


 そんなことを考えながら、聖也がふと顔を上げると――


「アウ……」

「……君は」


 いつの間にか、自分の目の前に、豪の契約戦士(チャンピオン)【零戦士 ゼロム】が立っていた。


 なんのスキルも持っていない、聖也たち人間よりも弱い戦士。


「どうしたの?」

「アウ……ア……」


 体育座りをしながらでも、目線をほとんど上げる必要のないほどの、小柄な戦士に尋ねるも、かすれた言葉なっていない声が聞こえるばかりで、何を言ってるのかわからない。


「アーサー、この子何て言ってる?」

『いや、俺氏にもわからんよ』

『私にもさっぱりです』


 那由多が訊ねるも、アーサーもラクナもお手上げといった様子だ。

 言葉は分からないが、ゼロムが必死に何かを伝えたがっているのは分かる。

 一体どうしたものかと、皆が頭を悩ませていた所だった。


「何だ。稽古をつけてほしいのか?」


 リウラが実体化して、ゼロムと正面から向き合った。


「え、リウラ。言ってること分かるの?」

「ウム! 会話とは魂で行うものだからな!」


 何の説明にもなっていない回答に、一同が感心ではなく、呆れた声を漏らした。


「アウ……アウア……」

「ああ、すまない。俺は今、記憶喪失でな。この姿も記憶喪失が原因らしい」

「アウアウ…… アウアウ……」

「ちょっと、二人で会話してないで、私たちにも説明してよ」


 二人の会話に那由多が割って入ると、リウラが改まったように咳払いしてから、皆の方へと向かい直る。


「……どうやら聖也。お前に戦闘を習いたいみたいだぞ」

「はあ⁈ 何で僕⁈」

「先の戦いでの立ち回りや、豪を退けた時の身のこなしに、光るものを感じたらしい。それにこの者は、前の世界での、俺の弟子のようでな。同じ師を持つ者に指導を受けたいそうだ」

「じゃあリウラが教えなよ⁈」

「まだ足しか復活していないからな。流石に無理だ」

「アウアウ……」

「むむ、それは本当か?」


 何やら惹かれるものがあったのか、ゼロムの言葉に、リウラの表情が明るくなる。


「稽古の礼として、俺の『記憶』を渡そう、ということらしいぞ」

「……リウラの記憶⁈」


 突然現れた、リウラの記憶を持つ契約戦士(チャンピオン)


 予想外の所から現れた、リウラ復活の手掛かりに、聖也は戸惑った表情で、結たちと顔を見合わせるのであった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ